1.二人の旅立ち
目が覚めた。
そして今、俺と隣に居る男は草原に佇んでいた。
...隣に居る男?
「って誰だよっ!!」
「こっちも聞きたいよ!!ーーってあれ?もしかして...諒介?」
「ん?え?聖徒?なんでそんなイケメンになってんの?」
隣に居た男ーー聖徒は、とても前からは想像がつかない程、イケメンになっていた。
ダサさを強調していた黒メガネは消え、髪の毛もボッサボサじゃなく、とてもストレートだ。
それでいて、とてもワイルドそうに見える。
「あれ?俺の知ってる聖徒じゃ...ない」
「でも、そっちも言えないよ?僕の目がおかしく無けりゃ、君も可愛い女の子に見え...え?」
「ありゃ、そういえばなんか違ったな。そうか。女になったのか...ブサメンじゃなくて良かったよ。はっはっはーっ」
良かった。女に生まれ変わったようだが、ブサイクでは無いようだ。
正直、女に生まれようが男に生まれようが、俺には関係ない。
見た目で悪印象を与えるぐらいでなければ俺は何だっていい。要は中身ってことだ。
「そんなにあっさりしてていいのか...ハハ、よかった。こんなに広い所に一人だったら寂しくてたまらないよ」
「まあ、それもそうだろうな。つまり、俺の美しさは時空を超えてもなおーー
おっと、そういえば、神様らしき人に何か見ろって言われたんだが...」
俺はあの老人が言っていた事を思い出し、周囲を探す。
足元の草を漁っていると、見つかった。
「あったぞ!俺の鞄。2つあるが、こっちは聖徒のだろ?」
「ああ、ありがと。そういえば、神様らしき人ーー多分同じ人に名前を貰ったんだけども」
「名前を貰う?...鞄、中身は無事だな。ーーそれで、何て名前なんだ?」
「えっとたしか、『ゲニウス=シュリランドル』とか言ってた」
「ゲニウス、か。欧米風な名前だな。少なくとも、日本では無いな」
「そうだね。僕は、取り敢えず名乗る時はこっちを使うよ。...神に付けられた名前だし...
そっちは、何か言われた?」
「うん。持ち物に入ってる科学技術の塊とか言ってたな。おそらく、スマホの事だろ」
そういいながら、俺は鞄からスマホを取り出した。後ろのパイナップルのマークが特徴の新型スマートフォン。
ーーのはずだったのだが、
「なんじゃこりゃっ!!なんか凄いごつくなってんだけどっっ」
「うーん、今見たけど僕のは壊れちゃってるみたいだな〜。諒介みたいに改造はされてないや」
俺は驚きつつも、スマホを起動させた。
電源が入ると、そこには
『ユーザー名:テルケ=シュリランドル』
と書かれていた。この感じは...
「俺の名前、テルケ=シュリランドルっていうらしい」
「っえ?後ろのシュリランドルってファミリーネームじゃないの?僕もシュリランドルなんだけど」
「さあな。この世界じゃ、俺たちは家族なんじゃねえのか?」
「なんか違和感...あ、それよりも、それどうなってるの?」
聖徒...もとい、ゲニウスは俺の手に持つスマホを指差しながら言った。
(すごいな、これ。重量感といい、質感といい、とても頑丈そうだ。)
俺はその重厚そうなスマホをいじってみた。
「しかし、あれだな。写真が消えちゃってるよ」
「うーん、それはしかたないかもねー。そもそも改造のしかたが異常だもん」
「だな。アンテナの棒が紫色だし、バッテリーも表示が紫色だけど充電は100%。大した異常は無いよ。
ただ、アプリが気になるんだ。見たこと無いし、そもそも入れた覚えが無い奴がある」
「へぇ、なんか面白いアプリだったらいいね」
こいつ...能天気過ぎる。少しは何か思わないのか。
もしかしたら、一つだけしか無いスマホが潰れてしまうようなウイルスが入っているかもしれない。
「取り敢えず...メモ帳開いてみるか」
俺は、『メモ帳』のアプリを開いてみた。
「...あ、なんかいっぱい書いてある」
「ん?なになに?なんかあった?」
「ええと、『能力』について...なんだこれ?」
俺はそのメモを開いた。
「『この世界では、生まれ持って何らかの能力を一つ持っている。種類は様々ある。また、転生者二人の能力は以下の通りである...』
なんだこれ?ちょっと燃えるな」
ゲームやアニメが好きな人は、特別な能力が欲しいっ、と思ったこと、一度はあるだろう。それが今叶った、叶ってしまった訳だ。
ただ、実感はこれっぽっちも湧かない。
「...ぉぉおおお!!!能力!!ゲーマーの血が騒ぐ!!ていうか、そんな説明されなかったぞっ!!」
「まあ落ち着け。気持ちは分かるが、冷静になれ。ええと、『テルケ:能力『万能機』【英雄級】『解放』【英雄級】』...なんだこれ?」
「うーん、能力の名前...じゃないかな?」
「んなことわかってるよ!これが何だって話だよっ!
