5話 スキルなの?
魔王は俺の頷きを見てから口を開いた。
「まずは君も知っている事に付け足すように話していこうか。もうわかっていると思うが我はこの世界を100年前に支配している。君の認識がどこまでかは知らないが生温いものではなく、数多くの人間を殺したのも事実だ。そして我は楽しいことが好きであるが故に人間を支配後は殺す事を許可をしなかった。面白いものだよ。人間は何もしてこない魔物に対して恐怖で夜も眠れぬ者が最初はたくさん居たが、慣れなのか数年もすればそれも無くなった。そして人間は魔法陣とやらを作り、主要都市には防護壁を築き上げた。それの延長戦上にあり、我の配下、魔物や魔族に対抗しようと召喚した者達こそが勇者と呼ばれる存在だ。ここまでで質問はあるかね?」
「いや、特には無いが強いていうなら魔王は結局何をしたかったんだ?」
俺の質問に魔王は面白そうに口角をあげた。
その顔は正しく魔王と言えるだろう。
「なに簡単な答えさ。人間共が恐怖で醜い姿をどこまで晒すかと気になっただけだ。それに結果論であるが勇者という面白い存在を我にくれたのだからな。幻滅したか?」
「いいや。俺にはこの世界の人間とは一度も接点が無いから情なんて湧かないし結果だけ見ればお前は人を生かしてるんだから共存してるとも言えるしな」
俺の意見に魔王は一度キョトンとした顔を浮かべると大笑いをした。
「共存か。変わった人間だな。では話しを戻そうか。その勇者だが召喚されたのは3人だ。そしてその3人には魔法ではない特殊な能力があるのだが、召喚されたのが3日前で情報が少ないのだ。どんな異能かは言えないが、言ってしまえば、3日で我の配下で幹部がやられたのだ。いくら序列100位と言えど敵の異能が強力なのは未知数ということも踏まえてわかる事だ」
「そういえば、ゴブリンキングだったか?そいつの情報だったら対峙したのは【最優の勇者】って」
「覚えていたか。ゴブリンキングの情報によれば、その男は魔法ではありえない攻撃手段だったようだ。何もない空間から武器を作り出し、それは幻覚などの類ではなく当たれば出血する。それが【最優の勇者】の異能とみて間違い無いだろう」
魔王はまたも何かを考えるかのように顎に手を添えているが、何を考えているかまではわからない。
しかし、俺の他にもこの世界の者では無い人物がいるのは幸運だ。その人達から元の世界の情報が聞き出せるかもしれない。
「なんとなく話は読めたけど、その異能が俺にもあると魔王は考えているわけだよな?」
「あぁ、君の言ってる事が本当で異世界から来たのであれば、その可能性は十分に考えられる」
自分の手を握りしめたり開いたりと繰り返しながらファンタジーな要素に嬉しくなる。
「だが、その力がわからずに頼るのは危険だ。そこで提案なのだが我にその異能を調べさせてくれ。協力してくれるなら魔王として我の仲間に歓迎するぞ」
魔王の提案は魅力的だ。
実際に異能とやらを使えた時はゴブリンキングの傷を治したわけだが本当に傷を癒すだけなら魔法でもできるし、需要が無い。何よりもそれだけでは無いと俺の勘が告げていた。
「その話に悪い点なんて無いし、俺の異能も食事も提供してもらえるなら願ってもない提案だし、俺は魔王の仲間になるよ」
「そうかそうか。なら歓迎しよう!新たなる仲間よ!我の名前はルシフェラルだ」
魔王は満面の笑みでそう告げ高らかに祝福の言葉をくれた。
こうして俺は魔王の仲間となったのだった。
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場所は変わり、照史が去った森の近くには10人くらいの騎士の格好をした男達が辺りを眺めていた。
「カズヤ様、確かにゴブリンキングに痛手を負わせたのですよね」
騎士の中でも明らかに威厳ある40代くらいの男性が照史と変わらない年齢の少年に敬語で話す。
「確かに負わせた筈なんですけどね。見つかんないですね」
カズヤと呼ばれた男は頭を掻きながら同じように周りを見渡しているが、なんせ森の中だった為に捜索は難航していた。
「あの傷だったら出血大量で死んでると思うんだけど死体が見つからないと不安だな~」
あの時のゴブリンの量は多くて、偶々居合わせたカズヤにとっては1人で数の暴力を相手にし、勝って生還できた事を誇りたいのだが相手の頭、ゴブリンキングに逃げられてしまった。
致命的なダメージを与えていた筈なので生きてるわけはないと思うのだが後日、騎士団と確認に向かうことになったのだが、先程も言った通り捜索は難航していた。
「団長!こちらに血の跡があります!」
騎士団員の発見でようやくカズヤの肩の荷もおり、その血を辿ってみたが、新たなる問題に衝突した。
「血が消えてるだと」
騎士団長の言葉は普通ならばありえないことだった。
魔王がこの世界を支配されて以来、人間の大陸では魔法が衰退化しており、それは魔物も同じである。
その魔物が傷口を治し逃走したと考えるのは無理があった。
「これは大問題かもしれないな」
「一体どういうことですか?」
騎士団長の重苦しい言葉にカズヤもゴクリと息を飲むように続きの言葉を待った。
「魔物は本来、自分の力で傷を塞ぐのは不可能です。それを可能とするのは魔族のみ。つまり、魔族がこの地に降り立っている可能性が」
ゴブリンキングを照史が助けたことによって、人間の大陸では魔族の襲来ということで処理され、一層警戒が強まったのだが、当の魔王や魔族は知る由も無いことであった。