初めての称号
「…………称号? なんだろう、これ」
深い闇の底から生還を果たした、みのりんは、目の前に表示されたウインドウを見ながら一人、呟いた。
辺りは日が沈んで、すっかり暗くなっているが、月や星々の明かりに照らされているため、穴の中よりはマシだ。
同時に、今のみのりんには、とあるシステムも働いていたため、周囲の景色が昼間と変わらない程度には鮮明に見えていた。
そうでなくとも、ウインドウは薄っすらと発光しているため、表示された画面を見るのに不都合はなかっただろうが。
さて、そのウインドウだが、定型文の見出しの下には、こんな表示があった。
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獲得称号
☆【奈落の住人】
効果:暗い場所でも、
通常時と変わらない視界を得ることができる。
また、暗闇の状態異常を無効にする。
獲得条件:地下最深部まで掘り進んだ上で、
明かりを点けずに1時間以上、活動する。
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「な、なんか良い感じの能力を手に入れてしまったよ。疲れはしたけど、ただ穴を掘って、水に流されただけなのに……」
みのりん自身は大した困難もなく能力を手に入れた感覚だが、この称号を手に入れられるプレイヤーは極めて稀だ。
このゲームにおいて、特定の条件を満たすことで獲得できるスキルや称号の情報は、非常に貴重であり、基本的に出回ることがない。
つまりは自力で発見するしかないのだが、その条件は普通にゲームをプレイするだけでは、満たせないものが多いのだ。
今回、手に入れた称号もその一つ。
なにせ、わざわざ最深部まで穴を掘るプレイヤーが、まずいない。
仮に宝探しか何かで地面を深く掘り進む状況があったとしても、宝が見つからないか、あるいは最下層に行き着いて閉じ込められれば、普通にログアウトして脱出してしまう。
そんな状態に陥った上で、暗闇の中、明かりも無しで活動するプレイヤーなど、ほぼ皆無だろう。
「まぁ、称号が貰えたのは嬉しいけど、私はそれより休みが欲しいよ。とりあえず、今日のところは帰って早く寝たい……」
自分の希少性(あるいは異常性)に気付かないみのりんは、手に入れた称号のことは軽く流し、スタスタと街への帰路に就く。
あの、謎の場所について考えるのも、ひとまず後回しだ。
やがて、街の門のところまでたどり着いたみのりんは、近くにいた門番に話しかけた。
「すいませーん。ログアウトって、どうやればできますか?」
これで正確な答えが返ってくるとは、みのりん自身も思っていない。
駄目でもともと、期待半分だ。
「すまないが、私では、その疑問に答えられそうにない。だが、知りたいことがあるなら図書館に行ってみてはどうだ? この街の図書館なら大抵の情報は手に入るぞ」
しかし意外にも、門番は貴重な意見と、図書館までの詳しい道のりを教えてくれた。
普通、ゲームのNPCは、決まったことしか喋らないもの。
ところが、このゲームはNPCに独自のAIを搭載しており、簡単な受け答え程度なら、どのキャラクターでも可能だ。
一部の特別なNPCに至っては、人間と区別がつかないくらい自然な会話が出来るとも言われている。
「ありがとう、お兄さん! お仕事、頑張って下さい!」
「ああ、ありがとう。君も、この街の発展に力を尽くしてほしい。お互い、頑張るとしよう」
別れの挨拶まで、きっちりこなした門番さんに感心しつつ、みのりんは図書館へ向かって足を速めた。
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Name:みのりん
Job:冒険者
Level:1
HP 100/100
MP 100/100
攻撃力 10
耐久力 10
技術力 10
機動力 10
魔法力 10
運命力 10
☆獲得スキル
なし
☆獲得称号
【奈落の住人】