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あの世の行きの電車  作者: 林 秀明
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よみせ

扉を抜け、少年はビュンビュンと走った。そのスピードは図り知れず、周りの風景が全く分からない。ようやく少年が止まった先は、何かのテーマパークの入り口のようだった。少年はそこで手を離し、にこっと振り返り、笑顔で話す。


「改めてようこそ黄泉よみの世界へ。ここは死と恐怖の隣り合わせのパワフルなテーマパークだよ」


「黄泉…の世…界!?」咲はたどたどしく言う。まだ現実世界でない事が飲み込めない。


「そう。みんなは略してよみせって言ってるけどね。お姉ちゃんはここへ招待されてラッキーだよ」


「ラッキー? そんな訳ないでしょ。私死んじゃったの? これからどうなるの? もっと生きたかったのに!!」咲は憤慨した。自分の人生があっけなく突然幕を下ろすのが嫌で堪らなかった。


「なんで……なんでなの」咲は膝から落ち、地面に涙を流した。


少年は少し悲しそうな顔をした。私が言い過ぎたのだろうか。それとも心の叫びが通じて同情をしてくれているのだろうか。


「…お姉ちゃん、ごめん。僕嘘をついた。お姉ちゃんは本当は死んでないんだ。現世とあの世の境目にいるだけなんだよ。ただ僕友達が欲しかったたけで……。お姉ちゃんはあることをクリア出来れば現世へ帰ることが出来るよ」


「本当に本当!? そうなんだ……良かった」咲は自分が死んでいない事に感謝をした。少年が嘘をついた事よりも、今ある自分の境遇を素直に喜んだ。


咲は少し冷静になって、涙を拭きながら聞いた。「あることって何なの?」


「お姉ちゃん煩悩って知ってる?」


咲はあまりにも唐突な質問に答えれなかった。「ぼんのう?」


「そう。まぁ人間の心の中にある欲望とか、怒りなどの気持ちだよ。煩悩は百八の数があり、仏様はそれを克服するよう人間に教えを説いているんだよ」


「はぁ……」咲はいまいち話が飲み込めない。もう少し学校で勉強をしなきゃと思った。


「この世界では人間の煩悩を洗い、克服するために様々なアトラクションが存在している。お姉ちゃんはそこのアトラクションをクリアし、無事百八個の煩悩コインを集めれば現世に帰る事が出来るよ。ただし二十四時間以内にね。お姉ちゃん招待されて良かったね」


少年は一通り説明をして、少しふぅと安心のため息をする。


「良くないよ。本当に……。アトラクションって、前に見える遊園地みたいなの?」


「そうだよ。ちなみに『よみせ』は広さで云うと東京都くらいあるかな…」


咲は東京都分の遊園地を思い描いた。とてもじゃないが周りきるのに何年いや何十年かかるだろうか……


「そんなの絶対にクリア出来ないよ。このまま死ぬのは嫌だよ」咲は現実を思い返し、また泣き顔に戻る。


「仕方ないなー。今回だけ僕が特別に最短でクリア出来るルートでついて行ってあげるよ。僕も暇だからお姉ちゃんと遊びたいし。ただ死の危険が高いほどアトラクションでもらえる煩悩コインは多いから、そこを選別して行くね。アトラクション中に死んだら、即死亡で本当にあの世行きだからね」


咲は希望と絶望の返事を同時に聞き、なんとも言えない気持ちになる。でもやるしか道はない。


「分かった。行こう……」


咲は重い足を勇気を振り絞って上げ、園内へと入って行った。


少年はその後姿を見て、不気味に笑った。


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