1話 異世界なの?
みんなはファンタジーな世界に憧れたことはあるだろうか?
なぜ唐突にこの質問をしたかというと俺は現在進行形で異世界という場所に来てしまったらしい。
空は変わらない青空の中に白い雲が浮き、空気はとても澄んでいる。そこから少し下に視線を向ければ俺の元の世界とは違うと一目瞭然だ。
「地平線とかマジかよ…」
建物が建ち並んでいて、どこを向いても何かしら建物が映り込んでいた元の世界とは違い、そこは建物は見渡す限り無く、地面と空が隣接しているかのように感じられるほど何もなかった。
強いていうなら森が俺の後ろにあったので、そこを見れば空と地面は繋がってなどいないということがわかるということだ。
つまり、いま俺がいる場所は無駄に広い草原にポツンと立っているということである。
まずは俺が何故こんな場所にいるのか思い出したいのだが、何も思い出せない。思い出せることは俺の名前が多比良 照史といって歳が16歳という事、後は俺がこの世界の住人では無いという事くらいだろうか。
軽く周りを見渡してみたが他には何も落としているものは無いようで、ここからどこへ向かえば良いのかもわからない状態だった。
「なにこれ…。どうすんの?」
誰も周りには居なくて言葉が漏れてしまう。
元の世界がどういった場所だったのかなどは夢で見たことあるかのようにはっきりではないが覚えている。
「取り敢えず陽が真上ってことは今はお昼くらいだろうから夜までは多少時間があるな。歩いてみるしかないか」
何も情報がないからといって立ち止まっているわけにもいかないので、まずは目印として分かりやすい森の手前まで行くことにする。
森は何もわからない状態では危険だとわかっているのだが、地平線が見える方へ進んでいったとしても陽が暮れるのは目に見えてわかる。なので少しでも希望が見える森の向こう側を目指そうと思ったのだ。
そこから中に入らずとも沿っていけば、どこか町が見えてくるのではないかという考えだった。
そして俺は森の方に向かって歩き始めたのだった。
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「うーん。この森、不気味だな」
思ったより森は遠く、辿り着くまでに時間を要してしまったが無事に森の手前までは辿り着けた。しかし、森の中からは鳥類と思わしき鳴き声が響きあたり、不気味さを助長させていた。
俺は元から入るつもりはなかったので、そこからそうような形で歩き始める。
結果から先に言えば何もなかった。
辺りはすっかり暗くなり、俺は途方にくれていた。最初にいた場所から見たら森はそんなに大きいものじゃないように見えたが実際は大きすぎて回り込むには無理があったのだ。
「暗すぎて何も見えない…」
俺は夜目が利くというわけでも無く、歩くのは危険と判断し今は木の根の近くで身を潜めている。
誰がどう考えても今の状況は危ないとわかるのだが、これ以上するべき事がわからないのだ。
「いくらファンタジーみたいだからといって魔物みたいなのはゴメンだぞ…」
はっきり言って怖い。
物凄く怖いのだが火を起こせるわけでもないし、光になるものがあるわけでもない。おまけにすごく腹が空いた。
昼から何も食べていないのだから当たり前なのだが森の中を覗き込んでも何か食べられるようなものは視認できなかった。
「まさかここで死んで終わりとかいうのは無いよな?」
普通はこういう時チート能力があって異世界に対応できるものだが、ここまで何もわからないと恐怖しか無い。
歩いてる途中に魔力的なものは無いか考えられる事は試してみたが何も起こらなかった。
ガサガサっ!
「…!?」
突如として鳴り響いた草むらの音に過剰に反応してしまう。
何も喋る事は出来ないが、ジッとその音が鳴った方向へと目を向けると、そこから緑色の液体を大量に流したボロボロの生き物が出てきた。
「う、気持ち悪っ」
見た目はお世辞にも普通とも言い難く醜い容姿、更には緑色の液体も相まって気持ち悪さを助長させていた。その容姿はファンタジーでお馴染みゴブリンというもであった。
「オマエ…ニンゲン…カ…」
「うわっ!」
息も耐え耐えの状態でゴブリンが話してきた事で俺は後ろに尻餅をついてしまう。
「ウン、ワルイ…」
「お前言語がわかるのか?」
異世界で初めて会い、話したのがゴブリンって聞いた事ないと思いつつも情報源を死なせるわけにはいかないと俺は見た目が最悪のゴブリンに勇気を出して近寄り声を掛けた。
「ワカルゾ。オレ、ゴブリン、ユウシュウ」
一応、会話ができることに安堵し俺は倒れ込んでいるゴブリンの傷口にゆっくりと触れた。
「ナニヲ…。ッ!?」
その瞬間、ゴブリンの傷口が塞がり緑色の体液もすべて消えて行く。
「え?なになに!?」
俺でも全く意味がわからなかった。でも何故か傷口を触れれば何かが起こると頭に思い浮かんだのだ。
「キズグチ、キエタ」
ゴブリンはゆっくり立ち上がると自分の体を確認し俺の方に目を向けた。
「オマエ…ニンゲンカ?」
そして再び同じ事を繰り返したのだった。