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第四話。始まるお問合せとその結果。

「お嬢さん、驚いたことがあるんだが」

「なん、ですか?」

 な……なにを聞いて来るつもりだろう?

 

「あの分厚く高い雪の壁の先に、見事な階段状の雪の壁が続いていた。それもどこからでも上れるように、外周の壁に沿ってだ」

 そりゃ、疑問だよね。あたしも初めて見た時驚いたもん。

 

「全部を見たわけじゃないが、見える範囲がそうだったなら全体がそうなってると考えるのが自然だろう? あれはいったい誰が作ったんだ?」

 遅かれ早かれゴーレムたちは見せることになるんだから、自分からこんな仲間がいますって言うより自然にゴーレムたちを見せる流れに行けた……って、考えるべきかな?

 

「そうですね」

「君とブランドラだけでこの広さを回り切ることはできないし、あの完成度にはならない」

 もう一回、そうですねって頷きながら言って、あたしは「あの、入り口に通り道、作ってもらえますか?」ってお願いする。

 

 今この町騎士の三人は、入り口の真ん前にいて出るも入るもできない状態になってるんだ。

 

「中に、誰かいるのか? まったく物音がしないんだが」

 不思議そうに首をかしげる騎士の人、そうだよね。まあいるのは人じゃないんだけど。

 

 頷いたあたしに半信半疑だけど、三人は左右に移動、ドアの前を開けてくれた。

 フランは最初から入り口の横にいるからまったく触れてません。心配そうな顔はしてくれてるんだけどね。

 

 ーー生唾を飲む。乾いて殆どなにも飲み込めなかったけど。思った以上に緊張してるんだな、あたし。

 

 静かにゆっくりと大きく息を吸う。ちょっと喉が痛い。

 

「みんな、出てきて」

 思ったよりちょっと声がおっきくて、自分でびっくりしちゃった。ドア越しだけど聞こえてるかな?

 

「ほんとだ、足音がする。それも、何人か分の」

 たぶん魔法使いの人が、目を見開いてドアに顔を向けた。ミナファさんと騎士の人も同じだ。

 

「……え?」

 ドアを開けて出て来た者に、まずミナファさんがきょとんとした声を上げた。

「これは……」

「白いゴーレムの……行列?」

 大中小のスノーゴーレムが、ゾロゾロ家の中から出て着たら、こう言いたくもなるよね。

 

「ん?」

 更に一匹、ミミナガリスを乗せた子供ブランドラ ドラちゃんがちょこちょこっと出て来たのを、ミナファさんが見つけたみたい。

 

「わぁ、かわいい」

 また女子な雰囲気、素のミナファさんな雰囲気で、キラキラっとドラちゃんを見つめている。うん、その気持ちすっごいわかる。

 

 ミナファさんのこの乙女状態のおかげで、緊張感が柔らかくなってくれてるから、あたしとしてはそういう意味でありがたい。

 

「おいで」

 しゃがんで声をかけているミナファさん。それに答えてちょこちょことそっちに行くドラちゃん。

「おいおい、今は仕事中だぞ」

 とは言うけど、騎士の人は苦笑してるし声の調子からして本気で咎めてるわけじゃないみたい。

 

 

「ところで。だ」

 気を取り直してこっちを向いた騎士の人、その表情は厳しい物で、あたしはいっきに心臓を掴まれたような苦しさに襲われた。

 

「これを、君が作ったのか?」

 おそらく、これって言うのはスノーゴーレムたちのことだろう。緊張感に言葉が出なくて、でも返事はしないとで。

 あたしはなんとか首を横に振ることで答えた。

 

 ーー寒い。空気じゃなくて、たぶん緊張感で。血が冷えてるような感覚で、内側から、寒い。

 

「だが、君の言うことを聞いて家から出てきている。ゴーレムとは創造主の命令に従う物のはずだ。なら、君が作り出した以外にこの行動はおかしいんじゃないか?」

 たしかにそう。ゴーレムはそういう物って言うのが、世間一般の話。でも、うちのスノーゴーレムは自分で考えて動いてる。

 

 そうじゃなかったら、あたしがなにも言わないのに除雪作業なんてしてはくれないはずだ。

 

 

「あたしにも、よくわかりません。ただ、あたしは自分の意志でゴーレムは作れません。そんな魔法の使い方、知りませんから」

 

