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龍鱗と暗黒騎士  作者: シライ トモリ
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伝承の違い

「待たせてすまないね、私はこの地の領主をしているカイル・ヴァルツだ。私の部下たちに助力をしてもらったと聞いている。私からも礼を言わせて欲しい、ありがとう」


 ヴァルツ伯爵はそういうと手を差し出してきたので、俺はその手にそっと手をそえ握手をした。ヴァルツ伯爵の大きくて硬い手は、温かく力強くて安心感に包まれる。これが辺境を守る剣士の手か、かっこいいな。


 しばらく伯爵とお茶をしながら話をしたあとディナーまでごちそうになって、そろそろギルドに行こうと食事の礼を伝え伯爵家を出ようとしたのだが、


「ギルドは今日いかないといけないのかな? もう時間も遅いしこのままこの邸で休んで明日行くことはできないのかい?」


「えっと、先ほども話したのですが、僕は呪いがかかった状態なので街に滞在する時はギルドに泊めてもらっています。マールの街でお世話になったギルド長が各ギルドに連絡してくれてお世話になっているんです。呪いは他者に干渉するような類のものでは無いらしいのですがそばに居ると嫌な気分になる人だっているでしょうから」


 呪いを受けてる人物がそばに居ると自分にも影響があるかもと心配する人だっていると思う。言われなければ分からないとはいえ、隠してるとよけいに怪しまれそうで嫌だ。


 ならば呪いが解けるまで宿泊や食事はギルドでお世話になった方がこちらも気が楽だ。ギルドなら呪いを受けた冒険者が解除してもらうために訪れるからそこまで気にされることは無いのだ。


「うむ、だが君がよければこの街に滞在する間この邸で過ごすのはどうだい? 呪いのことを気にする者はいないよ。敷地内に騎士の詰所があるからやかましいかもしれないがギルドと対して違わないと思う」


「ですが、そこまで甘えるわけには」


 ちょっと魔物の討伐を手伝っただけなのにそこまで言ってもらえるのはなぜなんだろう。


「お礼をさせて欲しいんだよ。遠慮してるだけなら、私の息子と娘の話し相手になるのを滞在理由にしてはどうかな。息子も娘も領の外を知らないから君が見て来たものを教えてもらうだけでもいいんだ。もちろんギルドの方がいいのなら無理にとは言わないよ」


「そういうことなら、わかりました。では、お世話になります」


 伯爵はニコリと微笑むと部屋へ案内してくれた。伯爵の期待に添える話し相手になれるかはわからないがお世話になる間仲良くできるといいな。


 温かい湯や久々のやわらかなベッドはすぐに眠りの世界にいざなってくれた。




 アランを客室に案内した伯爵は自室で今日騎士から聞いた話を思い返していた。


 彼は不思議な少年だ。見た目からは10歳に満たないように見えるが、騎士が使う合図を知っていて、魔石を扱え、危険な森を護衛もつけずに歩いていたという。


 教会の司祭様では解除できなかった呪いを解除できる人物を探しているのが旅の理由と言っていたが、あのくらいの年の子供がひとりで旅するのはとても危険だ。


 しかも我が家の騎士達が彼と出会った場所は統率のとれた騎士団や上級クラスの冒険者がパーティを組んで入らないと危険な森の中なのだ。


 リオルや他の者も言っていた変異種のグラトニーベアに致命傷を与えたという魔石の扱いも気になる。


 魔法を学ぶ前の子供に魔石を扱うことは出来ないはずなのだ。なのにかなりの量の魔力を使い複数の魔石を扱っていたという。


 隠しているようだから聞かなかったが、立ち振る舞いから彼は平民ではなく身分のある家の子息と思われる。だがまあ、身分は関係ない。子を持つ親として彼のことも心配してしまうのだ。


