5月1日〜10日
『可憐』(5月1日 プリムラ・ポリアンサ)
それは私の武器だった。これさえあればどんな男だってイチコロで、どんな女も私には敵わない。嫌う奴は嫌えばいい。私は狙った獲物を逃がしたくない、それだけ。そんな私が囚われてしまうなんて、誰が想像出来ただろう。本物の可憐さを纏う少女に、私は。
『再び幸せが訪れる』(5月2日 鈴蘭)
失ったのはかつての約束。もう二度と手に入らない日々は色褪せることなく僕の胸の内で留まっていた。いや、留めておいたから色褪せなかったのか。再び訪れた幸福は長年僕を蝕んだ悲しみに良く似ていた。痛みと驚きと拙さのハーモニーをここから君と奏でたい。
『美しい思い出』(5月3日 水芭蕉)
私の大切な宝箱には沢山の宝物が眠っていて、時々取り出してみるのだが、その途端に幸せが蘇る。一つ一つの美しさは違っていて、何度見ても、どれだけ眺めても飽きやしない。触れられないけれど、戻れないけれど、大切な美しい宝物。『想い出』という名の宝物。
『気品』(5月4日 山吹)
初夏の美しい山の中で美しい人に出会った。僕は一目で恋に堕ちる。「美しい人、僕と共に里に参りませんか」その人は黙って山吹の花を差し出し去ってしまう。僕は振られた怒りでその花を叩き付けた。
後から里の名士に嫁ぐ人だったこと、あの花に込められた意味を知った。
『嬉しい知らせ』(5月5日 花菖蒲)
待ちに待った朗報が届いた。偶然にもそれは子どもの日。数々の苦難の中で育まれた生命は無事この世に生まれ落ちたようだ。私は娘の戦いを想像し、その幸福を想って、少しだけ泣いた。良く頑張ったね。その一言を伝えたい。逸る気持ちを抑え、家を飛び出した。
『威厳』(5月6日 石楠花)
簡単には触れられない。見ることも出来るかどうかあやふやな境目で、私はあなたに出会い、恋をした。山の精と謳われたあなたは不可侵さを身に纏い、満ち溢れんばかりの威厳が私の恋路を妨げる。あなたに捧げる心臓を祭壇へ。最期に一目、もう一度あなたを。
『王者の風格』(5月7日 牡丹)
また私に恋をした若者が命を賭して乞い願う。新鮮な心臓は愛の証。そんな古くて生臭い伝承を信じる愚か者に興味はない。それが例え初めて見た時から想いを馳せたあなただろうが。私は山の王者であり、分け与えるもの。何者にもこの風格は崩せやしない。
「必ず手に入れる」(5月8日 オダマキ)
欲しいものは何でも手に入れてきた。愛することで全ては私に平伏してきた。それなのに何故。人生最大の強敵。立ちはだかるのは私の持ちうる限りの愛を注いで注いで、注ぎ尽くしても飽き足りないほどの想い人。待っていなさい。必ず陥落させてみせるから。
『高潔』(5月9日 クレマチス)
淡くも印象深い青が視神経を刺激した。美しいあなたを離したくなくて、独り占めしたくて、籠の鳥のように大切にしたくて。あなたはカナリヤの如く心を閉ざしたが、それでも美しさは衰えることなく益々輝いていく。神々しさすら身に纏い、あなたは今日も潔く在れ。
『純粋な愛情』(5月10日 カーネーション)
愛情なんてもの信じていなかった。この世で初めてのそれをくれるはずの人にすら蔑まれて生きてきた私を、誰が愛してくれるというのか。そんな幻想に心砕くくらいならば孤独に身を裂かれた方が幾分マシだろうと信じていた。今は違う。君に会えたからね。




