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婚約破棄のその理由

作者: 陽乃優一
掲載日:2017/11/03

「ルリア・アルカーティス公爵令嬢!お前との婚約を破棄する!」


 年に一度の王宮での交流パーティで、この国、レシェンドラ王国の第一王子、シルト・ホーエム・アルジェラート殿下に、そう宣言された。多くの貴族・大商人とその子息が歓談している、その前で。


「そ、そんなっ…!殿下との婚約は、王家と我が公爵家との取り決めで結ばれたもの、それを、なぜこのような形で…!?」

「なぜだと…?ふん、なら、はっきり伝えよう!」


 殿下は、私に向けて指をビシッと立てた。


「ひとつ!お前は、数か月前に学園に入学してきたケラー商会の娘、ジュリアを、とことんいじめ抜いた!」

「え、私そんなことは…。むしろ、こちらから御挨拶しても無視されて…」

「とぼけるな!級友達の証言もあるのだぞ!お前は取り巻きと共に、ジュリアに嫌がらせを続けた。それも、陰湿で凄惨な方法ばかりでな!そんなお前が、未来の王妃に相応しいはずがなかろう!」


 取り巻き…?私に、取り巻きなどいただろうか。学園ではむしろ、誰に声をかけても無視され、また、誰からも近づいてくることはなかった。

 ‎それと、陰湿で凄惨な方法?確かに、それはあった。トイレの個室で誰かが上から水をぶちまけたり、用具入れに色とりどりの虫が詰められていたり、針がたくさん入っている封筒が何度も鞄の中に入れられていたり、他にもいろいろと。全て、私が受けた行為だが。


「ふたつ!公爵令嬢の立場を悪用し、学園の教師や学園長をたぶらかして自らの成績を改ざんしてきた!これも、改ざんの跡が証拠として残っているのだぞ!」

「あの、私の成績は学年で下から2番目…」

「だから、最下位の者を不当に貶めたのであろうが!」


 私の成績は本来最下位である、ということですか…。無遅刻無欠席は当然のこと、予習復習は毎日こなし、授業内の質問には適切に答え、宿題は全て締切前に提出。実技の時間でも、走るのはむしろ他の者より速く、剣技も魔法も一定の成果を出してきた。

 ‎しかし、いざ筆記試験となると、返ってくるのは見たこともない筆跡で答えが書かれた答案、ほぼ不正解の結果。そして、実技評価の一覧は全てマイナス。改ざんや不当な扱いがどちら側にあるかは一目瞭然であるのに。


「みっつ!公爵家の財産を湯水のごとく使った贅沢三昧!王都の名だたる商会に金を叩きつけて談合を迫り、諸国の珍しい服飾や高価な宝石を優先的に手に入れ放題!王家が懇意にする他のいくつもの商会が涙ながらに訴えていたぞ、不公平にも程があると!」


 …お金?お金って、なんだったかしら?そんな感想が頭に思い浮かぶほど、私は金銭に縁がない。

 ‎学園に通うため、お父様の住む公爵領から離れて王都の公爵邸で暮らしているが、王都に到着したその日に宛てがわれたのは、なぜか屋根裏部屋。使用人達の住む部屋の方が数倍も広くて快適である。そもそも、公爵の娘に『宛てがう』という言葉が執事によって使われたのはなぜだろう。

 ‎今着ているドレスや身に着けている装飾品も、街の古着屋で借りてきたものだ。実家から持参してきた金品を売って、ようやく借り賃を工面できた。なお、持参した金品は相応の量があったのだが、そのほとんどが部屋のタンスからいつの間にか消えていた。使用人達は知らぬ存ぜぬ、捜索する気もまるでない。


「学園の図書室で無料で借りられる書物を読むことが、私のとっておきの楽しみです。そんな私が、家の財産など…」

「しらを切るのもいい加減にしろ!全く、アルカーティス家のものはロクな者がいない…」


 最後の言葉は、聞き捨てられなかった。


「…殿下!私個人が貶められるのは、一向に構いません。ですが、ですがっ…!これまでこの国に尽くしてきた我が一族を侮辱することはおやめ下さい!それは、この場にいる国王陛下並びに諸侯の方々、有力者の皆様の総意でもありましょう!」


 特に、お父様が非難されるのは耐えられない。賢くも優しく、この国の民を、領民を、家族を常に思いやり、人々の暮らしをより良くしてきた、公爵領の当主。庶民に無理のない負担でも多くの税収があり、国の財政をも支えている。名実共に、この国の(かなめ)である。


