6話 魔族が来るの?
「話になりませんね。人間が愚かで下等な生き物だとはわかっていましたが、ここまでとは」
ライアの厳しい言葉は現在進行形で突っ伏している俺に向け掛けられた言葉である事はわかるだろう。
魔王の仲間になった後、俺は1つの課題が出された。それは魔王幹部のゴブリンキングを倒し、その座を奪う事であった。
魔王が言うには魔族は良くも悪くも実力主義で力があるものには逆らう事をしないが力を持たない奴はとことん毛嫌いする生き物である。
そこに俺が仲間になると言うと一部の魔族からの反感が出て内部での反乱が起きてしまってはめんどくさい。
という事で手っ取り早く、序列持ちを倒せば仲間になるだけなら認めてくれるだろうという魔王の考えだった。
魔王の命令でライアが戦いの指導をしてくれているのだが、あれから数日、俺の異能についてわかってきた事があった。
「しかし、実際に異能だけを見てみれば厄介ではありますね」
「制限が無ければだけどな」
そう俺の異能は強力が故に制限が大きかった。
俺の異能は簡単に言えば猛毒だ。
しかし、いくら猛毒でもゴブリンキングを治した時に瞬時だった事が説明できないが、この単語しか思いつかなかった。
「上位回復魔法と同等で他の魔法を絶対に通さない。まさに猛毒ですね」
回復以上に恐ろしかったのは攻撃防御手段になった事だ。
「さ、いきますよ」
ライアの言葉により、氷の棘が大量に放たれるが俺に当たる事なく、少し手前で溶かされていく。
しかし、欠点があり、溶かした直後の魔法は氷魔法に限らず、蒸気を大量放出してしまう。
「ーーっ!?」
その瞬間、間合いを詰めていたライアの手加減された拳が俺にクリーンヒットし、吹っ飛ばされた。
拳が俺に当たった事から分かる通り、視覚外から攻撃、つまり俺がしっかりと視認しなければ防ぐ事が出来ないのだ。
「どちらにせよ、体術が当面の課題ですかね」
「もう無理そうだ…。」
極め付けは力を使用中は空腹が早まる。そして空腹が酷いと力を行使する事は不可能みたいだった。
魔王に斬り裂かれた時、俺は空腹が酷かった為に力が使えなかったみたいで食事を取った後に行ったライアの手合わせで拳を溶かしてしまったのは記憶に懐かしい。
「今日はこの辺ですね。しかし、アキトの力は燃費が悪すぎますね」
確かに今の俺は特訓を1日中行っているかせいか、昼を食べた後は3時間置きに休憩をしてその度に飯を食べている状況だ。
「慣れたら少しマシになったらいいんだけど」
「そうですね。アキトに食料庫を空にされてしまいそうです」
「うぐっ!」
ライアの容赦ない言葉は心を軽く抉ったのだった。
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「ふむ、全ての魔法を凌駕する異能か。我の魔法も跳ね返すのか興味もあるが出来なかった時に消し炭になられたら困るからな」
「さらっと言うな」
俺は毎度恒例となる食事の席で魔王と話しをしていた。
ライアから聞いた限り、魔王は名前の通り魔力の量と質は他の追随を許さない実力らしい。
「力は荒いがゴブリンキングと戦ってみてもいいかもしれないな。それにゆっくりできる時間も限られてきたのだ」
「どういうことだ?」
今まではゴブリンキングといえど、異能を持ってすれば勝てる事は言われていた。それほどまでに強い力ではあるのだが、それは序列50位より数字が上の奴限定である。
ちなみにライアは序列でいうと47位であり、俺は一度たりでも戦闘で勝てていない。異能を行使してもだ。
この事からライアより上はかなりの強者である事がわかり、更に気性が荒いやつもいる。
つまり、何が言いたいかというとーーーー
「魔王が力をつけなくちゃ上位幹部クラスの魔族直ぐに殺されちゃうって言ったんじゃないか」
「そうなのだが、事はそう流暢に話していられる状況では無いのだ。我が命令すれば無論、お前に手を出すものはいないだろう。しかしだなそれだと魔王として我を認めない者が出てきてしまい、内部での抗争は避けたいところなのだ」
「そういえば、そろそろでしたね。時期が悪い」
ライアも何かに気付いたようで苦虫を潰したかのような顔している。
どうやらこの状況下でわかっていないのは俺だけみたいだ。
「今日から7日後、序列3位の奴が魔王の城を訪れる。それまでにお前は自分の身くらいは耐えられるくらいの力を手に入れよ。それが出来なければお前は死ぬ」
魔王の言葉は容赦なく、嘘をついているようにも見えない。
相手のことさえ視認できれば溶かす事が出来るが、触るたびに蒸気みたいなのが上がるのだ。それで視界が奪われるのが今の課題である。そこから改善して身体強化。今でさえライアに手加減してもらっているのに出来るのか不安しかないのは仕方がないだろう。
その日からライアの特訓もハードになった。
なんだかんだライアは魔族らしからぬ程に優しい。相変わらず言動こそは棘があるものの、後から魔王から俺の面倒を見ろ言われていたが殺すなとは言っていないと聞いた。
にも関わらず、俺の特訓に付き合ってくれるのだ。理由は全くわからないのだが。
魔王に魔族の来訪を告げられてから3日後、残りを4日と迫ったところで俺は遂にゴブリンキングと戦う事になったのだった。