調査
恐怖と混乱の最中にあった4人は,それまでのように話し合うこともせずに,それぞれにただ黙って日中を過ごした。
トイレは館の中にはなく,館の外に簡易式のものが付いていた。用を足すときのみ4人は館の外に出たが,それ以外には4人は基本的に広間や客室を行ったり来たりして過ごした。
ちょうど夜の9時になると,また,広間の両脇の足元の壁から水が噴き出してきた。
その瞬間に広間にいたのは,またしても一郎と二郎だった。ただし,今回は2人ともシラフである。
「また来たな」
二郎が久しぶりに声を発する。
「ああ。そうだな。今度はもう部屋にいる三枝と四郎に伝える必要はないだろうな」
二郎が頷くと,一郎は自分の客室の方に歩き出し,
「二郎,じゃあな。翌朝お互いに生き残っていることを祈るよ」
と二郎に手を振り,客室の中に入っていった。
その背中を見送ると,二郎も自分の客室に入った。
次のターゲットが自分である可能性は十分にある。ランダムだとしても4分の1の確率である。
五郎が死亡した原因が未だに分からないため,手の打ちようはないかもしれないが,二郎は,できることは全てしようと考えた。
まず,隠し部屋への通路が二郎の部屋にあるか否かを調査する必要があった。二郎は自分の部屋のありとあらゆるものに触れ,力強く押してみた。
しかし,五郎の部屋と同様,何の反応もなかった。二郎の部屋にも隠し通路はないようである。
次に,ドアと水圧との関係についても実験してみることにした。
広間の水位が膝の高さのときには,それなりの力は必要ではあったが,ドアは開いた。
しかし,水位が腰の高さまでくらいまで来ると,ドアはビクリともしなかった。突進をしても無駄であった。
つまり,水位が腰の高さまで来た段階,すなわち浸水から1時間足らずで,客室は密室になるということである。
そこまで確認したところで,二郎には何もすることがなくなった。
しかし,うかうかと眠っている場合でもない。死の危険はいつどのような形で自分に襲いかかってくるのか分からないのである。夜通し起きている必要があるだろう。
なので,二郎は,石のベッドに横になることをせず,ドアの方に向かってずっと仁王立ちしていた。
ドアの窓から見える景色に変化がないかも常時確認し続けた。水位はやはりドアから10センチほどの高さで止まった。
結論から言うと,この日の夜から朝にかけて,二郎の身には何も起きなかった。
この日のターゲットは別の兄弟姉妹だったのである。




