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第三話。常雪の住民は、見た目的に印象が悪い。

 隠れてたママンドラの背中から出たあたしは、やって来る町騎士の三人を見るため、目をめいっぱい凝らした。数は僅かに三人、みんな緊張した表情だ。

 

 少し光を弾くような、今の空みたいに明るく赤い髪のミナファさんと、後は男の人が二人。彼等はあたしたちから少し距離を置いたところで止まった。

 

「私が話をします。知り合いの方が、緊張は少なくて済むと思いますから」

 そうミナファさんは、一歩前に出ようとした男の人たちを腕を広げて止めた。

 

 こっちを見る青い瞳が、その表情があたしの知ってるミナファさんじゃない。

 

 穏やかで柔らかいミナファさんとはまるで正反対。引き締まった厳しい表情だ。

 ーーこれが、町騎士の顏……なのかな?

 

「シュネーちゃん。左手、見せてくれるかな?」

 いつもとそうかわらない柔らかい声。だけど、その内には断らせない迫力がある。声の感じと表情がチグハグで、この緊張感の中 吹き出しそうになってしまった。

 

 あたしは言われた通り、ゆっくりと左手を持ち上げる。勿論そこには光輝く例の指輪がある。

 

 

「これ、たしかリストリクトリング。魔力制御用の指輪」

 驚いた顔で、あたしの指輪を見ているミナファさん。

「なるほど、話と違って雪が降ってないのはこれのおかげね」

 どうやら、この冬の足跡を作ったのがあたしだってことは知ってたみたい。

 

 あたしの魔法が暴走してこうなっちゃった、って言う理由も聞いてたみたいね、この口ぶりは。

 

 

「でも、リストリクトリングって、魔力制御を助ける物だけど、効力発揮中に指輪全体が光るなんて話、聞いたことないけどなぁ」

 素の、あたしがよく知ってるミナファさんの顏に戻って、考え込むように言った。

 

「それだけその少女の、発露してしまっていた魔力が大きかったんだろう。これほどの領域を作り上げてしまっているんだからな」

 鎧姿の男の人が、そうあたしの指輪の光りの具合を分析した。ミナファさんが考えるような独り言みたいな言葉を聞いただけで、だ。

 

「たぶん、そうなんだと思います」

 びっくりはしたけど、でもきっちりと分析に頷いて答えたあたし。

 

「それで、お嬢さん。そこに棒立ちしてるドラゴン、それは置物か?」

 続けてママンドラを指差した男の人。

 

 ーーしっかり答えないと。しどろもどろになったら怪しまれる。

 

「いえ、置物じゃないです。この雪の壁の向こうにいつのまにか住み着いたブランドラ。あたしの家族です」

「ブランドラ? あの、雪原にいると言うブランドラか?」

「そうです」

 男性二人は、あたしの肯定にざわついた。

 

「ブランドラ。大人しいって言われてる雪原のドラゴン。どうしてこんなところに……?」

 ミナファさんも驚いたように、でも興味ありな声色で呟くように言う。

「わかんないです。ドラゴンって引越しするんですか?」

「そういう話は聞いたことないわね」

 答えると、素早く目線をママンドラに向ける。

 

「ううん……なんだか、毛皮みたいね」

 不思議そうに言いながらママンドラに近づくミナファさん。男性二人は慌てた様子で声をかけてる。

「きっと触っても怒らないと思います」

 

「なあ、どうしたんだよシュネーさっきから。お前、変だぞ」

 耳打ちして来たフランを、ちょっと黙ってて、って小声で返すのと同時に左の肘打ちで黙らせる。ぐっ、とうめき声を上げてるけど無視。

 

「そう?」

 おそるおそる、あたしの言葉を聞いてママンドラの体に触れるミナファさん。

 

「わぁ、やっぱり毛皮みたいなんだ」

 もふもふと、ママンドラの左の翼を柔らかく叩いてすごく、乙女な喜び顔をするミナファさん。それがかわいくて、笑みがこぼれるあたし。

 

「大丈夫……なのか?」

 騎士姿の人も、こわごわと近づいて来る。どうも距離をとってたのは、ドラゴンって見てすぐわかるママンドラの姿を警戒してのことだったらしい。

 

「大人しいドラゴン。たしかに、置物って思うぐらい、まったく動かないし、ミナファが触っても微動だにすらしないな」

 たぶん魔法使いの人も、こんなことを言いながら歩いて来た。もしかしてこの三人、ドラゴンと向かい合ったこと、ないのかな?

 

 ……たしかに、この町でドラゴンに合おうと思ったら、わざわざ山まで足を運ばなきゃならないから、むりもないか。

 

「それで。この壁を見に来ただけなんですか?」

 ママンドラに興味津々な三人に、あたしは本題があるだろうと思って話を振る。

 ママンドラは不可抗力だと思うから、ママンドラのことは無視して聞いたわけである。

 

「え、あ、ああ」

 ウオッホン、とわざとらしいにもほどがある咳払いで、態度からするに今回のリーダーだと思う騎士の男の人は、うむとやっぱりわざとらしく頷いてから本題を答えた。

 

 ーーなんかがっかりした顔一瞬したように見えたんだけど。ママンドラに触ってないから……かしら?

