魔王、串を食べる。
最強である魔王は、今日も何か食べようと、町にむかったりしている。
雷の鳴りやまない雷山の頂上。 天竜と呼ばれた一角である、黒炎の魔竜ダースグレイが、遥か小さく、矮小な人間一人と戦っていた。 暇潰しだと軽くあしらう積もりだったダースグレイだが、案外小賢しく攻撃をつづける人間に、そろそろ飽きがきていた。
当然だが、金剛石よりも硬い鱗の前には、その人間の剣など、蚊が止まった程にしか感じていなかった。 もう止めでも刺してやろうと、腕を振り、人間を弾き飛ばすが、まだ息があるらしい。
まだ逃げずに、剣を構える人間に、面倒だと言わんばかりに、黒炎の炎を噴き出した。
普通ならば武具ごと塵とかす筈だった。 しかしその人間は、五体満足でその場に立ち続けていた。 魔法の武器でも使っているのかと、少々怒りを覚えたダースグレイは、大気の全てを飲み込む程に息を吸い込み、今度は全力の黒炎を吐き出した。
グゴウと燃やし尽くした積もりのダースグレイだが、その人間が無事だったことに驚きを覚えた。 武具は代わり身となり、その殆ど燃え尽きている。
そんな人間が、何かを叫んでいる。 だが竜であるダースグレイには、殆どの人語を理解することができない。 唯一分かったものが、魔王という一つの単語だけだった。
この黒炎の竜であっても、その噂を耳にしたことがある。 魔族の王と言われるその存在は、この世界を支配している、天竜をも凌駕すると噂されていた。
その魔王が、どれ程の物かと興味がある竜だが、まずは目の前の人間の始末をしようと、空へと飛びあがり、ドシンと、山のような巨体が落ちた。 それだけで人間は耐えきれず、ひしゃげて潰れて死に絶えた。
黒炎の魔竜はグオオと吠えて、空へと飛び上がる。 魔王というものがどれ程なのかと、その力を試してやろうと、魔族の王の城へと飛び立った。
魔王のその城が見え、黒炎の魔竜が一吠えすると、人間よりましなのかと大気を吸い込む。 その炎を拭き出そうと、息を吐き出した瞬間、自分の力が急激に衰えるのが、手に取るようにわかってしまった。
心臓の鼓動が止まり、目の焦点さえあわなくなっている。 命が、終わる。
それを確信した時、黒炎の魔竜の体は、地へと叩きつけられていた。 しかしその痛みも感じず、魔王に挑んだ、自分の馬鹿さ加減を後悔し、彼の命は、そこでこと切れた。
魔王城を出た魔王は、何か巨大な物が落ちてる事に、ちょっとビックリしながら、何時も通り町へと向かう。
なんだか良い匂いがする、焼き鳥と書かれた店へと入ると、その焼き鳥という物を注文した。
「親父、とりあえず全種二つずつ貰おうか。 お前の実力を見せて貰おう!」
「お客さん、家の店の実力を知りたいって? 良いだろう、じゃあ美味くなかったら、そのお代はいらねぇよ。 その代わり、美味いと思ったら二度三度と、足繁く通ってもらおうか」
「ほう、では勝負するというのだな。 良かろう。 だったらその自信作を、この俺が食い散らかしてやろうではないか! さあ持ってこいその自信作をな!」
「へい、お待ち!」
「うおおおおおお、これは、この串は、全部良いじゃないか! 駄目だ、親父、俺の負けだ。 もう一回り持ってこい!」
「へい、毎度!」
そして魔王は串を楽しんでいる。
アルザード・ジューダス・ジェイドレッド(魔王)
鳥串を食べる。
大きなドラゴンが道端で死んでたとしても、魔王には関係のない話。