 せめてこれ以上危険な場所には行かないように注意はしておくとしよう。特にあの森には行かないようにと。



______


 朝になり目を覚ましたが目覚めスッキリとはいかず体がだるく重たい。


 またあの夢を見たからだ。カインさんの調合してくれた香料のおかげで激しくうなされることはないのだが、それでも寝起きの体調は最悪になる。


 今回は試練のあとに現れたドラゴンに追い回されたところが特に長かった。


 洞窟の中の場面で誰かの声が聞こえた気がするんだけど、今までには無かった展開だった。


 その声の人物に助けられたのだろうか。何かあったはずなのに記憶の中に霧がかかったようにそこだけ曖昧だ。


 もやもやしているとコンコン、と部屋の扉がノックされた。


「アラン様お目覚めしていらっしゃいますか?」


 控えめに掛けられた声に起きていることを伝えると、朝食の準備ができているので支度の手伝いをしに来たと言われた。


 普段なら一人でできるので断るところだが、今日は体がだるくて思うように動けないので手伝てもらった。家を出てからは自分で支度していたのでなんだかむずがゆい。


 朝食はパンとスープと蒸し鶏にサラダとシンプルだがとても美味しくてちょっと多めに食べてしまった。


 朝食の席で伯爵家の長女のアルル様と弟のテオル様と対面したのでしっかりとあいさつをしたのだが、伯爵の許可を得ているとはいえ仮面を着けていたので微妙な雰囲気になってしまった。


 二人とも笑顔が引き攣っていたもの。無礼だとは思ったが、呪いの事があって顔をさらす勇気が持てなかったんだ。


 アルル様は俺と同い年で、弟のテオル様は2つ下だった。お二人は今日の午後は予定がないとの事だったので午後は一緒に過ごすことになった。


 昼食の後先に時間が空いたのはテオル様だった。テオル様は俺の手を掴み可愛いお願いをしてきた。


「僕のことはテオルでいいです。アランお兄様って呼んでもいいですか?」


「僕のこともアランでいいよ、テオル。それから僕にはかしこまらなくていいよ」


 今の俺は家のことは伏せているので貴族ではない。普通平民が貴族を呼び捨てになんてできないがここは彼に合わせた。伯爵も友達のように気軽に接してほしいと言っていたし……大丈夫、だよね?


「ねえ、アラン兄様、英雄の物語って絵本読んだことある?」


 兄様……テオルは兄が欲しかったのかな?


「英雄の物語は何度も読んだよ。テオルも好きなの?」


 憧れている設定だったから何度も読んだんだよ。


「うん。じゃあ初代の魔王の事をどう思う?」


「そうだな、不思議な力を手にいれて最初はただの悪戯だったんだと思う。でもいずれかその脅威には気付いただろうから、その時点で誰か諌める人がいてくれたらよかったのに、と思ったよ。それに、"力に蝕まれていった"とあるから、少年が可哀そうだとも感じたかな」


「魔王になった少年が可哀そう、か。アラン兄様の周りのみんなもそんな感じ?」


「それはどうだろう、周りの人から魔王が可哀そうっていう声は聞いたことないなあ。一般には魔王は脅威であって討伐されるべき存在って感じだね」


 魔王はその力で脅かし、他者を苦しめる存在だったわけだし、悪者だという認識だよね。


「この領地の民と他領の民とでは印象が違うと聞いていたけど、やっぱりそうなんだ」


「印象が違うとは?」


「そもそも、魔王になった少年は力を手に入れた後直ぐに姿を消していて、直接人々に何かしたり脅かしたとは伝わっていないんだ。領民も外では口にしないようにしているけどだいたいの人は魔王が全ての悪とは決めつけてはいないんだよ」


 人々に直接危害を加えていないとは初耳だな。


「でもそれは初代の魔王様の話だからね。それに、僕は魔王様はいい人だと思ってるんだ」


「何度も復活する魔王は初代魔王とは別の存在ってこと?」


「僕たちはそう思っているよ。それにね、魔王が復活すると必ず黒い鎧の騎士も現れるんだ。その騎士に助けられたって記録もあるから、僕はきっとその騎士は初代魔王様に違いないと思っているんだ。今でも民を隔てなく見守って下さっているんだよ」


 黒い鎧の騎士、ねぇ。何か引っかかるんだよなあ。

 



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