プロローグ 最低の聖女。
異世界恋愛に挑戦。
温かい目で見てやってください<(_ _)>
新作です。
「き、キミみたいな女とは婚約破棄だ! ――次代の聖女だと聞いていたが、こんな荒くれ者を相手にしてたまるか!!」
一人の年若い貴族男性が、そう言って部屋を飛び出していった。
残されたのは同じく若い貴族令嬢と、その両親。令嬢を除いた二人は頭を抱えて、大きくため息をついた。
そして父親は娘に向かって、一言こう口にする。
「リターナ……。どうして、お前はそうなんだい?」
「どうして、とは?」
すると令嬢――リターナは、ちっとも分からないといった様子で首を傾げた。強気な印象を受ける端正な顔立ちに、少しだけ疑問の色が浮かぶ。
長い金の髪は滑らかに、その動きに合わせて揺らめいた。
赤い瞳で渋い顔をする父を見て、こう続ける。
「私は私の考えを伝えさせていただいたまでです。今回は残念ながら、ご理解いただけなかった、というだけではないでしょうか?」
「うん、まぁ……。わたしもお前の性格はよく分かっているつもりだよ」
対して父は、ただ……、と言葉を一度切ってから言った。
「あまり、貴族の娘が貧困街に足を運ぶのは、いただけないと思うのだが。その辺りは、考え直してもらえないのかね?」
「…………」
それを受けて、リターナは顎に手を当てて考え込む。
そうなのだ。この貴族令嬢であるリターナは、頻繁に屋敷を抜け出しては王都の貧困街に赴いていた。しかも一度や二度ではない。
幼いころから幾度となく、忠告を受けてもそれを繰り返していた。
そのため、他の貴族からの評判は良くない。
「なぁ、母さんからも言ってやってくれないか」
「そうですねぇ……?」
父親はそのことに悩み、ついに妻に助けを求めた。
すると、おっとりとした仕草で母は頬に手を当ててから言う。
「リターナちゃんに、したいことがあるのなら良いんじゃないかしら?」
「お前までか……」
――が、どうにもいかなかった。
がっくりと肩を落とした父は、生気のない目で娘を見る。
「なぁ、リターナ? 我がシンデリウス家は、この王都に長く続く貴族の家系なんだ。その娘の行いは、色々なところに影響が出るのだよ……」
そして、最後の訴えを試みる。涙目で。
するとそこに至って、リターナはこう言うのだった。
「なるほど……。たしかに、そろそろ限界ですね」
「おぉ! 分かってくれたか!」
「えぇ、分かりました。ですが、お父様? 明日――最後に一度だけ、貧困街に足を運ばせていただけないでしょうか」
「あぁ! 最後だな! 本当に、最後だな!?」
「はい、もちろんです。そして、どうか聞いてほしいお願いがあります」
「いいさ、何でも聞こうじゃないか! お前が破天荒をやめてくれるなら!」
「ありがとうございます。感謝いたします、お父様」
父は歓喜する。
これでようやく、頭痛の種がなくなってくれると。
そして、肩の荷が下りたと言わんばかりに、しみじみとこう言った。
「うんうん、分かってくれて助かるよ。それでこそ――」
心からの期待を込めたような、視線を娘に向けながら。
「次代の聖女に選ばれた、自慢の娘だ!」――と。
◆
王都には、教会の選定によって選ばれる聖女が存在する。
神の言葉を聞くことのできる神官が、その赤子が生まれた時に告げるのだ。そして、次代の聖女として選ばれた少女こそ、リターナ・シンデリウス。
その生誕は国民全員によって祝福され、絶大な期待を受けていた。
「ふぅ……。懐かしいな、あれからもう十八年か」
その父こと、ダニエルは葉巻を吹かしながら目を細める。
次代の聖女ながら悪名高かった娘の行いからも、本日をもって解放されるのだ。これ程までに心の透く出来事が、他にあるだろうか。
「ふむ……。しかし、リターナの言っていた願いとは、なんだろうか」
と、そこまで考えてから。
ふと娘が昨日、口にした言葉を思い出した。だが、
「まぁ、そんな大したことではないだろう」
深く考えることは、なしにした。
きっと、リターナもこれ以上は何もしでかさないだろう。
そう、ダニエルは思っていた。
その時だ。
「お父様、お願いがあります!」
リターナが、勢いよく扉を開けてそう言ったのは。
父が見るとそこには、娘の姿以外にもう一つ。小さなシルエット。
「な、なんだ!?」
そして、目を疑った。
立ち上がって見るとそこにいたのは、明らかに貧困街出身の一人の少年の姿。ボロボロの衣服に、ぼさぼさの黒い髪。清潔感など微塵も感じられなかった。
そんな少年を見ながら、リターナはこう叫ぶように願い出る。
「この子――ダイスを、シンデリウス家に養子として迎えてください!」
ダニエルの意識は、一瞬遠退いた。
そして改めて思うのだ。自身の娘は、やはり――。
「最低の、聖女だ……」――と。
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