 

「我々は、この冬の足跡の中を確かめるために来たんだ。で……これ、どうやって入ればいいんだ?」

 フランは、まるで膝裏に膝蹴りを喰らったようにカックンとくずおれた。でもあたしは当然だろうって思うから、そんな反応はしていない。

 

「このブランドラに運んでもらうぐらいしかないです。ちょっとまどろっこしいかもしれないですけど」

「この高さじゃむりもない、君たちもそうやって壁を超えたんだろう?」

「はい」

「俺んぐっっ?!」

 余計なことを口走る前に、あたしはフランの口を手で塞いだ。

 

 

「ママンドラ。何回も家の前とここを行ったり来たりすることになるけど、お願いできる?」

 ママンドラはあたしの言葉に、ゆっくりと顔を縦に振った。

 

「おお、人の言葉を理解しているのか」

「ドラゴンって、人の言葉を発することができる種類もいるらしいって聞くけど、元々頭がいいのかしら?」

「どうも、そうみたいだな」

 

「ママンドラ、見ての通り横にも縦にもそんなにおっきくないから、掴まれても二人まででおねがいします。あたしは最後で」

 

「つまり、ミナファ姉ちゃんと、騎士の人達先ってことだな」

「それじゃあ、わたしとフランから行きましょうか」

「おう。けど、俺は自力で行くから、ミナファ姉ちゃんともう一人で掴まって行ってくれ」

「わかったわ」

「え、君。いったいどうやって?」

 

「見てればわかるぜ。じゃ、ママンドラ。お先!」

 言うなりフランは、壁に向かって飛びつくように跳躍。それと同時に、自らの手足に炎の魔力を纏わせ、そのまま雪の壁を蹴上がるように上って行った。

 

「……すごいな、彼は」

「ほんと、モンピーみたいですよね、あいつ」

 苦笑して騎士の人に答えたあたし。それに苦笑が広がった。

 

「じゃ、お願いします」

 気を取り直して頭を下げて言ったミナファさんに、ママンドラはまた 一つ頷いた。

 

 

***

 

 

「ありがとママンドラ」

 ゾフっと雪に着地したママンドラにお礼を言ったあたし。ママンドラの首を掴んでて、上半身を翼の上のところに乗りだしてたんだけど、更に体を上に持って行く。

 

 そうして翼を踏み台に出来る状態になった。

 

「ママンドラ。ちょっと体、前に倒してくれる?」

「シュネーちゃん。もしかして……?」

 体を前に倒したママンドラを見て、なんでかミナファさんは困ったような声を上げている。

 

 地面との距離を目で確認。ゆっくりとかがんだ姿勢に移行するあたし。

 

 そして、両足で翼を踏み込み力を込めて。

「とう!」

 あたしは、前に向かって飛んだ。ざわつく音が風に流れて、それと同時に下から吹き付けて来る風に服と髪が煽られる。

 

「っっと」

 ボフっと着地する直前、かがんだ姿勢に戻って雪に体を少し鎮めた。着地の衝撃で、雪煙って言えばいいのかな? 雪が舞い上がって少しの間司会を隠した。

 

「あの、シュネーちゃん。女の子なんだし、せめてスカート抑えるとか……」

 雪が晴れたらミナファさんが苦笑いしていた。

「なんで? そんなこと気にしてたら動くのに制限されちゃうじゃない……ですか」

 あぶないあぶない。相手は仮にも今は町騎士としてここにいるんだから、ミナファさんと言えども口調はしっかりしてないと。

 

 ーー町騎士、か。町騎士は町の治安を守る人たち。ここに来たのは危険かどうかを確かめるため。

 

 思い至らなかった。でも、町騎士がいる、ってきっちり意識したら、急に頭が回ったっ。

 そして、緊張と焦りが押し寄せて来たっ!

 

 

 ブランドラは性格がこれまでのやりとりで理解してもらえたけど、問題はゴーレムたちだ。

 うちのスノーゴーレムたちは危険じゃないけど、ゴーレムは一般的に番人や戦力って言う印象。

 

 だから、大小合わせて十ぐらいいるのを見られると、ママンドラで持たれた 冬の足跡は危険じゃない って言う印象が覆るかもしれない。

 

 どうやって安全だってこと、証明しよう。安全じゃないって思われたら、ゴーレムたちがあぶない……!

 

 いや、ゴーレムどころかあたしだって、もしかしたら危険戦力持ってるってことで牢屋に なんてことに……!

 これはなんとしても、冬の足跡の安全性をわかって帰ってもらわなきゃ……っ!

 

「気にしなくていいのに」

 また、ミナファさんが苦笑いした。でも、今回は着地直後のとは違って、柔らかい苦笑いに感じた。

 

 

 

 ーーミナファさん、助け船出してくれるといいんだけどな。

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