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龍鱗と暗黒騎士  作者: シライ トモリ
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ナイアドの森 -2-

前話のラストの魔物の設定を一部変えました。

 茂みから現れた魔物は牛くらいの大きさで、毛足の長い黒い犬のような姿をしていた。紫色の目はじっとこちらを見据えている。


 待って待って待って!


 魔物ってこの花の匂い苦手なんでしょ、初めて来たのに出会っちゃうの? というか、あれはそんなに強くないなんてレベルじゃないよね、かなりヤバイやつだろ。


 だが、落ち着け俺。落ち着けるわけないけどとりあえず落ち着け、落ち着いたふりをするんだ。怯えた顔は見せるな、恐怖のあまりに混乱してにやけそうな表情筋は死滅させろ。ここはポーカーフェイスだ。


 ……。


 めっちゃ目が合ってしまっているがどうしたらいいんだ?目をそらすのは不味い気がする。ならば目はそらさないまま遠くを見るようにして視界をぼやかしてみるか。いやいや、それもだめだ。


 先生はここから出ないようにと言っていた。でも魔物の方からこちらに……いやいや、物騒なことは考えないようにしよう。フラグ建っちゃいそうだし。この場合の最善策は――


 石になろう。


 余計なことは考えずに先生が戻るまで耐えるんだ。今日は精神を鍛えに来たんだからな! ハハハ。


 魔物が現れてからカチカチ聞こえているのは俺の歯が鳴っているのか、ふるえる手に握った剣が鞘に当たって出てる音なのか、その両方か。


 数分が何時間にも感じる。しばらくじっと見つめ合っていると、魔物がクイクイっと顎を引くように動かす。

 こちらへおいでってことですか、石なので無理ですよ。だからといって、そちらからお越しいただくということもご遠慮いたします。早めにお帰りください。


「……」


『……』


 魔物は全く動かない俺にしびれを切らしたのか何かを下に置く。


 なんだ?


 だが俺は動かない。石だからな。

 魔物が何かに反応して鼻先で下に置いたものを俺に向かって飛ばしてきた。


 油断させての飛び道具か! 禍々しいモヤに覆われたこぶし大の石が飛んできて鳩尾にヒットする。その衝撃で意識が飛んだ。


 ……さま……アル……ト様、アルバート様ー!


 遠くで誰かが呼ぶ声が聞こえる。周りを確認をしようと首をあげる。あの魔物はもう居ないようだがどのくらいの時間気を失っていたのだろうか。鳩尾のあたりが痛くて擦りながら起き上るとゴトン、と腹の上から魔物が飛ばしてきた石が落ちた。


 石を拾おうと触ると全身にぞわりと鳥肌が立ち、思わず飛びのき尻もちをつく。この嫌な感じ、何かに似ている。


 これは魔石なのか。ただの石には見えない。禍々しいモヤに覆われた黒っぽいつやのある石。

 だんだんと先生の声が近づいてくる。


「アルバート様、ご無事のようですね。森の様子がいつもと違うようなので今日はここまでにして帰りましょう」


 先生は俺が無事なのを確認すると安心したようだった。薬草を採取していたら森の中から生き物の気配が消え、何かが起きているのではないかと心配になり急いで戻って来てくれたらしい。


 俺の周りで異変は無かったのかと聞かれたので先ほどの出来事を話し石を見せた。


 俺を危険にさらしてしまったことを詫びた後、先生は石を見て眉間にしわを寄せる。そして魔物がいた場所を見に行くと、予定を変更しましょうと言った。


 この石には良くない何かが纏わり付いているらしい。それが呪いの類なのか何なのかはわからないけれど、このまま持ち帰るのは危険かもしれない。この森には浄化の力がある泉があるので、ひとまずそこを目指すことになった。


 あの黒い魔物は先生にもわからないと言っている。似たような魔物で言えばフェンリルやヘルハウンドなどいるようだけれど実際に見ていないのでどちらとも言えないし、そもそもこの森にいるような魔物ではないらしい。


 俺にはあの威圧感はそこらにいるレベルの魔物じゃないと感じた。だが魔物を見たのが初めてだったので恐怖心からそう感じただけなのかもしれない。

 先生は魔物がこの花畑に近づいていながらも侵入はせずに石を投げただけで帰ってくれたのは幸運だったと言う。


 俺はあの魔物には知性があるように感じた。もしかしてこの石を渡しに来たのではないだろうか。目的は? 一体この石は何なんだ。

 警戒しながら森の奥を目指し、一時間ほど歩くと泉に着いた。泉の周りの空気は他の場所とは違いとても澄んでいて浄化の力があるというのもわかる気がする。


 石を泉に直接入れると水を穢してしまいそうだったので、持ってきた水袋に先生が強化の魔法を付与して泉の水を注ぐ。

 石を水に浸すと水が泡立ち中から禍々しいモヤが噴出してきた。念のために布で鼻と口を覆っておいて正解だったな。


 しばらく待つとモヤの勢いが収まってきたので中を覗くと、水は黒く濁りわずかに残っているだけだった。減ってしまった分の水を泉から汲んできて注ぎ様子を見る。するとモヤは収まり、水袋の中には石だけが残っていた。黒い石には少しヒビが入っていたが今度こそ浄化はできたようだ。


「ふむ、魔石のようですな。しかし何の魔石なのか、このような物は見たことがありません。浄化は出来たようですし今度こそ帰りましょうか」


 森の中から鳥のさえずりが聞こえてきた。生き物の気配が戻ったので異常事態からは脱したようだ。

 先生と俺は今度こそ帰路に着いた。




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