勝負
犯人は,居間にできた「海」を,なるべく飛沫を上げないようにゆっくりと泳いでいた。
格好は泳ぎやすいように下着姿であり,手には切れ味の鋭いナイフを握っている。
すでに2人の命を奪ったナイフである。
犯人が向かう先は,今日のターゲットがいる部屋,数字の2のナンバーが書かれた部屋である。
犯人は目的の部屋の前までくると素潜りをした。
そして,二郎のいる客室のドアノブを捻ると,ドアを引いた。
ドアは何の抵抗もなく,いとも簡単に開いた。
しかし,部屋の中にはすでに誰もいなかった。
犯人は二郎がいるはずの部屋の中を隅々まで泳ぎ,二郎の姿を探した。
しかし,二郎の姿はどこにもなかった。代わりに,二郎が着ていた洋服が浮かんでいる。
このとき,犯人はようやく気が付いた。
犯人が訪れるよりも先に二郎が部屋から脱出していることを。
犯人は広間に戻ると,二郎の姿を探した。
水面からは何も確認できなかったため,素潜りをし,決して良くない視界の中,二郎を探した。しかし,どこにもいなかった。
-そんなはずはない。
この館の出入り口のドアは水圧によって開けられない状態にある。二郎が館から逃げたはずはない。
それに,現在,二郎の部屋以外の部屋も,水圧によって密室となっている。
二郎がいるとすれば,二郎の部屋か,もしくは広間しか考えられないはずだ。
-いや,待てよ。もう一つ開いている部屋があるではないか。
このことに気付いた犯人は急に焦り出す。
ダメだ。あの部屋にだけは二郎を入れてはいけない。
あの部屋には,犯人しか使ってはいけない「秘密の道具」があるのである。
犯人は急いでその部屋-犯人の部屋へと泳ぐ。
そして,素潜りをし,ドアノブを引く。
-しかし,ドアはビクリともしなかった。
その部屋はまた「密室」に戻っていたのである。
-やられた。
ドアの窓から,自分同様に下着姿となっている二郎が,犯人に対して満面の笑みを見せる。
犯人はこの殺人ゲーム-正次郎の遺産争いに負けたのである。




