3話 魔王様なの?
「しかし、魔法が衰退してる中で魔法陣なんてものはあるんだな」
俺とゴブリンはすでに森の中を進み転移魔法陣によって既に魔大陸の地へと踏み入れていた。
魔大陸に入ってから大きく変わった事がある。
「むしろ逆だ。魔法が衰退したからこそ魔法陣が出来上がったんだ」
それがゴブリンの言葉が流暢になった事だ。何でも人間が住む大陸では魔力が少ないので話すことも上手くはできないという。
勿論、上の種族の悪魔クラスになれば人間の大陸でも流暢に話せるみたいだがゴブリンなんてそんなものなのだろう。
「今更なんだが、魔王ってそんなに簡単に会ってくれるもんなの?俺に限らず、魔物全てに」
「アキトが何を勘違いしてるか分からないが俺はゴブリンでもそのリーダーだからな。魔王幹部だ」
「は?」
初めて知った情報に俺は歩いている足を止め、唖然としてしまった。
ゴブリンも立ち止まり、俺の方へ向くがその容姿は誰もが想像するゴブリンに変わらない。
緑色で身長は俺の胸辺りか少し低い方だ。これで魔王幹部なんてあり得るのか。
「あー。幹部といっても序列で言えば底辺の100だがな」
「なんだよ…。驚かせるなよな」
ゴブリンの補足説明に安堵の溜息が漏れる。
しかし、数多くいる中での序列100は凄いのか。それとも底辺だから凄くないのか俺には分からないが。
再び歩みを再開するが、そもそも俺の疑問は何も答えられていないことに気付いた。
「それで魔王幹部だから魔王が会ってくれるのはどういう繋がりがあるんだ?まさか、魔王幹部はみんな友達!いつでも会いにきてねって訳じゃないよな?」
「当たり前だ。俺があの森で重傷を負ったのは勇者と対峙したからだ」
「勇者って召喚された奴らか」
俺がそういえばそんな話も少し触れたなと思っているとゴブリンは唐突に立ち止まった。
「着いたぞ。我が敬愛する魔王様が居る城だ」
「は?何も見えないけど?」
ゴブリンは着いたと言ったが、それらしき建物は見えず、気味の悪い森の道が続いているだけだ。
「魔王様の住処は見えないように魔力で不可視化されている。入る為にはそれを解くしかないんだ」
そう言ってゴブリンは何も無い虚空に手をかざしただけでゆらゆらと大きい城が姿を現した。
「行くぞ」
「魔王って簡単に会うくせに住処は隠すとか意味がわからん」
俺は軽く溜息を吐いてゴブリンの後を付いて魔王のいる城へと入ったのだった。
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「やぁやぁ、よく来たね愚かな人間よ!と君もご苦労だったね。報告を先にしてもらおうか」
非常に腹立つ入り方で歓迎してくれた見た目は若く20代初めで、その頭に立派な角を生やした男が魔王だ。ゴブリンは頭を垂れているが、俺はその後ろでその光景を眺めているだけだ。
「私は魔王幹部序列100のゴブリンキングです。俺が報告するのは昨夜、人間の大陸のファシスタ王国近辺の森にて例の勇者に遭遇しました」
「ほぉ、勇者ね。確か3人居たんだったね」
魔王は受け答えするものの興味が無いような感じで椅子に座り、自分の爪を弄っている。
「それで君が無傷という事は力も大したこと無いみたいだが」
「いえ、逆でした…」
ここでようやく魔王が興味を示したかのようにゴブリンに視線を向けた。
「逆という割には君に目立った外傷はなく、魔法が掛かっているというわけでは無いようだが」
「はい。しかし、嘘偽りは無く、俺が対峙した勇者は【最優の勇者】と呼ばれている勇者で間違い無いと思われます。どういう訳か手元に見たことのないような武器を出現させ、俺の軍はほぼ壊滅的。俺も死んでもいいくらいのダメージを負いました」
「ふーん。今の話は我には嘘にしか聞こえないが、それならば誰がその傷を治したのかな?」
「それは俺の後ろにいるこの男です」
そして魔王は俺の方へと視線を向けた。
先程の歓迎的な笑みを浮かべた顔とは違い、今度は冷え切った顔で睨みつけられた。
「もう一度確認するが、君は勇者に死んでもおかしいくらいにはダメージを負ったんだよね?」
「はい、それを一瞬で治しました」
ゴブリンの言葉で魔王はニヤリと笑い立ち上がり俺の目の前に一瞬で移動した。
今の転移というやつなのだろうか?
というよりいつの間にか俺凄い奴扱いされていることに驚きが隠せない。
「君の体から魔力は感じられないが一体どういう事なのかな。それより君は勇者なのかい?」
「え、魔力に関しては分かりませんが、俺は勇者では無いです」
俺の心臓はバクバク状態だ。殺し合いの世界とは無縁の生活だった筈なのに魔王からの威圧に俺はビビっているらしい。
「ではーーーー」
「は?」
その時、魔王は俺の身体、首から腹に掛けて大きく斬り裂いた。
しかし内臓は斬られていないようで肉を斬られただけのようだ。
「ッッッっ!!」
突如として訪れて激痛に俺はその場で倒れた。
「さぁ、再現したまえ。君がゴブリンキングを救ったように。今に君、このままでは出血大量で死んじゃうよ?」
痛みの中聞こえてくるその声に俺は声にならない悲鳴を上げて、あの時と同じように自分の傷口に触れたが何も変化が起きない。
それがわかると同時に俺の意識も離れていく。
「ふむ、何も起きないようだが。魔法と同じで熟練度が必要なのかもしれない…か」
「魔王様これ以上は死んでしまいますが」
「仕方ない。客間に運んでおいてくれ」
そして最後に魔王が俺に触れたように感じたが俺はそこで意識を完全に失ったのだった。