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潜水館の殺人  作者: 菱川あいず
事件
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8/18

最初の被害者

 広間の水が引き始めたのは,朝の9時。

 広間に水が溜まり始めてからちょうど12時間後だった。

 

 もしかするとこの館は,潮の満ち引きのように,12時間周期で水が溜まったり抜けたりを繰り返すのかもしれない。

 完全に水が捌けきるまで,さらに2時間弱を要した。

 

 水が引ききると同時に,客室に半日以上も閉じ込められ,退屈した兄弟姉妹が続々と広間に集まってきた。誰一人として館で宿泊をすることを想定していなかったため,着替えを持ってきてるものはおらず,みな昨日と同じ服を着ている。


 

 広間の床は,湿ってはいたが、つい先ほどまで「海」だったとは思えないくらいに、水は無くなっていた。

 天井にある巨大な換気扇のおかけである。


 窓から観察していたところ,水は,流れ込んできた穴から流れ出ていっていた。



「すごい仕掛けだな」


 椅子に腰掛けながら,一郎が言う。



「そうね。まるで人魚姫になった気分だったわ」


 すでに椅子に座っていた三枝が,目を輝かせる。



「女はノーテンキでいいな」


 広間には二郎を含めて兄弟姉妹が4人集まっていた。四郎は相変わらず誰とも目を合わさずに,椅子に座っている。



「よし,遅めの朝食,といいたいが,誰か食べ物を持ってる奴はいないのか?」


 一郎はウイスキーを持ってきたものの,食料は一切持ってこなかったらしい。



「僕が持ってます」


 四郎がバッグから乾パンを出す。



「非常食じゃねえか」


「館で何が起こるか分からなかったので…」


「一郎兄さん,文句を言わないでありがたくいただきましょうよ」


「しゃあねえな」


「それより,朝食をとるなら,全員集合してからにしようよ」



 二郎が発言する。



「五郎がまだ広間に来てない。もしかしたらまだ寝てるのかもしれないから客室に迎えに行こう」


「じゃあ,二郎,お前が迎えに行けよ」


「分かった」



 二郎は,5と書かれた客室へと向かう。

 時刻はすでに11時近く,こんな時間まで寝坊するということは考えにくかったが,もしかすると,五郎は水が溜まった広間の様子が気になってあまり夜眠れなかったのかもしれない。



 二郎は,トントンと2回ドアをノックした。


 しかし,しばらく経っても,五郎は反応しなかった。



「おい,五郎,起きてるか。いるなら返事をしろ」


 ドアの外から呼びかけたものの,やはり返事はない。



「二郎,開けちゃえよ。デリヘル嬢連れ込んでヤッてるってわけでもないんだから,見られて困ることはないだろう」


 一郎から品のないヤジが飛ぶ。



「とりあえず,窓から様子を確認してみる」



 二郎は,ドアについている窓から,客室の中の様子を確認した。


 あまり視野は広くなく,床の部分については見えないが,少なくとも石のベッドの上には五郎の姿はなかった。


 一体どこにいるのだろうか。


「おい,五郎!! 何か返事しろ!!」



 大声で呼びかけたが反応がないことを確認し,二郎は五郎の客室のドアを引いた。




 開けたドアから見えた光景に,二郎は言葉を失う。



「二郎兄さん,どうしたの? 五郎はいるの?」


 そう言って,三枝が二郎の背後から部屋の様子を見る。



「……え,嘘でしょ。そんな……」




 客室では,五郎が仰向けで倒れていた。



 部屋には血痕は一切ない。



 しかし,五郎の首にはパックリと割れた傷痕があった。




 二郎は,五郎の駆け寄ると,脈拍を確認しようと五郎の腕を持ち上げる。腕は真っ白であり,蝋人形のように冷たい。

 予感した通り,すでに脈拍はなかった。



 ついに潜水館の「危険な仕掛け」が,5人の子どもたちに牙を剥いたのである。


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