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あの世の行きの電車  作者: 林 秀明
17/18

真っ白な部屋

その後しんと無音の世界が続いた。死んだあの世は音もないのか……痛みはなく、ただ手の温かさだけが身体中にはっきりと伝わってくる。咲はゆっくりと目を開けた。ここまで来れば恐れる事は何もなかった。目の前に広がるのは真っ白な部屋の空間。それだけだった。ゆっくりと体を起こすと、翔太が目の前にいた。それは今まで見た翔太に間違えなかったが、どこか輪郭が薄いように思えた。


「咲姉ちゃん、おめでとう」


咲はどっちのおめでとうか分からなかった。現世に戻る事が出来たのか、それとも死んで自分の友達が出来てのおめでとうなのか。


「何故か分からないけど、ヤゴローは僕たちを食べなかったよ。手には取ったけどね。お腹いっぱいになっちゃったのかな」


「ということは……」咲は腰かけに掛けている巾着袋を見た。中から黄金色の光が輝いているようだ。紐を解くと一枚一枚のコインが眩しすぎるほど輝いていた。


「おめでとうの意味わかった?」翔太は満面の笑みを浮かべる。


「うぇーん」

咲は子供のように号泣した。家に帰れる喜び、生きる喜び、そして自分を信じ続ける事が出来たわたしを褒めてあげたかった。


「子供だなー。まだ終わってないのに、はい、これあげる」青く光り輝く一枚のコインを咲は受け取った。


「これは?」


「これはお姉ちゃんの未来を生きていく最後の輝いたコインだよ。泣き虫のお姉ちゃんが真っ直ぐに生きる色をしてるでしょ」


青く輝くコインは他のコインと違い、とても温かかった。人の手の温もりを感じるようだった。


「全てのコインを持って、あの向こうの白い扉を開ければ、最初に乗ってきた電車に辿り着けるよ。あとは時間がなんとかしてくれるさ」


「ありがとう、翔ちゃん」咲は涙を拭きながら感謝をした。


「正直ホントはお姉ちゃんを死の世界へ連れて行こうと思ってたんだよ」


「え!?」


「でもアトラクションをクリアしていく度にお姉ちゃんの生きたい気持ちが伝わってきて、助けたいと思うようになったんだ。この世界では僕は一人ぼっちで友達が欲しいと思ったんだけど、お姉ちゃんはここにいるべきじゃないと思ったんだ」


「そうなんだ……翔ちゃんはもう戻れないの?」


「うん、死んじゃってるからね。でもお姉ちゃんとの『よみせ』楽しかったよ。また遊びたいな」


「そうね、その時が来れば……いや、いつか絶対くるよ」


「咲姉ちゃんありがとう。僕の分まで生きてね。約束だよ」


翔太は咲と指切りをした。


「咲姉ちゃんさようなら。頑張って彼氏つくってね」


翔太は咲のおしりをポンと叩いて、去って行った。


「……っ!! ホントに最後までイタズラなガキね。でもありがとうね」



走る翔太の背中が消えるまで咲は手を振り続けた。その姿が見えなくなってから、咲は反対側の白い扉へと歩いて行った。遠く見えた扉も歩けば五分ほどで辿り着く事が出来た。高さ二メートルほどある扉の前へ立ち、ゆっくりとドアノブを右へ回した。ドアノブは思ったよりも重く、これからの自分の人生を歩く重きものであった。だが咲は恐れなかった。苦しみも含めて生きていく楽しさを知っていた。


扉を開けると中から眩しい光が全身をまとい、しばらくの間目を開ける事が出来なかった。やがて光がおさまり、目をゆっくりと開けると、そこはいつしかの電車の中だった。翔太と会う前の誰もいない電車の中。静けさが車内に広がり、外はまだ暗かった。咲はゆっくりと座席に座り、体を休めた。足元から暖房の風が出ていてとても気持ちよかった。


少し首を右へ傾け、今まであった事を回想しようとした。


疲れと座席の気持ちよさに暖房風が加わり、咲はそのまま眠りについてしまった。



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