後悔の階段
咲は階段を一つ上った。カンという鉄骨の音が妙に響く。この音が恐怖を煽り上げる一つの要素だという事はバンジージャンプを体験していたので知っていた。咲は迷わずカンカンとそのまま上り続けた。
周りの景色は暗く、光があちこちに少しあるだけで高いかどうかはあまりよくわからない。跳ぶ時の一瞬だけ覚悟を決めればたいした事はない。そう思っていた……。しかし三階くらいの階段から異変に気が付いた。
どこからともなくひそひそと声がする。それは次第に大きくなり、その声が聞き取れるようになったのは四階くらいの階段からだった。
「なぜあの時仲間外れをしたの? どうして?」
それは小学校時代の友達の知美の声だった。声の行く先はわからず自分の頭へ直接響く。
「かくれんぼ誘ってくれなかったよね。わたしもやりたいって言ったのに……、あなたはわたしがそこにいないような目で無視をした。どうして?」
またも声が響く。なぜあの時の過ちが今になって…と思う。でも
「ごめんね。あの時、友達からあなたを避けるようにって言われてたの。でなきゃ私の事もいじめるって、それで私怖くなって、本当にごめんね。」
「結局自分さえよければいいんだね……」
すっと声が消えたかと思うと足取りが重くなった。上に上がるほど風が強くなり、その風が怨念のような声に聞こえる。足取りもどんどん重くなっていき、時には痛く止まらなければなかった。声は非情にも聞こえてくる。
「お前、可愛くねぇよ。あっち行ってろ」と言われた初恋の人。
「あんたなんで音大の専門学校に行ったの?あれだけ自分の進路を慎重に考えて行動するように言ったのに……、昔の素直な咲ちゃんはどこへ行ったのかね?」と言われた祖母の言葉。
「咲がもうちょっと真面目だったら自慢の娘ってみんなに言えるのに……はぁ、人生うまくいかないよね」と言われた母の嘆き。
「なんで私を助けてくれなかったの? あんなに鳴いて助けを求めたのに……」大好きだった猫のミーちゃんの悲痛の叫び。
「あんたって本当にダメね。私が替わろうか?」というもう一人のわたし。
「ごめんね、みんなごめんね。駄目なわたしで、本当にごめんね」
咲は涙を流しながら階段を上った。階段を上るたびに頭に響く過去の過ちや後悔。全て忘れようとした事が今となって蘇り、咲の足を止めようとした。咲は何度も手をつき、膝が落ちそうだったが踏ん張って立ち上がった。
今までの自分は気がつかない所で後悔の生活を送っていた自分だと。後悔も過ちも全て弱い自分を含めて、これからは強く生きていきたいとそう強く思った。




