2.招かれたパーティーで。
――それから数日後。
リターナとダイスは、王城へと招かれていた。
その理由というのはやはり、貧困街の少年を養子としたことについて。国王であるダンは、比較的リターナに対して寛容ではあった。
されども、今回に至ってはやりすぎだと指摘したのである。
もっともそれは、名目上でのことだったが。
「……して、リターナ。聡明なキミのことだ、理由があるのだろう?」
謁見の間にて。
他に衛兵などもいない場で、優しく国王は語り掛けた。
「えぇ、国王陛下。理由は当然にございます」
それに対して、いつになく恭しい態度で答えるリターナ。隣にいるダイスは、さすがに緊張した面持ちで様子を見ていた。
そんな少年に対しても、国王は目を細めて笑いかける。
「ダイスと言ったか。緊張せずとも良い」
「いいえ。一国の主たる御仁を前にして緊張しないほど、ボクは大人ではございません。どうか、言葉数少ないことをお許しください」
「はっはっは! ずいぶんと出来た少年ではないか!」
ダイスの答えに、ダンは大声で笑った。
そして玉座より少年のもとへと歩み寄り、その頭を撫でる。
「どうやら、見つけ出したようだな?」
「…………はい」
国王は静かに、リターナへと訊ねた。
それに小さく頷いて、彼女は一つ息をつく。
「本題に入らせていただきます」
そして、ゆっくりと語り始めた。
◆
「――やあ。まさか、本当に来るとはね」
「せっかくお招きいただきましたから。今日は楽しませていただきます」
「…………ふん。つまらない」
さらに、数日後のことである。
リターナとダイスは、伯爵家主催のパーティーに招かれた。
そこで出迎えたのは当然、シオンだ。彼は二人を認めると、やはり小馬鹿にしたように笑ってみせる。しかし意にも介さない聖女に、シオンは唇を噛んだ。
「ところで、今日はどのような風の吹き回しですか?」
そんな彼に問いかけるリターナ。
するとシオンは、一つ鼻で笑ってこう言うのだった。
「あの日、ボクを馬鹿にしたことを後悔させてやろうと思ってね」
「あら? ずいぶんと根に持つのですね」
「ふん……。そうやって、笑っていられるのも今のうちだ」
売り言葉に買い言葉。
シオンは最後に捨て台詞を吐くと、去っていった。
彼が見えなくなってから、リターナは小さな声でダイスに話しかける。
「緊張してる?」
すると、少年は首を左右に振った。
「いいえ。リターナさんに教えていただいたこと、しっかりとやれば大丈夫だって、分かっていますから」
「そう、良かった」
言って彼は確かめるように、リターナにこう訊ねる。
「いいんですね?」――と。
聖女はそれに、小さく微笑んで答えるのだった。
「えぇ、もちろん。だから、それまでは――」
少年の手を取って。
「一緒に、パーティーを楽しみましょう!」
◆
それからしばらくして、優雅な曲が流れ始めた頃。
踊り場では、リターナとダイスが見事なダンスを披露していた。他にも多くの者たちが踊っているものの、二人のそれは独特ながら美しい。
それを二階から見下ろすシオンは、忌々し気に唇を噛んだ。
「くっ……。小生意気なガキが」
彼の算段では、ここで二人が無様を晒すはずだった。
しかし蓋を開けてみれば、そこには大勢から喝采を浴びるリターナたち。シオンにとっては、そのことが不愉快極まりなかった。
だから、一つ使用人に指示を出す。
「よろしいのですか?」
「あぁ、許す。だから――」
青年は、口角を歪めてこう言った。
「徹底的に、潰してやれ」――と。