大体、『万能機』ってなんだ!ただのスマホじゃねぇか!!」
「まあ、落ち着けって。この『解放』っていかにも強そうな感じじゃないか」
「いやまあ、そうだけどさ...ーーそうだな。
まず、なんで能力が二つあるんだ?一つじゃないのか?」
「僕達は結局の所2回生まれてるからねー。
だからじゃないかな?」
言われてみれば...そういうことなのか。
「そうなのかもな...。ところで、『万能機』はともかく、『解放』って何だ?」
「さあね。僕に聞かれてもわからないよ。
なんなら、使ってみれば?」
(ふむ...)
俺は少し(大丈夫なのか?)とも思ったが、頭が好奇心に負けてしまった。
自分のその判断は、間違っていたと思う。
「そうだな...でも、どうやって使うんだ?」
「わかんないよ。適当にやってみれば?」
(うーん...。ーー目覚めろ、能力。解放!!!)
...。
...だめだ。頭の中でも小っ恥ずかしい。
いっそ声に出してみるか。
「解放!!」
そう言った途端に、目線の位置が上がって行くーー
「おおっ!!!なんか、凄い強くなった気がする!!」
「戻った!!戻ってるよ!!元の諒介に!!」
「まじ!!イケメンに戻った!!やった!!」
どうやら、男の諒介に戻っているようだ。
恐らく、神が言ってた『一時的なもの』とは、この事だろう。
「何かやってみて!強そうな事」
「強そう?うーん...そうだっ!、はぁっっ!!!」
俺は謎の声をあげながら、地面を殴ってみた。勿論、この時は冗談だった。そのつもりだったが...
地面が粉砕した。
文字通り粉砕したのだ。
大きなクレーターが出来てしまったーー
「「...」」
俺たちはつい、黙ってしまった。
長い沈黙。
「ま、まあ、このクレーターは自然に出来たって事にしてーーあっ...」
俺は途端に力が抜けて、へなへなとその場に座り込んだ。
「大丈夫!?あ、元の女の子になった...どうしたの?」
「うう...動けない...なんか、全身が筋肉痛みたいになって...痛い」
「一分位で戻ちゃったね。でも、必殺って感じはしたよっ!!」
「また能天気な事言ってーー」
今は呑気な会話をしているが、
これは、使うのを控えた方が良さそうだ。
####
約二時間後ーー
俺はやっと筋肉痛から解放された。
「ふぅ、やっと動けるよ。あれは使わない方が良さそうだな」
「そうだね...。それでさ、僕の能力はどんなのかな?二時間も待って凄い気になるんだけど」
「おっと、そういえば忘れてた。
ええと...『ゲニウス:能力『万物特性LvMAX』【英雄級】『充填』【異質級】』、だってさ」
「うーん、なんか凄そう何だけど、詳細が無いとなんにもわかんないな」
「そんなにも細かく書いて...あった」
「あったのかっ!なんて書いてある?」
...いや、待て待て。
どういうことだ、これ。
「どうしたんだい?」
「...いや、万能機...」
「え?」
その画面、『メモ:能力詳細』には、
『万能機=万能武器』と記されていた。
...どういうことだ?
