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龍鱗と暗黒騎士  作者: シライ トモリ
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転生-2-

 俺は前世で読んでいたマンガ「destiny〜光の騎士の物語〜」の世界に転生した。



______


 女神の祝福を受けた魔法使いの国ソピアー。

 王国を覆う強力な結界によって長い間他国からの侵略を退けてきた。


 他国では魔力を持つ者は稀なのに対し、ソピアーの国民は皆魔力を持って生まれて来るため研究も進み、魔法は国民の生活の一部にまでなっている。

 また、魔法が付加された便利な生活用品を作り他国に売ることで国は潤っていた。


 ソピアーの王族は特に魔力量が多く高度な魔法が使える。

 王家には第一王子エリオットと第二王子のマリウスの二人の王子いるのだが、第一王子エリオットの魔力と魔法技術は歴代の王族の中でも群を抜いていた。そして適正者の少ない光魔法を持っていた。


 第一王子には親友がいた。カーティス公爵家のアルバートだ。彼もまた魔力量が多かったので刺激し合い共に魔法と剣術を学んでいたのだが、ある日アルバートは行方不明になってしまう。


 それから数年して封印されていた魔王が復活し王国の結界は破壊され、王都は襲来したドラゴンの攻撃を受ける。王宮騎士と魔法師団が抗戦するも圧倒的な力に押され王城の近くまで後退していた。


 前線にいたエリオットは女神の声に導かれ王城に戻り、地下に祀られている魔王を封印したとされる聖剣を手に入れる。


 エリオットが聖剣の元に向かっていた頃、王都を襲ったドラゴンは突然現れた一人の剣士によって倒されていた。

 

 女神から聖剣に選ばれた者にしか使えない聖属性の魔法を与えられたエリオットは魔王討伐の旅に出た。

 魔王の配下に壊された5つの神殿に光を灯して周り魔物の発生を抑え、各地で出会った仲間と時々現れる剣士に助けられながら力をつけて行く。


 そうして長い旅の末、魔王を倒し世界に平和を取り戻したのだった。




______


 前世の俺はこのマンガが大好きで何度も読み返していた。

 エリオットの剣の技と魔法はとにかくカッコ良くてセリフをよく真似していたものだ。


 せっかくこの世界に転生したのだから剣技と魔法を鍛えてエリオットと共に旅に出られたらどんなに心躍ることだろう。


 だけど残念ながらそう簡単には事は運ばない。

 なぜなら俺はカーティス公爵家の長男アルバートとして転生したのだから。


 ストーリーの序盤でフェイドアウトしたアルバートは実はラストにも少しだけ登場する。


 魔王が倒されて世界が平和を取り戻したあとの王城で第二王子マリウスの後ろにいる陰のある護衛騎士、彼がアルバートだ。


 登場場面も少なく、名前もない、でもセリフは一言あった。常に無表情な彼が一度だけ驚いた顔をして「……まさか」とつぶやく。目元には涙らしきものが描かれていて目線の先に有った箱を手に取った第二王子が思い出を語るシーンは少し切なかった。


 その後のアンケートで第二王子の護衛騎士がなぜかファン投票1位を獲得し、読者からのリクエストでサイドストーリーが作られた。


 そこで彼がアルバートだということ、行方不明になってからどう生きてきたのか、そして第二王子の護衛騎士になり、王家に仕えるまでが語られたのだ。



______


 第一王子エリオットの親友であるアルバートはある日行方不明になる。


 森の中で盗賊に攫われるのだ。さらにドラゴンに襲われ、怪我を追いながらもなんとか逃げ延び、倒れているところを通り掛かった青年に助けられた。


 しかし怪我が原因で記憶をなくしてしまい青年の住む村でしばらく生活する事になる。


 そこはドラゴンの生息域の近くの辺境の地で、身を守る為に村人は皆子供の頃から剣を持ちドラゴンに対抗する剣技を身に付けていく。


 剣を振り続け剣技を磨いてきたこと10年、記憶を取り戻したアルバートは王都に戻ってくるのだが、王都はドラゴンに襲われていた。

 そこで村での鍛錬と森での実践でえた経験が役に立つ。


 王都の騎士達が防衛でやっとだったドラゴンをアルバートは一人で倒したのだ。


 その後の処理は騎士に任せ王都の外れにある公爵邸に向かう途中アルバートは見覚えのある家紋の入った馬車を見つける。


 ドラゴンの襲撃を受けたのか馬車は横倒しになり激しく破壊されていた。逃げ出せずに中に乗っていたのなら生存の期待は持てないだろう。


 それでもアルバートは残骸をどかし続けた。

 離れ離れになって10年の月日が経っていてもその中に横たわっている人物が父のカーティス公爵と妹のアデルだという事はわかった。


 見回りに来た騎士に二人の遺体を託したアルバートは公爵家には戻らず再び姿を消す。


 その後、最愛の家族を失った公爵夫人は心を病み衰弱して亡くなり、カーティス公爵家は父の弟が継ぐことになった。


 アルバートの姿は以前とは全くと言っていいほど変わっていた。きらきらと輝く金色の髪は黒く変わり、宝石のような緑色だった瞳もまた闇のように黒く変わり、表情の変わらない顔からは感情がうかがえない。魔力の質も変わっている。 


 そして名前をアランと変えてギルドに登録し、魔物の現れた町や村に向かい戦っていた。討伐依頼に訪れた地で何度かエリオットと顔を合わせることもあったが名乗ることはなかった。


 魔王が討伐され、世界が平和を取り戻した後アルバートは剣の腕を買われ第二王子の護衛騎士になる。



______


 この世界の事を知ってしまった以上、自分に訪れる未来に抗う決心をした。大切な家族を失わないためにも。




 あと、エリオットの剣の技と魔法をこの目で見てみたい。

 ……そのくらい望んだっていいだろう?




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