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第一話。変わらない天気が変わった日。

「はぁ。今日も寒いなぁ」

 いつものように、手をこすり合わせながら呟く。

 左手にはめた指輪に視線をやって。そこにある雪の結晶の形をした装飾を見て、思わず表情がほころぶ。

 

 凍えそうな寒さの、ズッシリとした雲の下に、こうして立ってるのには理由がある。指輪と一繋がりの理由が。

 

 

 冬の足跡。あたしの魔力の暴走で雪が降り続くようになってしまった、このだいたい一キイラメトル ーー 距離と長さの単位。千メトルが一キイラメトル ーー ぐらいの四角い領域がそう呼ばれるようになってから一年。

 

 やっと、昼なのか夜なのかはっきりしない空を変える時がきたのだ。

 

 あたしは動けなかった。この冬の足跡を出たことがあったけど、あたしが動くと雪の降る場所も動くことがわかったんだ。

 最初は喜ばれてたけど、少し時間が経つと気味悪がられてしまって。だから、自分からは動くのをやめることにした。

 

 食料は家族やご近所さんなんかからわけてもらってたんだよね。そうじゃなかったら、いっしょに暮らしてる動物たちからの木の実をわけてもらうだけの食事しかできなくて、とても生きてはいられなかった。

 

 

 手をこすり合わせるのをとめて、そっと拳を作る。

 

「すぅ……はぁ……」

 喉を凍らせるような空気を深く吸い込んだ。それは同時に、あたしの意識の集中を意味する。

 

 輝き出した指輪の結晶装飾。その光に目を奪われてたけど、ちらちら目に入る小さな光の粒 ーー降って来る雪の様子がかわって来てるのに気が付いた。

 

 

「雪が……止んでいく」

 指輪から視線を外すと、あたしの魔力によって降り続いていた雪が、少しずつまばらになって行くのがわかった。

 視線を空に向ければ、少しずつ晴れて行く雪雲たち。

 

「青空。久しぶりに見たなぁ」

 少しずつ広がって行く、まるで目を開くみたいに見えて来る濃い青の空を見て、あたしはしみじみ呟いた。

 

 少しずつ空から、ほんのりとしたあったかさが降り注いで来る。

 

「お日様って、すごいんだなぁ」

 ふぅっと、季節通りに変わったはずの空気を深く吐いた。

 

 

 あたしがはめてる指輪は魔力の制御を補助するための物で、この家から出なくなってすぐ 季節一周ぐらい前にお母様が持ってきた物。

 

 指輪をはめて、その装飾に魔力を集めるように意識する、それを毎日続けるように言われてたんだ。

 制御に慣れれば慣れるほど、その装飾に光が宿って行く、それが目安だって教わった。

 

 最初はただの石だった。けど時間が経つにつれて少しずつ光が強くなって行って、今は不意に向ければ目くらましぐらいは余裕でできそうな光り方をしてる。

 

 

「よく見たら、装飾どころか指輪全体が光ってる……あたし、いったいこれまでどれだけ魔力出し続けてたんだろうなぁ?」

 自分の制御能力の低さに苦笑いしたところで、ザクザクと雪を踏みしめる足音がいくつもする。それに目をやれば、魔力の雪がつもったことで生まれたゴーレムたちだった。

 

「いつも除雪ごくろうさま、みんな」

 除雪って言ってもゴーレムたちの場合、積もりすぎた雪を雪の壁に寄せる作業をしてるんだけど、作業してる間に地面の雪を吸収するみたいなんだ。

 

 だからゴーレムたちの大きさは大小様々。どうも一定間隔で生まれてるみたいなんだよね。

 彼等は雪の固まりだ。この領域が雪を忘れてしまったら、溶けて消えてしまうんじゃないかって心配したけど、

 

 お父様お母様によれば、魔力の雪でできたゴーレムはそう簡単に溶けたりしないとのことで。

 だから安心して魔力の制御をすることにしたんだ。

 

 続くようにもう一組、いや一組と一匹の同居人たちがこっちに来るのが見えた。同居って言うには、だいたい一キイラメトルって距離はちょっと範囲が広すぎるけど。

 

 一組はブランドラって雪原に住むって言われる、大人しい二足歩行のドラゴン。どうして住処を離れて、こんなあったかい地方を飛んでたのかはわかんないけど、この領域の魔力が体に合ったのか住み着いてる。

 

 子供にいたってはここで孵ったみたい。彼等も今では立派に家族だ。

 彼等のふわふわした体とそのあったかさは、常に雪じゃなければ暑くてしかたないだろう。

 

 獣みたいに季節毎に毛が生え代るなんて話は聞かないし見てもないから、きっと一年中あのまんまなんじゃないかなって思うし。

 

 あれがほんとに毛なのかわかんないんだけど、見た目にも触った感じももふもふしてるから毛ってあたしは呼んでる。

 もしかしたら、あれは鱗なのかもしれないからね、ドラゴンだし。

 

