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プロローグ
ジャスラの最も西に、一つの大きな屋敷があった。
――ラティブの領主、ルフトの屋敷だった。
そしてその地下のある一室……一人の女性と二人の娘が閉じ込められていた。
「……母さま」
長女のレジェルが心配そうに母に寄り添う。
「もう……フェルティガを使うのはやめて」
「駄目よ……」
母のベラがゆっくりと首を横に振った。
その身体は傷だらけで……座っているのもやっとな状態だった。
「何があっても……あなただけは守らなくては」
「でも……このままじゃ、母さまが……」
レジェルが泣きそうになっている。幼い妹のミジェルも、ぐずりながら母に纏わりついている。
「あなたが……発現しさえすれば……これが……」
ベラが震える手で懐から透明な珠を取り出した。
「きっと……力になる」
「だって……私には……」
何の力もないかもしれないのだ、とレジェルは言いかけたが、そのことだけを気力に今まで生きている母には、何も言えなかった。
ベラは珠を再び懐にしまい、目をつむった。
「そして……これをあの方に……渡さなければ……」




