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あの世の行きの電車  作者: 林 秀明
15/18

やみのじゅうみん

ゴンドラに乗り込み、ドアが自動で閉まる。ここから一周してまたここへ戻れば現世へ帰れる。咲は希望とともに、これから何が起こるのかと緊張の汗を拭いきった。観覧車はゆっくりと動き出した。


徐々に高度が上がり、観覧車案内所の看板が見る見る小さくなっていく。時折機械がきしむ音や止まったりする事があったが、以前のアトラクションと比べれば他愛もない事に感じた。それでも咲は聞かずには入られなかった。


「やみのじゅうみんって何なの?」


一瞬翔太の顔が怖ばったように見えた。いや自分は結局生きる事は出来ないと、関係ないといった無頓着で冷血な顔で言った。


「やみの…やみのじゅうみんねぇ」そして湖の方へ指す。


「あの湖の中央辺りから高さ二百メートルほどの怪物が出てくるんだ。その怪物の名はヤゴロー。死んでも死にきれない人たちの怨念と腐物で出来た人型怪物。そいつが観覧車の台を一台一台貪りつくすんだ」


「えっ!? 何の事?」咲の顔は青ざめていた。すぐにでも引き返したいが現実は無理だった。


「要するにこの観覧車は全部で六十台で成り立っているんだ。その内四十九台はヤゴローが食いつぶす。食べられば終わりだし、残れば現世へ帰れるんだ。ほらあそこ見て。」


翔太は窓の外を指す。その方向に目を向けるとあの湖があった。水面には波が相変わらず立っている。咲はふと不思議に思った。観覧車のおそらく三分の一も進んだはずであろう場所から波が見える。上陸から見れば大きな波でないのかと。その時波の数が多くなり始めたかと思うと、湖の中央付近に渦が現われはじめた。咲がぽかんと口を開けている間に目の前には土というべきか、泥で出来た醜い怪物が出現したのである。


「ぐごごごご……」


人間の言葉では表せない奇怪な声でヤゴローは唸り声を上げた。そしてあろう事かこちらに目を向け近づいてくる。ゆっくりと波の音が大きくなり、ヤゴローの全体像がだんだんと見えなくなってくる。


「ど、どうしよう」咲は恐怖に対応できなくなり、右往左往する。


「ヤゴローは音に反応するから気をつけたほうがいいよ。すぐに食いつぶされてしまう。それよりこのアトラクションはね、年に一回しか開催されないとても希少なものなんだ。それはご存じの通りヤゴローが観覧車台を食いつぶすからね。終わった後はすぐに開設工事が入って、完成したらまた特別アトラクションが始まる。おそらくこのゴンドラは少し小奇麗だから以前壊された可能性が高いね。二つ先のゴンドラは少し汚いでしょ」


咲は前のゴンドラを眺めた。確かに少し錆びついた色が側面についているのがここからでも分かった。ふと横を見るとヤゴローがもう観覧車への攻撃態勢を構えており、右手を大きく振りかざして一つのゴンドラを掴んだ。そのゴンドラを観覧車から引き千切るようにして取り、自らの口へと放り込む。周りには機械が砕けていく音と奴が掴んだ瞬間の振動音がゴンドラを伝って自分の脳へ震撼する。咲は座ったまま座席横の手すりにしっかりとしがみついた。


「始まったね。ここからがこのアトラクションの真の始まりだよ」


「ちょっとこの観覧車大丈夫なの? 助かるよね?」


「わからないよ。咲姉ちゃんの運が良かったら大丈夫じゃない? それより僕聞きたい事があるんだ」


翔太はかすかに息を吐き、咲の目を見据えて言った。



「お姉ちゃんは何のために生きているの?」


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