 背中にミミナガリスを乗せてる子供ブランドラ ドラちゃんは、いつみても和むなぁ。かわいい。

 

 親ブランドラ ーー あたしはいつもママンドラって呼んでるから、この後からはそう呼ぶけど ーー の頭の少し上に、人の顏が見える。その赤い髪はそこにいるのが誰なのかをすぐに理解させた。

 

 

「うるさいのが来たなぁ」

 思わずぼやいてしまった。

「とう!」

 ママンドラの頭から、そんな声で勢いをつけたか、こっちに向かって飛び降りて……と言うより飛び込んで来た幼馴染の男の子フラン・ルージュロート。

 

「のあーっ!?」

 空中で体勢を崩したようで、ジタバタして、そのまま雪にボフっとおっこちた。

 

 しょうがないなぁ、って言うあたしの気持ちを代弁するかのように、ゴーレムの一体がフランを抱えて、雪の中から引っ張り出した。

 

 

「ありがとう」

 あたしがゴーレムにお礼をすると意味を理解してるのか、答えるような間の後でフランを雪の上に下ろした。

 

「人間以外には素直だな、シュネー」

 さっと立ち上がると、なんだか不満そうにこっちを見て来た。シュネーはあたしの名前、シュネー・ブランヴァイスのこと。

 

「人間以外?」

「そうだろう? 俺に一度だって、そんなに素直にありがとうなんて言ったことあったか?」

「……あったと思うけど?」

 心から言ったのに、嘘つくなよ、と目で言われた。

 

「心外です」

「そうかい。そういうことにしておいてやるよ」

「感じ悪いなぁ」

「どっちがだよ?」

 

「それで、今日は手ぶらでどうしたの?」

「お前の魔力が変な動きしたから、心配んなって見に来たんだよ」

「探知には優れてるよね、フラン」

 

「探知『には』ってなんだよ、『には』って! っつうかほら、今また言わなかった」

「なにが?」

「あ、り、が、と、う。言わなかっただろ今?」

 

「そうやって、恩着せがましく催促するような人には、たとえ思ってても口から出てこないわよ」

「なんだと!」

 

「っあぁもぉ魔力が熱苦しいっ、感情といっしょに炎の魔力薄く発現するんじゃないっ、あたしが暑いのも熱いのも苦手なの知ってるでしょっ」

 

 指輪で制御してる魔力を、うっすら右手に集めるように意識する。風がビューっと右手に集まって来る。

 

「頭冷やしなさい!」

 集まった右手の冷気を、相手に解き放つ。そしたら、驚いた顔のフランはみるみる表面が凍って行く。

 

 けど、彼の炎の魔力のおかげで動けないだけの拘束にとどまった。

 

「お前、いつのまにそんな、魔力の収束なんてまねできるようになったんだ?」

 まるで、顔を壺に突っ込んだまんま喋ってるような、そんなこもった声でフランはそう聞いて来る。

 

「一季の修行のおかげでね。指輪に助けてもらって、だけど」

 自慢を隠さないで、思わずこぼれた笑いといっしょに答えてやった。

 

「こんなところに引きこもるしかなかったんだもんな。そりゃ、修行ぐらいしかやることねえか」

 ハハハっと小馬鹿にするように言ったフランを、あたしは本気で睨む。

 

 

「二度と動けないように、氷像にしてあげましょうか?」

 わざと普段とちょっと言葉遣いを変えてみた。

 

「ちょ、ちょっとおいまてって!」

 「ちょ」の時点で、彼の魔力が爆発したのかフランを取り囲んでいた氷が溶けるように砕け散った。

 

「軽い冗談だろう? 本気にすんなって!」

 けど、本人はあたしがフランを氷結させるのを止めようと必死で氷を消し飛ばしたことには気付いてないみたい。

 

「表面を凍らされてる状況で、よく一息で、それも早口で喋れたわね。呆れるやら感心するやら」

 氷がないことには触れないで、思ったことを言う。どんな反応するのか見てみたいからね。

 

「お前がとんでもねえこと言うからだろうが!」

「言わせてんのそっちなんだけど?」

「ああ言えばこういうなぁこのぉ」

 心底悔しそうに、歯を食いしばっている。

 

「事実を言ってるだけじゃない」

「くぅっ……」

 ここで推し負ける中途半端さは、どうしてなんだろうなぁ?

 

「あ、氷なくなってる……なんでだ?」

 ポカンと間抜けに言うから、

「アンタが砕き散らした以外にあるわけないでしょう」

 って疲れたように言葉を返した。

 

 

 こんなに鈍感だから、魔力の制御がうまくできないんだってのに、こいつは気付かないんだよねぇ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  冬のあしあとからきました。  雪の魔法の制御と炎の魔法、物語の始まりとして面白そうに感じました。 [一言]  読ませて頂きありがとうございます。
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