5月11日〜20日
『慕情』(5月11日 ニセアカシア)
彼は彼女を愛していた。彼女も彼を愛していた。二人の想いは重ならない。愛の種類が起こした擦れ違い。奇跡は風に流され、少しの憐憫と惰性が残る。如何に愛しい者に出会おうとも叶わないなら意味はないのか。輝けた日々と慕情の残り香が初夏の陽射しに揺れる。
『自由』(5月12日 アスチルベ)
吹き荒れる風に乱される君の帽子のリボンの先に見蕩れてしまう。僕の心ここに在らず。その自由の指先はそれと戯れ、傷付くことすら厭わない。悲しまないで、愛しい人よ。苦しまないで、優しい人よ。君の自由は僕を殺す。それすら至極の幸福に変わっていくなんて。
『希望』(5月13日 山査子)
「あ、サンザシ」「この花そんな名前なんだ」「5月の代表みたいな花だよ」「へぇ、これが?」「海外ではメイフラワーなんて呼ぶの」「…わざと教えてる?」「…バレた?」「やだねぇその楽観主義」「あら、希望的観測って言ってよ」「あんたの花って覚えとくよ」
『あなたを忘れない』(5月14日 紫蘭)
手を伸ばしても届かないと知っていて、声すら聞こえないと分かっていて、それでも求めてしまう心が傷んでいって、屠った恋心がじわじわと腐っていって、さようならすら交わせなかった後悔に蝕まれて、そうやって降り積もる幾つもの欠片が僕を形作るんだね。
『白い追憶』(5月15日 ドクダミ)
遡る。想いの影で笑ったあなたの横顔。遡る。きらきらの片隅で零したあの子の涙。遡る。悲しみを振り切った爽快さに泣いたあの日の僕等。遡っても戻れない日々は、きっと宝物になっていって。いつの間にか何処にしまったのかも分からなくなって。それでも僕は。
『誇り高さ』(5月16日 イキシア)
花開く時を夢見て眠れ。誰にも穢されず、誰にも貶められず、ただその時が来るのを静かに。優しい風に誘われても、激しい雨に打たれても、その蕾を守って生き延びろ。お前の可能性を潰させてくれるな。強く、柔らかく、そして何より自分に胸を張って、いつか。
『慈愛』(5月17日 ジャガイモ)
慈愛に満ちたあなたの言葉は逐一僕に突き刺さる。世間はあなたを讃え、僕を批難するだろう。当然だ。あなたの深い心を受け止められないのは僕だからだ。それでもあなたの優しさを求めてしまうのは僕だからだ。もっと慈しんで、もっと愛していて。
『良い便り』(5月18日 アヤメ)
今すぐ伝えたい。この喜びを。君に告げたい。この今の溢れる幸福を。今、今、今。走っていくよ。飛んでいくよ。この想いが伝染して、君をもまた幸福に包めるように。温かい優しさで君を抱くように。破顔する君に想いを馳せる。早く、早くと脚を急かしながら。
『知性』(5月19日 胡桃)
その硬い殻を叩き割る。溢れる中身、付随するとめどない知性。真実を手に入れる時、人は美しく在り続けることが出来るだろうか。恋する魔女は人知れず硝子の瓶にお呪い。胡桃を一粒二粒三粒。拙い願いを叶えておくれ。香ばしい愛情を前にして、賢さの意味は何処にある?
『清明』(5月20日 デルフィニウム)
軽やかに波を飛び越えて、艶やかな尾を翻し泳ぐ清らかなシルエットを思い出す。もう一度彼等と共に泳ぎたかったと海を恋しがる美しい者の為に、せめてもの慰めに買い集めた腕いっぱいのデルフィニウム。喜ぶあなたの笑顔はやはり初夏の日差しより眩しかった。




