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 4月末。私は文子と一緒に大型商業施設へ買い物に出かけた。連休のせいかどの店も酷い混みようだ。私は夏に向けてサンダルだけ買った。それ以外は今のところ必要ない。

 文子は何件か店を見て回っていた。そしてLOWRYS FARMで新作のカットソーとスキニーをレジに持って行った。

「あーあ、これでバイト代も終わりか……」

「そんなに使ったの?」

「うん……。ほら、この前MacBook買ったじゃん? あれでほとんどなくなってたからね」

 文子はそう言うと財布を広げて見せた。中には千円札が2枚だけ入っている。

「それじゃ月末まで持たないでしょ……。少しだけカンパする?」

「いや、いいよ。高校入ったときに自分の使う分は自分で稼ぐってお父さんと約束したしさ。約束破りたくないんだ」

 文子は渋い顔で言うと「なんとかなるよ」と付け加える。この子は小さい頃からこうだ。本当に水貴によく似ている。一見、大人しそうに見えて意地っ張りなのだ。

 文子のしているのは普通のアルバイトではなかった。かなり収入に波のあるアルバイトで、1月には30万くらい稼いでいたらしい。私も旦那もそのことに関して特に文句を言ったりはしなかったけれど、その代わり旦那はお小遣いなしという条件を付けた。旦那曰く「これから社会で生きていくには良い経験だ」ということらしい。

 別に水商売のような仕事ではない。私とある意味、一緒の仕事だ。

「どうなのWEBの方は?」

「最近はまずまずかなー。年末にあったイベントでは1位になったけど、それからは普通だよ」

 娘にとってはこれが普通なのだ。彼女は小学校の頃から文才があったし、すっかりコンクールや賞には慣れきっている。

 文子は2つ、文芸関係のアルバイトをしていた。1つはWEB小説投稿による広告収入。もう1つは女子向け雑誌のコスメの記事を書くアルバイトだ。主に収入になっているのは記事書きのアルバイトだったけれど、去年あたりからWEB小説の調子もいいらしい。

 やはり文子は私たちの娘なのだ。ありがたいことに私たち夫婦のいいところどりな子だと思う。もちろん欠点だってあるけれど、それさえも可愛く思えた。これは完全に親バカだけど、どこに出しても恥ずかしくない娘に育ってくれたのではないだろうか。

「何か飲んで帰ろうか? 今日はお母さんがご馳走してあげるよ」

「マジ!? やったー!」

 それから私たちは商業施設内のカフェに入った。チェーン店のようで女性店員はマニュアル通りな笑顔で対応してくれた。おそらく彼女は文子とあまり歳が変わらないと思う。

 案内されると彼女に注文を伝えた。私はジャスミンティーとスコーンのセットを、文子はミルクティーとミニパフェを注文する。

「今日は付き合ってくれてありがとうね。今日は荷物多いから助かったよ」

 文子は改まって私にお礼を言ってくれた。

「いいよ。私も買い物あったしね。それにさ。たまにはフミと出かけたかったから」

 こうしてみると文子もすっかり成長したと思う。ついこの前まで、ちょこちょこ私に付いて回っていたのに、気が付けば来年は大学受験生になる。

「ねぇ……。お母さん」

「なぁに?」

 文子は何かを言いよどんだ。言いづらいことがあるのだろう。

 文子が困った顔をしていると飲み物が運ばれてきた。

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