いや、心当たりはある。
あのアプリだ。
見たことの無いアプリの中に、いかにも武器らしい名前の物があったのだ。
「...万能機が武器になるみたい」
「どういうこと?」
「実は、アプリの中に、『剣と銃』って奴と、『魔法詠唱』ってのがあるんだが...」
「使ってみなよ」
「アホかっっ!!!!さっきの見ただろ?迂闊に使うととヤバイ事になるってーー」
「鞄に説明書入ってるよー」
「んなっ...!」
見てみると教科書は消え失せ、代わりに『万能機説明書』と書かれた物が入っていた。
ええと、
(剣と銃...剣か銃を出現させる。切り替え可能...!これは...)
俺はいけると思い、自信を持って『剣と銃』をタップした。
すると、本体部分が柄となり、紫色の刃が出てきた。
「うおっ!!何それっ、剣!?かっけぇ〜〜」
「なんか出てきたけど...あ、充電が減っていってる。なるほど...えいっ!」
俺はその万能機から出ている剣、電脳剣とでも言っておくか。
電脳剣を、軽く振って見た。
バヒュッっと風を切る音が鳴った。
生前、俺は近くの道場で剣道を習っていたんだ。どうやら感覚は鈍っていない。
「これ、重さが万能機の分しか感じないから超軽い」
「へぇ〜、銃の方はどうなの?」
「そうだな...このボタンか?」
画面を出し、右下にあったボタンを押した。
すると剣が消え失せ、代わりにライフルのような銃が出てきた。
「ほぉー、かっこいいな。これ。どれ...」
試しに一発撃ってみたのだが、直進して行き、木を貫通しても止まらず、そのまま見えなくなってしまった。
「凄いな...この銃も」
「だね!貫通力もばっちり!怖い物はないね」
「これが怖いよっ!ていうか、どんな兵器だよ...」
俺はケータイの会社に兵器を買いに行った覚えは無い。
(しかし...『解析』とか『魔法詠唱』とかあるけど...)
「あれ?何これ?何か、変な長い文字列あるけど...あ、これ魔法か!!!マホーだよ!!憧れる!!」
「聖...ゲニウスも魔法は使えるみたいだぞ」
「本当!?マジ!?ぐへへへ...」
『万物特化』の欄には、『様々の武器を扱え、全属性の魔法を操る事が出来る。』と買いてある。
って、俺より優秀じゃないのか?
少し悔しいが、基礎能力はゲニウスの方が高いようだ。
それよりも、俺のアプリだ。
「あっ、カメラ起動した。...なるほど...」
「へへへ...ん?どうしたの?」
「いや、アプリの『解析』ってやつだよ。
カメラ向けたら、名前と能力が浮かび上がってきた」
「へぇ〜、それは便利だね。でも今更だけど...これからどうする?第一、ここが何処かわからないし...」
「そうだな...とりあえず人の住む所まで行きたいな。ここらは何があるかわからないし...モンスターとかももしかしたらいるかもしれない」
「あ!そ、そういえばそうだったね。こんな世界にモンスターが居るのはお約束だし...」
「だな。それで、今『地図』のアプリを見つけたんだが、使えたぞ。まあ、距離は少し狭いけど...」
「おおっ!!流石万能機っ!!何でもあるねっ!!」
「そうだな。それより、ゲニウス。『充填』って能力あっただろ?その能力でこれ充電出来ないか?おそらく、魔力みたいなので動いてると思うのだが...もう15%しかないんだ」
「うーん、ちょっと貸して」
「はいよ」
俺は手に持っていた万能機をゲニウスに渡した。
「えっと...『充填』!!!」
「あ、出来てる」
「そう?良かった...なんか、疲れたような気がするよぉ〜」
やっぱり、能力を使うと何らかの反動があるものなのか?
...なら、少し怖い物でもあるな。
使いどきは考えて使うべきだ。
「さて、地図使って町か、最悪村でもいいけど探そう。とりあえず歩こうか」
「ふぅ...そうだね、行こうか。僕の冒険が待っているっっっ!!!!」
こうして俺達は人里を探して歩き始めた。
そしてこれが、冒険の開始だった。
能力=のうりょく、です。スキルでは無いです。