I did not know me yet.
私はまだ私を知らなかった。
これは、私、東条勇音が高校二年生になったばかりの頃のお話。
私は二次元が大好きで、あんな世界に行けたらなぁなんて妄想を抱いていた。
そんなオタクな部分がある以外はごく普通の、学校に必ず一人は居るようなタイプのJKだ。
一つだけ変わっているとしたら、両親が不仲なことだろう。
私が中学に上がったころからずっと、顔を合わせれば喧嘩ばかりの日々。
最初の頃は私も必死で仲介したけれど、中学三年の秋に決定的な亀裂が入ってしまった。
私は、親を居ないものとして考え始めた。
近所を気にして離婚をしなかったおかげで、学校ではバレずに過ごせたことだけは今でも感謝している。
中だるみの学年と言われる二年生の私は、進路だ将来だと口うるさく教師たちに言われていた。
でも考えているうちに、私は、私自身がわからなくなってしまっていた。
何がしたいのか、何ができるのかもわからない。
私は産まれてきてよかったのだろうか。
生きている意味がわからない。
そんなとある日。
その日も、一階ではまたあの人たち(・・・・・)が意味のわからない怒鳴り合いをしていた。
「…………!!」
「…!…………!!!」
いつものくだらない喧嘩が二階の自分の部屋にまで聞こえてきてうんざりする。
夕飯を食べ終えるとほぼ毎日喧嘩をするのだから、もう慣れてしまった日常だ。
それでも、五月蝿いものはウルサイ。
眠る時間までは部屋にあるテレビで動画を観たり、アニメを観て時間を潰す。
ヘッドホンをして外の喧噪を遮断していたためか、あっという間に眠る時間になる。
私はテレビを消してヘッドホンを外す。
いつもの泣き叫ぶヒステリックな女性の声が聞こえるのを無視して、ベットに横になり、枕元に大好きなファンタジーアニメのサントラを流す。
掛け布団を握りしめ、強く目を閉じる。
耳を流れる音楽に全神経を集中させる。
真っ暗な闇が視界を覆う中、脳内で今流れている音楽が使用された場面を思い描く。
キラキラとした世界と、自信と勇気に溢れるキャラクターたちを思い浮かべる。
意識はいつの間にか消えていた。
そして気がつくと、
真っ白な場所に立っていた。
瞼を開いた覚えが無いが、突然のことに驚いて、反射的に瞬きをする。
おかしい。
私は目を閉じていたし、きっと眠っていたはずだ。
見上げると空があり、下を見るとさらさらしている白い土のようなものが広がる場所に立っていた。
少し足の裏で地面を擦ってみるも、足に土や砂がついた感触は無い。
ただなんとなく無機質な、暖かみも冷たさも無いこんな土は知らなかった。
もう一度上を向いてみる。
太陽の姿は見えないが、この場所はそれによく似た光で満ちていた。
「あなたは誰?」
下から突然声がして私はビクッと震えた。
視線をそっちに向けると、先ほど下を向いた時にはいなかったところにリスがいた。
と最初は思ったが、すぐに違うと考えた。
リスの姿はしているが、少しだけ大きい気がするし、色も真っ青。
それに、
「ねぇ、聞こえてる?あなた、誰?」
動物はしゃべらない。
「あ、夢だからか」
「……話を聞ききなさいよ人間」
これは夢だ。
寝て起きたらここに立っているなんて、その上リスのようなこの小動物が言葉を発しているなんて、夢以外あり得ない。
二次元でも見たことがないその小動物と、面白そうだから話してみようなんて思って口を開く。
「えっと、こんにちは。私は勇音だよ」
「イサ……は!!?」
「なっ!!?」
名前を名乗った瞬間、小動物は口を大きく開けて体全体を震わせて驚いた。
そんな姿に私も驚く。
「な、それは私の名前よ!なんでわかったの!?」
「え?…それじゃあ貴方も同じ名前なの?」
「はぁ!?……あぁ、そういうことか。同じ名前のやつなんて初めて出会ったからびっくりしちゃった」
これには私も少し驚いたが、「私の夢の世界」だ。
ならばそういうこともあるのだろうとすぐに納得した。
「もうどうなってるんだろう……私やっと神種になったのにこんなとこにいるし!」
「し、ししゅ?」
「し・ん・しゅ!…え?あんた神種を知らないの!?って、よくよく見たら見慣れない格好…」
「?、ただのジャージだけれど…?」
私は自分の服装を見る。
紺色の一般的なスウェットジャージ、いつもの寝間着だ。
私の夢なのに、見慣れないというのはどういうことだろうと首をかしげる。
それにさっきの「しんしゅ」とはいったい何のことかさっぱり分からない。
「まぁいいわ!私こんな所にいる場合じゃないの!あなた、閲覧者なのだと思うけれど早く帰りなさい!」
「え?えつ、なに?帰る?」
小動物は早すぎる説教のようなもの言いでそう告げて、私の右側を抜けて駆けだした。
「え?ちょっと待っ!!?」
私の視線がそれを追って後ろへ振り向いた瞬間だった。
「まぶしぃ!!」
と思わず声にでてしまう程の光量が視界を埋め尽くして咄嗟に瞼を閉じた。
けれど閉じても眩しくて、遮るために右腕を上げる。
すると意識が遠のく感覚がして、慌てて瞼を開けようと試みるも無駄のようだ。
遠のく意識の中で、さっきのあの小動物が何か言っていた気がした。
「だ………。わ…の………ら」
加筆・修正しました。
やはりきちんと時系列分けねば……と思い至り。
最初の方は過去形です。2段落空白を置いてあり、続く文から本当のPrologueです。
では【Saras】をこれからよろしくお願いいたします。