「くっ…、なら言わせてもらおう!お前が未来の王妃に相応しくない、最大の理由を!」


 ‎それまで傍観するしかなかった、この場の人々の全てが、シルト殿下の声にあらためて耳を傾ける。


「アルカーティス家の女は成人になっても、胸がない!背が低い!童顔どころか乳臭いガキの小娘だ!そんなことでは、夜の」


 バキッ


 とりあえず、右頬めがけて飛び蹴りを食らわした。きれいにキメられたシルト殿下がきりもみしながらふっとび、床に叩きつけられる。

 ‎愉快に変形した顔で気を失い、ピクピクと体が反応しているけど、別にいいよね?うん、国王陛下を含めてみなさん納得したような顔をしている。よしよし。



 後日談。


 ‎王都に来てからの私の周囲に関するあれやこれやは、全てあのシルト殿下の仕業だった。とにもかくにも私をこれでもかと貶め、私が公爵領に逃げ帰ったところで婚約破棄の口実としたかったらしい。しかし、帰るどころか、学園で知識や教養、剣技に魔法と着実に身に着けている様子を見て、かなりあせったらしい。思い余った結果が、あの茶番である。そんなにちんちくりんの私が嫌だったんかい。

 ‎多数に及ぶ学園の生徒や教職員、公爵家王都邸の使用人、王都の商人や街の人々への買収工作に使ったお金は膨大なものとなったらしい。それこそ、国家財政が傾くほど。というか、国のお金のかなりを横領していた。これをなんとかするのがお父様や領民だとすると、心が痛む。それにしても、そんなにちんちくりん…もういいか。


 全ての暗躍が明らかとなったシルト殿下は当然廃嫡、辺境の男子修道院で余生を過ごすこととなった。めでたく婚約破棄が叶ったのだから喜んでほしいものだ。無理か。

 ‎殿下に買収された人々もひとり残らず摘発されたが、私の懇願で、それなりの罰金刑で済ませてもらった。理由が理由だし、なんというか、ねえ。


「すまぬな。第二王子には既に婚約者がいる。家同士の決め事とはいえ、大変仲睦まじく、無理に解消しようとすれば駆け落ちされかねん勢いでな…」


 公式謝罪のため国王陛下に謁見した私は、そう頭を下げられた。国王が臣下に頭を下げるのは前代未聞であるが、この場の誰からも異論はなかった。全員、あのパーティ会場にいたしね。


「一度、お会いしております。婚約者の伯爵令嬢は、年若くも大人の魅力たっぷりのお方で、大変うらやましゅうございます。いずれにしましても、今となっては詮無きこと。どうかお気になさらずに」

「う、うむ…」


 王家の男子(野郎共)の好みは代々変わらないようだ。隣に座る王妃陛下をちらっと見て、あらためてそう思う。おい、目をそらすな。


「余談でございますが、我が一族に連なる女子は全て子沢山でございます。私の母、アルカーティス公爵夫人も私によく似た風貌ですが、私は四男五女の長女でありますゆえ」

「そ、そうか…」


 子宝に恵まれることは、発展を続ける公爵領では幸福なことである。他の諸侯どころか諸外国の王家からも縁談・縁組が数多く舞い込むが、恋愛結婚も許容できるほどの余裕がある土地柄でもある。象徴的存在になりつつある、どこかの王家とは異なり。


「それでは失礼いたします、国王陛下」


 公式な謁見も雑務とばかりに退出する、私、ルリア・アルカーティス。どこかに婿養子に来てくれるいい人はいないかしらと思いながら王城の中を歩いていると、声をかけてきた男性がひとり。


「ルリア様!僕を覚えていますか?学園の公式行事で、一度剣を交えています!」

「ああ、確か…」

「上目遣いで挑んできたあなたが今でも忘れられません!第一王子との婚約が解消されたのでしたら、ぜひ僕とお付き合いを…あれ?ルリア様?どちらに行かれたのですか?ルリア様!?」


 婿は公爵領で探すか…。

あの、ギャグのつもりですので…。キーワード設定はしませんが。

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― 新着の感想 ―
[一言] シルト殿下その後を書いてください。
[気になる点] 四人も男子がいるのに婿養子って、公爵家は男子相続じゃないんですか? [一言] 初めまして。
[気になる点]  国家予算が傾くほど。 →【国 or 国の経営】が傾くほど。 ⇒現状、国の経営に響いているので、予算(=将来の予定)が傾くのはおかしいかと。  そして、それだけのお金をどういう名目で引…
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