2人の嫉妬と劣等感
「……思えば嫉妬していたんだろうね。大した実力もないのに、誰かに囲まれ、頼られ、認められていた彼に」
麻痺毒に犯された階層を降り、しばらく無言になっていたベイドが、ポツリと呟く。
ほとんど独り言のような声量だったが、距離が近い上に通路も狭く、音が反響しやすいため、みのりんは難なく聞き取れた。
「あー、私達が初めて会った時のラックさんのこと? だから突っかかってきたの?」
「ああ。その時は正体の掴めない不快感に戸惑うばかりだったけれど、今なら分かる。僕は、何者にもなれなかった自分に、彼を重ねていたんだ。なのに、彼には僕と違って居場所があった。それが腹立たしくて仕方なかったんだね」
正直な所、ベイドの告白は、かなり意外なものだった。
少なくともラックは、ベイドに対して憧れに近い感情を抱いているようだったし、彼と自分を比べて劣等感も覚えていた。
しかし、そんなベイドもまた、ラックと自分の境遇を比較して、彼に嫉妬していたという。
案外、二人は似たもの同士なのかもしれない。
とはいえ、本人の許可もなく、勝手にラックの心の内を明かす訳にはいかないだろう。
なので、感じた驚きを隠したまま、みのりんは会話を続ける。
「ベイドさんは居場所が欲しかったんだね。自分を認めて受け入れてくれる居場所が」
「ハッキリ気付いたのは、つい最近だけどね。どうやら君が言うように、僕は“甘ったれ”だったらしい。人に歩み寄る努力もせずに受け入れてほしいと願うなんて、図々しいにも程がある」
「そう思ったんなら、これから少しずつ変わっていけば良いんじゃない? ベイドさん、まだ若いんだし、人生まだまだ長いじゃん」
「僕より年下の君が、それを言うか? 君の方が長いだろうに」
少し呆れたように、けれど、それ以上に嬉しそうな笑みを、ベイドは浮かべている。
そんなベイドに、少し複雑な気持ちを抱きつつ、みのりんは口を開く。
「まっ、細かいことは言いっこなし。そんなことより、ベイドさん。家族のことは、どうするの? まさか、このまま放っておく訳じゃないよね?」
「それは……。しかし、今更どんな顔をして会えば」
怖気づいたように肩を震わせ、口ごもるベイド。
そんなベイドに喝を入れるべく、みのりんは力いっぱい、その背中を叩いた。
「家族と会うのに顔色なんて気にしなくて良いの! それに、ベイドさんが一番、認めて欲しい相手は家族でしょ? ベイドさんにとって一番、大切な居場所も、そこにあるんでしょ? だったら、そこを乗り越えない限り、前には進めないんじゃないの?」
「む、むぅ。それは、その通りかもしれないけども……」
「よし! じゃあ、こうしよう! 一人で行くのが怖いなら、助っ人がいればいいよね?」
未だに歯切れが悪い反応のベイドに、腹を括らせるべく、みのりんは、ある秘策を持ち出す。
それが実現するか否かは、これからの行動次第だが、今は勢いが大切な場面だ。
ここでは、細かい内容は伏せて、一気に攻め落とすことに。
「そ、そういう問題ではない気がするが……。でも、確かに君が一緒に来てくれるなら……」
「なに言ってるの? 一緒に行くのは私じゃないよ。もっと適任がいるし」
「えっ……誰のことだ?」
「さて、そうと決まれば急いでダンジョンを攻略しなきゃ! ベイドさんの話を聞いて、ラックさんの問題も解決策が見つかったし!」
「ちょ、待て! 人の話を聞けぇぇぇ!」
一人で勝手に話を進め、ついでに足も進めた、みのりんを、ベイドが必死に追いかける。
そんな二人の行く手を阻むモンスターは、ことごとく光の粒子と化し、ダンジョン攻略は急ピッチで進行していくのだった。




