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 テレビ番組なんてすぐに話題が変わるものだ。ついこの前まで月子のことばかりだったワイドショーも今は政治家の汚職について熱心に報道している。コメンテーターもこの前まで芸能ゴシップの有識者だったのに、今は政治ジャーナリストに変わっていた。芸能ゴシップの有識者……。世の中には色々な有識者がいるものだ。

 私は文子の書いた小説を直しながらそんな世相の変化を眺めていた。可愛そうな月子……。事件前はあれほど世間に持てはやされ、事件後は酷いバッシングを受け、さらに政治家のニュースのせいですっかり隅に追いやられてしまった。もっとも、彼女は今、拘置所にいるはずなのでそんなこと知るよしもないだろうけれど。

 月子は今度、念願だった武道館公演を控えていた。その知らせは私にも届いていたし、彼女から届いた手紙(このご時世なのに私たちはアナログな文通をしていた)にもそのことは書かれていた。手紙の文面から彼女がそれをどれほど楽しみにしていたかは窺えた。いや……。楽しみというだけでは物足りないだろう。武道館公演は彼女にとってのある意味ゴール地点だったのだ。

 私と月子は互いに夢を叶えるという誓いを立てていた。私は直木賞を。月子は単独武道館公演を。そんな願いだ。先に願いを叶えたのは私だったけれど……。

 私は22歳のときにその夢を叶えていた。これは周りの協力と運のお陰だと思う。本来、私はファンタジー小説を生業にする作家だったけれど、生涯で2作だけ大衆文芸を書いていた。1つは中学時代に書いた青春小説の”アルテミスデザイア”。この作品は私にとって本当に大切な作品で、初の商業出版作品だった。

 “アルテミスデザイア”は月子をモデルに書いた小説で、ある意味彼女の自伝のような小説だ。手前味噌だけれど、私はこの作品が好きで、今でも私の指針になっていると思う。

 そして、もう1作。それが私に転機を与えた作品だ。タイトルは“みっつめの狂気”。

 “みっつめの狂気”は私に様々な変化を与えてくれた。まず、私が書いた小説の中で1番売れた作品が“みっつめの狂気”だった。そのお陰で生活が楽になったと思う。作家なんてあまり儲かる商売ではないけれど、この作品のお陰で他の作品を手に取ってくれる読者も増えたと思う。俗っぽい言い方をすれば“みっつめの狂気”は私の出世作なのだ。

 ”みっつめの狂気”が世間に認知されるようになると、私には色々なことが起こった。その最たるものが直木賞だったのだと思う。直木賞……。私の念願。

 受賞が決まったときは本当に嬉しかった。受賞パーティには月子も来て泣きながらお祝いしてくれた。彼女はまるで自分のことのように私の受賞を喜んでくれた。そして「今度はウチの番やね」と苦笑いを浮かべていた。

 正直な話。私は直木賞よりも月子の夢のほうが難しく感じた。彼女はバンド活動で様々な問題に直面していたし、その中には彼女の尊厳を傷つけるものもたくさんあった。詳しくは知らないけれど、月子のバンドはスキャンダルに塗れていたのだ。文藝春秋の週刊誌は、まるで定期連載のようにそんな月子のスキャンダルを面白おかしく書き立てていた。黒い繋がりがあるとか、枕営業だとか、そんな内容だったと思う。

 私はそんなゴシップ誌の話を一切、月子には聞かなかった。彼女もそんな話をしなかったし、おそらく話したくなんてなかったのだと思う。

 そのゴシップと今回の殺人未遂とが関係しているかは分からないけれど、私は作家としてその事実を知りたいと思った。その反面、友達としてはあまり知りたくはなかった。

 私は完全に考えあぐねいていた。どうするのが正解なのだろう? 正解なんてあるのだろうか?

 いや、きっと正解なんてない。正解があるとすれば、それは自身の判断に責任を持つことだから……。


 だから私は自分の判断に責任を持つことにした。正しいか、間違っているかなんて関係ない。

 私は大学時代のある友人に連絡を取った――。

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