3月21日〜31日
『二人で遠くへ旅を』(3月21日 マダガスカル・ジャスミン)
次は何処がいい、と彼が訊いた。何処でもいいわ、でもうんと遠くへ行きたいものね、と彼女が答えた。二人は手を取り合って微笑む。それは絵画のように美しい光景だった。行く宛のない二人旅。永遠の船出に鮮やかな花束を。
『希望』(3月22日 連翹)
それは春を告げる黄金の鐘。僕等の世界に差す一筋の希望。その音色が響き渡る時にきっと雪解けのように全ての魔法が解けて、悪意の連鎖も止まる。その時まで生き延びるのが僕等の役目だ。君の手を引いて連翹の花の下へ。君の笑顔を取り戻してみせるから。
『順応』(3月23日 ヒマラヤユキノシタ)
君ならやっていけるよ、とその人は言った。私の気持ちも知らないで、と詰りかけて飲み込んだ後、必死で笑顔を貼り付けた。その歪んだ頬に気付かない程に彼はもう私のことなど見ていなかったのだ。それなら私も慣れてやる。彼のいない世界に。
『初恋』(3月24日 カタクリ)
雷が落ちた。僕の頭上から真っ直ぐ僕だけを目掛けて。不意打ちだと空を仰ぐ。おや、可笑しいな。雲なんて一つも見当たらない。あの衝撃は何だったのか。君がそんな僕を見て微笑む。あ。という間もなく再びの落雷、感電。そうか、これが初恋なのか。
『恋の予感』(3月25日 ケシ)
風が髪を攫っていく。押さえた前髪の隙間から見えた笑顔で私の心まで旅立ちそうになる。それはまるで天啓。もしくは悟りを開いたような心持ち。分かった。全面降伏。私、あなたに恋をする。でも今はまだ目隠しをさせて。言葉を交わして恋に堕ちたいの。
『あなたに従う』(3月26日 ケマンソウ)
目を伏せる。耳を塞ぐ。私は何も見ない。何も聞かない。私の世界に必要なのはあなた以外に何もない。誰かの救いの手も助言も、自分の心さえ、要らない。あなたがいればいい。あなたが手を引いてくれる。それだけに縋って慕って従っていたい。
『ごめんなさい』(3月27日 ヒヤシンス)
ごめんなさい。そんな上辺だけの謝罪は要らない欲しくないと僕は突っ撥ねた。声は強くなる。やめてよ、もう言わないで。どんなに謝っても過去にはもう戻らない。僕も君も歩かなきゃならない。安心して。僕は君がいなくても幸せになれるから。
『優れた美人』(3月28日 ソメイヨシノ)
憧れというものを初めて自覚した。美しい人。誰にでも優しくて誰からも慕われていて。「私もいつかなれるかな」「さぁ」「肯定してよ!」「ふふ、じゃあうんと綺麗な心のまま大きくなりなさい」「分かった!」ずっと憧れの人だよ、お母さん。
『忠実』(3月29日 スモモ)
あなただけを見てるよ。あなたの心だけに触れるよ。ちゃんといいこにしていられるし、あなたのこともちゃんと褒めてあげる。どんな理不尽な要求にも全力で応えるし、弱音なんて吐かないでいるよ。だからどうか傍にいて。離れないように、離さないように。
『潔白』(3月30日 大根)
君は何一つ悪くないと声が嗄れるまで叫び続けた。君の無実を証明する。僕はその為になら命を懸けても構わない。例え本当に君が悪者なんだとしても。この世界に白い鴉がいないことを証明なんて出来ないのだから。君の妨げになるものを僕が無くしてみせる。
『戸惑い』(3月31日 黒種草)
こんなことになるなんて。まさかの自体に狼狽える。どうにかなってしまいそうな胸の内を誰にも話せずにいる。目が合う。心臓が掴まれた。やめてくれ。これ以上掻き乱すのは。脳味噌の芯から溶けていく。この感情は何だと言うのか。
「それが恋だよ」