3.チェックメイト。
「賊だ! ――賊が出たぞぉ!」
誰かが叫んだ。
すると瞬く間に、ホールはガラの悪い屈強な男たちに占拠される。
他の貴族が逃げ惑う中、リターナとダイスはその中心で取り囲まれるような形になっていた。一通りの客が逃げた後、場には静寂が降りてくる。
「ほう、逃げなかったんだね?」
すると、そんな声が聞こえてきた。
見れば階段を降りてくるシオンの姿がある。
彼の口元には邪悪な笑みが浮かんでおり、リターナたちを見下してた。
「せっかくだし、そこのガキの存在を利用させてもらうことにしたよ。キミたちを始末した上で、今回の騒動がガキの手引きということにすれば、シンデリウス家の失脚は確実なものになるからね!」
「………………」
悠然として語るシオンを、リターナとダイスは見つめる。
そして、おもむろにこう口を開いた。
「この方たちは?」
その問いかけに、シオンは鼻で笑って答える。
「あぁ、俺が金で雇っている貧乏人だよ。普段は街で盗人をしている、卑しい人間たちさ」
「それは、しているのではなく、させている――では?」
「あっはっは! 大差ないさ!」
リターナの指摘に、大声で笑った青年。
そして、こう言った。
「それに、このことを知ったキミたちは、ここで死ぬんだからね!!」
シオンは大仰に腕を前に突き出して指示を出す。
「さぁ、卑しい者同士で醜く争うといい!」――と。
ホールに、彼の声が木霊した。
だが――。
「……なに? どうした、お前たち」
賊の男たちは、動こうとしない。
それどころか沈んだ目で、シオンのことを見上げていた。
「ええい、言うことが聞けないのか!? なにをやっている!!」
そんな彼らに向かって、必死に声を張り上げる。
すると、口を開いたのは――。
「――チェックメイト、です」
ダイスだった。
「チェックメイト、だと……?」
「はい、そうです」
眉をひそめるシオン。
対して少年は、堂々とした雰囲気で語り始めた。
「ボクとリターナさんはこれまで、依頼を受けて盗賊団の行動や、その傾向を探っていました。その結果から、ボクは貴方が主犯だと判断したんです。陰から盗賊団を操り、私腹を肥やす貴族の正体は貴方に他ならない、と」
「な、に……?」
「服を仕立てに行ったのは、そのついでに貴方のことを確認するため」
「ついで、だって……!?」
「はい、そうです」
ダイスの言葉に、表情を歪めるシオン。
しかし、少年は表情を崩すことなく頷いた。
「その後に、ボクは盗賊団の皆さんに交渉をしました。こちらにつくのであれば、今までの罪は最大限軽くすること。そして、生活の保障をすることで」
そこで彼はようやく、視線をまっすぐシオンに向ける。
対して青年は激昂した。
「そんな馬鹿なことが、あってたまるか!! そもそもお前のようなガキに、そのような権限があるはずがない! 国王でもない限り――」
「その、まさかですよ」
「な、に……?」
そんなシオンの言葉を遮ったのは、リターナ。
彼女は静かにこう告げた。
「このことは、すでに国王陛下に報告済みです。貴方を捕らえる権限も、私とダイスに一任されていますので、覚悟してくださいね?」――と。
いつにない、愛らしい満面の笑みで。
それを見てシオンは、がっくりと膝をついた。
「そんな、馬鹿な話……!」
「まんまと餌にかかった、可哀想な罪人さん? これで――」
そんな彼に、リターナはダイスの言葉を借りて。
「チェックメイト、です」
そう、宣告した。
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