「ならどうして、こんなにいる。君の魔法が暴走して、

この冬の足跡と呼ばれる領域が形成されたと言うのは、君の父上から聞いているが。

まさか、暴走ついでにポンと生れ出た、なんて話じゃないだろう?」

 

 実際は似たようなものだ。あたしがスノーゴーレムたちを生み出したわけじゃない。言わば“生えて来た”のだ。

 

「これを言って信じてもらえるかはわかりませんけど」

 一つ深呼吸。そして、思い切って言った。

 

「ーー生えてきました」

 

「……なんだって?」

 当然の反応だろう。あたしも初めてゴーレムが立ってるのを見た時、我が目を疑ったぐらいだし。

 

 

「えっと。生えて来たんです。その現場を見たわけじゃないですけど、それ以外に言い様がなくて」

 

「……と言うことはなにか? 君の魔法の暴走で降り積もった雪は、その蓄積が者を生み出すような効力を持っている。

とでも言うつもりか?」

 

 信じられないってその表情が語っている。たぶん魔法使いの人も、目をパチパチしている。

 ミナファさんは、こっちに目だけを向けながら、ドラちゃんのもふもふを堪能中だ。フランは不安そうである。

 

「……そう、なります。よね?」

 自信がないけど、事実がそう語っている。だから、力なく相手を見ながら小さく苦笑いするしかない。

 

「雪が降り積もっている範囲も非常識に広いが。そんなこと。ありえるのか?」

「本人の言うことを信じるとするなら、そうだな」

 

「指輪、リストリクトリングが装飾部分どころか全体が光ってる時点で、シュネーちゃんの魔力は常識で量れないと思います。

常識で量れないなら、どんな効果がこの雪に付与されてるのかはわからないんじゃないですか?」

 

 思わず見ちゃった。ミナファさん、仕事状態に切り替えられるんだ。

 あんなにきゃーってなってたのに。すごい、これが大人の余裕……なのかな?

 

 で。今の言葉って、もしかして。ーー助け船……かな?

 

「たしかに、そうか。今のところ、ゴーレムはなんの動きも見せていないしこの子も特に攻撃性を持っているようには見えないし。危険は、ない。か」

 

 あたしの降らせた雪が衝撃すぎるのか、言葉が少し途切れ途切れになってる。

 

「どうやら、問題は、なさそうか。その有り余りすぎる魔力と、その魔法には嫉妬するけどな」

 たぶん魔法使いの人は、そう言う。その顔は、ほんとに悔しそうで、思わず笑っちゃった。

 

「その力、うまく制御できるようにならないと、君自身も困るだろう?」

「はい。だからこの指輪で制御の修行してました。今日やっと雪を止ませることができたんです」

 

「そうか。これからも、その修行。続けるんだぞ」

「わかってます」

「よし。じゃあ、問題なしってこともわかったし、帰るとするぞ」

 

「そうですね」

 残念そうに、ミナファさんはドラちゃんを一なでして立ち上がった。

 

「そうだな」

「ママンドラに足跡外まで運んでもらいましょう」

 ミナファさんが言うけど、二人は首を横に振る。

 

「どうしてですか? 歩いてたら夜になっちゃいますよ?」

「せっかくだ。帰りはゴーレムに運んでもらおうじゃないか」

「あ、ああ。そういうことですか」

 苦笑いするミナファさん。あたしとフランもおなじくだ。

 

 そんなわけで、一番大きなゴーレムに男の人二人を持ち上げてもらって、あたしとフラン ミナファさんは歩いてついていくことになった。

 

「けっこう、足早いのねゴーレムって」

「でかいからな」

 緊張感から解放されたのか、フランが久しぶりに口を開いた。でも、その声はまだ緊張が乗っている。

 

「ミナファさん、よくしっかり歩けるなぁ」

「この辺りは外側に比べると雪が浅いからね」

「なるほど、それで足が見えるんだ」

 

「この領域のあるじがなんで地形把握できてねえんだよ」

 からかい声で言われて、思わずむっとするあたし。

「しょうがないでしょ、足元なんて踏ん張るだけで見ないんだから」

 

「まあまあ、口喧嘩しない」

 宥められて急に恥ずかしくなっちゃった。顔が熱い。

 

「なんで顔赤くなってんだシュネー。暑くなんかねえだろ?」

「なんでもないわよ」

 顔を背けて言うしかできないあたしであった。

 

 

 

 ーーまったく。これだからフランは。

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