テンプラサクサク、いい感じ。
自分の力でどうなっているかも知らない魔王は、襲い掛かるってくる敵さえ存在せず、今日もどこかでメシを食っている。
キィィィィン ギィィィィン ガッ ギャィィィィン!
刀同士がぶつかり合い、火花を散らしている。 草原の只中に二人。 隻眼の大男と、花の模様の着物を着ている女が。
「大人しく、倒されろ! 亡き父の墓前に、お前の首を捧げてやる!」
「ふん、貴様程度の腕では、何年修行した所で、このワシは倒せん! さあ、今決着をつけてやろう!」
今まで同格ぐらいの二人だったが、実力を隠していたのか、男の反撃が始まった。 男の攻撃を受ける度に、女の腕に痺れが走る。
「うあッ・・・・・」
「ふん、まだ刀を握っている事だけは誉めてやろう。 しかし、それももう終わりだ。 次の一撃で止めをさしてやろう。 怨むのなら、自分の腕の無さを怨むのだな。 さあ、覚悟ッ!」
鋭く光る刀の煌きが、天高くから降下していく。 受け止めた剣までも両断され、彼女の体に血の華が咲いた。
「・・・・・ッ! ああああああああああああ!」
倒れて居る彼女だが、その目の輝きは失われてはいない。 増悪に歪む表情を仇である男に向けていた。
「クッ、ワシとしたことが討ち損じたか。 今苦しまぬように、止めを刺してやろう。 もしこのワシを倒したいのなら、魔王でも連れて来るのだったな! では、死ねえええええええええええええええ!」」
男が女の頭を押さえつけながら、その首に、刃を振り下ろしている。
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
しかし、何時まで経っても痛みがやって来ない。 それどころか、押さえつけられていた手の力が抜けている。
女は男の有様を見続ける。 目を見開いたまま、硬直したままの男の姿を。
「まさか、病・・・か・・・・・。 私の手で仇を討ちたかったのにッ・・・・・。 いや、あのままでは私の方が殺されていたな。 天が私を助けたか。 それとも、まさか魔王だったりな」
仇を討てなかった女が、何の満足も得られずに、ただこの場を去って行った。
そんな事になってるとも知らない魔王は、今定食という物を食い漁っていた。 この店は、遥か東方にあるという、東の国の料理を作ることで有名な料亭だった。
小さな小皿には、トーフーという滑らかな口触りの物や、シナシナになっているのに、カリっと塩っけのある野菜や、白く粒粒したゴハンというもの等が並んでいる。 そして、メインとなるものは、テンプラという、サクサクとした揚げ物だった。
このテンプラというものは、色々な物を揚げた料理である。 サックリとした歯ごたえと、中の具材の美味しさが癖になる料理だ。 塩か、特製のツユで食べるらしい。 何方も試したが、ツユの方が好みだった。
「うむ、美味いぞ店主。 もっと持ってくるが良い!」
「へい、ただいま!」
そして魔王は、料理を食べ続けている。
アルザード・ジューダス・ジェイドレッド(魔王)
さくさくテンプラ。
何処かの誰かが敵討ちに成功したとしても、それは魔王には関係ない話である。