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「ねぇ? 今度浩樹くんに会うんだけどいいかな?」

「へ? 浩樹? なんかあったの?」

「ちょっとね……。ほら、最近ニュースであった私の友達のことで相談したくてさ」

 旦那は「ああ、そのことね」と言って、納得したようにネクタイを外した。

「浩樹くんなら面会方法とか知ってると思うんだ。ほら、何年か前に、傷害事件の取材でも協力してくれたしさ」

「それは……。構わないけど……。でもその友達に会ってどうするつもり? 浩樹に弁護でもお願いするの?」

「うーん……。そこまでは考えてないかな。とにかく1度、月子ちゃんに会いたくて……」

 旦那は「そうか」とだけ言って、肯定も否定もしなかった。この反応から察するにOKということだと思う。旦那はいつもこうなのだ。イエスノーをはっきりとは言いたがらない。

 浩樹は私と旦那の高校のときの同級生だ。彼は高校時代に同じ文芸部で、私と旦那も彼とは親しかった。正確に言えば、浩樹は私の友達というよりも旦那の友達と言った方がいいと思う。彼と旦那は小学校からの友達で、私と知り合ったのは中学になってからだった。

「ま、相談するぐらいならいいんじゃない? 浩樹もキミに会いたがってたしさ。俺は一緒に行けないからよろしく伝えといてよ」

「うん。ありがとう」

 やはり旦那は理解があると思う。親友とはいえ、私が男の人と会うことを快く了承してくれた。私はそんな理解ある旦那が好きだった。そもそも、これだけ理解があるから結婚まで踏み切ったわけだけれど――。

 

 数日後。私は浩樹と会った。場所は二子玉川のスターバックスコーヒー。

「忙しいのにごめんね。水貴もよろしく言ってたよ」

「いやいや。いいよ。ひさしぶりに川村さんと話したかったしさ」

 浩樹はカルバンクラインのシャツに黒のチノパンというラフな服装をしていた。こだわりなのか、腕にはディーゼルの大型の腕時計が黒光りしている。

「何年ぶりだろうね。水貴とはたまに会ってるんでしょ?」

「うん。2ヶ月に1回ぐらいは飲みに行くかな? あいつも忙しいから夜中になるけどね。水貴のお陰ですっかり神保町にも慣れたよ」

「ハハハ、なんかごめんね。いつも旦那の仕事場の近くまで行かせて申し訳ない」

「いいよ。いつも赤坂には入り浸ってるし、たまにはね……。それはそうと、”鴨川月子”さんの件だよね」

 彼は親しげな笑みを浮かべる。昔からこうだ。彼が真剣な話をするときは昔から……。

 水貴と浩樹くんには昔から世話になりっぱなしだった。私が京都から二子玉川の中学に転校したときも、この2人には良くしてもらった。転校当時の私は酷い人見知りで、友達らしい友達はいなかったけれど、彼らだけは私と仲良くしてくれた。彼らは私の祖母の経営する喫茶店に昔から入り浸っていたらしく(祖母曰く、店内でプラモデルを作っていた)、その縁で私ともすぐ親しくなった。

 水貴と浩樹くんは昔から対照的だった。水貴は引っ込み思案で、あまり自分の意見を言わない子供だった。対して浩樹くんは活発な少年で、勉強もできたしクラスでも目立つ存在だったと思う。そんな一見合わなそうな2人は大の親友同士だった。

 だから私は必死に勉強して2人と同じ高校に進学した。そして高校で立ち上げたのが”ニコタマ文芸部”だ。命名は水貴だ。今思うとセンスの欠片もないと思う。

 2人を見ていると、その関係は私と月子の関係に似ていると思う。私は水貴のように引っ込み思案で活発ではなかったし、月子は浩樹くんのように優秀で、何でも器用に熟す子だった。

 今回、浩樹くんに月子の件を相談したのはそこら辺に理由があった。きっと浩樹くんなら月子の力になってくれる……。私はそんな風に思ったのだ。少なくとも、私を月子に引き合わせてはくれるはずだ……。

「まずね……。面会できるかどうかはまだ分からないかな。川村さんの頼みだから全力で善処はするけど、無理な場合もあるからさ。まぁ……。何とか取り付けてみるよ」

「ありがとう……。本当に浩樹くんには昔から頼りぱなしだよね」

「ハハハ、今更気にしないよ。同じ文芸部のよしみで、新刊献本してくれればいいさ。5月にまた出すんでしょ?」

「うん。今編集に出して赤入れしてもらってるとこだよ。まぁ、出す前に水貴に赤入れして貰ったからほとんど直しないだろうけどね」

「そりゃあ効率的。水貴は昔っから細かいからなぁ。あいつが校正・校閲したんなら問題ないだろうね」

 浩樹くんは昔のようにもみあげをいじると人懐っこい笑顔を浮かべた……。

 二子玉川駅で私たちは別れた。私は改札を抜けると浩樹くんに大きく手を振った。


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