39.共倒れ (ダブルノツクダウン)
「これでカグツチは救われたというワケだ。協力ありがとうよ、吸血鬼」
ミカボシが持つカカセヲの切っ先が僅かに下がる。殺気は消滅していた。
「いやいや。なんのなんの。ヒカル達の事を思って一番良き方法を選んだだけなのだ。結果としてその方に協力してしまったまでの事だ、鳥頭」
焔の銃を持つ右手と、空の左手が、少しばかり外側に開いた。
「ま、それはそれとして――お前、ホント蝙蝠な?」
カカセヲが、ゆっくりと、甲高い音を立て、回転しだした。
「そう、これはこれとして――その方、危ない人格なのだ」
鳥が舞うように、上段へあがっていく焔の銃。いつの間にか、左手に焔の盾が出現していた。
「いや、ちょっと、あんたら待てって! この場合、俺の独白を聞いて矛を収めるってのが通り一辺倒だろ?」
二人を分けようと、膝行りながら前に出るカグツチ。そんなカグツチを全くシカトしている両巨頭。
「てめぇのその、お利口さん具合が気にいらねぇって事でぇ!」
カカセヲが雄叫びを上げた。トップギアで高速回転する。ミカボシの押さえていた殺気が一挙に噴出した。
「そなたの馬鹿さ加減は、ヒカル達にとって危険すぎるのだ」
焔の銃が音を立てて大きくなる。もはやバズーカクラス。盾が炎を噴き出した。ヴァズロックの闘気、氷の刃のごとし。
「やめろ! イノさんっ! あんたもだ、ヴァズローック!」
カグツチでは止められない。
「イノさん! やめろ、俺は負けに満足している! これ以上は不毛だ!」
ミナカタでも止められはしない。
二人の戦いは決定事項として避けられないものなのだろうか?
二人がぶつかった後、立っていた者が勝者。そして二人のどちらかが立っているとは思えなかった。
ツクヨミも、ロゼも、そう思った。
「不毛上等! 行くぜコウモリ野郎!」
「今更後には引けぬ! 第三ラウンド開始なのだ!」
誰もが言葉を失った。
二人の気が一気に高まり、同調した。始まる!
ミカボシのうれしそうな雄叫びが、まず上がった。
「うーりゃァジャパー……」
雄叫びが途中で途切れ、ミカボシの長身が、どうと前のめりに倒れ伏した。
後ろから現れたのは、血の付いたコンクリブロックを持つホノカ。
白目を剥いて倒れているミカボシの後頭部が赤い。
「まったく、あんた達ときた日には!」
ぽいとコンクリ隗を放り投げるホノカ。目が怒りに燃えている。
「ちょとそこの神様連中! ちゃんと止めなさいよ! 簡単でしょ?」
ホノカの怒りに、ツクヨミが後ずさり、無意識に矢をつがえた。
戦意を保っているのはヴァズロック一人。
「ホノカ、二人の戦いに水を差してはいけないのだ。ミカボシの回復を待って再戦するのだ」
「マリオンブラザーズ証券とFLI保険は、一週間前に倒産したのよ。合衆国政府は公的資金の投入を見合わせたわ!」
ヴァズロックはツクヨミを見た。少女は、気まずそうに目をそらした。
続いてカグツチを見る。
「あんたの小切手、おりなかったんだ」
そして、ゆっくりと三秒が過ぎていった。
「なんですとー!」
豪快に膝をつくヴァズロック。
こうして、東西二大巨頭による人外の戦いは、一応の終結を見たのである。
「さて、ここに集いし八百万の方々! 自己紹介でもしてもらいましょうかねぇ?」
ポキポキと指を鳴らしながら、凄むホノカであった。
真の戦いが終わったw




