35.共闘(コンビ)
「ほあちょーっ!」
発光しながら高速ドリル回転するカカセヲを構えるミカボシ。突撃体勢をとっている。
「タフな……一応女神なのだ。やはり、あのカカセヲというドリルが問題なのだ」
一歩二歩と大きく後方へジャンプ。間合いをとるヴァズロック。
「カカセヲは、それ自体が強力な軍神。貴様は二柱の軍神を一度に相手してきたのだ」
そのヴァズロックとも距離を開けるツクヨミ。
「行くぞ! このカカセヲでおまえを今夜堕としてみせるぜコラー!」
稲妻の渦が発生。目標はヴァズロック。
ヴァズロックが消えた。黒い横線が残る。残像だった。離れた場所でマントにくるまっている。
「ミカボシへの過小評価を修正すればこの通り。我らの武器に比べれば貧弱なまでの攻撃範囲。かわそうと思えばかわせるのだ」
相変わらず直立したまま、右手に握った大型拳銃を顔の前で構える。
「それが過小評価ってんだよ!」
ミカボシも残像すら残さぬ速度で、右に左に前に後ろにと移動している。ツクヨミの放つ矢から逃げているのだ。
「早く片付けろコウモリ! ああ見えて、ミカボシは戦略核クラスの広範囲破壊能力を持っているんだぞ!」
「それは大変……むっ?」
――ならば、なぜそれを早く使わないのか? 使えない理由でも?
ミカボシを見る。ミカボシはチラリと、囚われのホノカを見た。忌々しそうな顔で。
――なるほど。人質が、逆に足枷となったか……。いや、それならそれで……。
ミカボシが周囲に気を走らせている。
――よく余所見をする。何かを探しているのか? 何か気になることがあるのか?
瓦礫と化した巨大門に目をおいたミカボシ。眉が上に動いた。
――なんなのだ?――。
「ええい、めんどーくせぇ!」
ミカボシが叫んだ。……棒読みで。
そして、普通に走る。
縛られたホノカが転がってる方へ。
そこはヴァズロックより、ツクヨミより、ミカボシがより近かった。
「しまったのだ!」
ヴァズロックが、高速移動するもすでに遅し。
「これでは撃てない!」
ツクヨミは、矢を外さないだろう。だが、ミカボシが避けたり、破壊力故の巻き添えになる可能性が高い。
ミカボシは、危ない方の笑顔を浮かべていた。
「ふははははっ! 御雷神と経津主神のポンコツコンビが、泣いて逃げまどったチカラを見せてくれよう!」
爆発的にカカセヲが発光。建造物としての手洗いが吹き飛んだ。
ヴァズロックの心臓がはねる。久しぶりの感覚。一般人なら、それだけで消滅してしまう、超重量級プレッシャーをミカボシが放っていた。
カカセヲ巨大化。どう見ても建設重機クラス。
いくつもの青白い光の粒子が、尾を引いて切っ先に吸い込まれていく。
「天罰降臨! えーと、裏エグゼ・ブレイカー!」
「今考えた名なのだ!」
直径十メートルを優に超える、光の円錐が横たわった。
先端部がミカボシ側。底辺部が攻撃対象側である。
端的にかつ的確に表現せよと言われれば、だれもがこのように答えるであろう。
百万の雷音と千万の稲妻と、たった一つの衝撃波による波動が、その後から現れた。
ヴァズロックとツクヨミの二者間、距離はとっているものの、光の御柱の直径という修正値を入れれば、くっついているのも同然。大地を抉り、構造物を粉砕し、カカセヲを握ったミカボシが直進する。まさに神殺しの一撃。
だが、外れた。
「うぎゃうぎゃうぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
もんどり打って転がって、痛そうに跳ねぽんぽんしている人物がいた。
「ヒカル! そんなところで何やっているのだ!」
自己最高速をマークして、ヒカルの元に駆け寄るヴァズロック。タッチの差でロゼに勝った。倒れ込むヒカルをその腕ですくい上げる。
ヒカルの右腕が、再びシオマネキ状に腫れ上がっていた。申し訳程度に残った包帯が痛々しい。
「やはりあの子の右腕は!」
ぼやくミカボシ。彼女が放った雷の嵐をヒカルの右腕が全て吸い取ったのだ。
「ロゼさんが……くっ……ミナカタさんを秒殺で仕留めたんで……伯爵の応援に……来たん……だ……的な……。痛っ!」
そこから先は歯を食いしばってしまったので、声は途切れた。
「す、すまねぇ! イノさん! ついカッとなっちまって!」
元、巨大門のあった所。息も絶え絶えに瓦礫にしがみついている、血達磨になったミナカタ。
「ああ、ミックン!」
「ミックンって呼ぶな!」
ミナカタの無事を確認してから、ミカボシが毒づく。
「テメェ、来るのが遅ぇん……いや、この場合、早ぇえんだよ! 打ち合わせ通りやってくれなきゃ困るでしょ!」
口を尖らせてミナカタを責める。
どういう事かと、ミカボシを見据えるヴァズロック。だがすぐに視線はヒカルに戻った。ヒカルを支えた腕の触覚が、違和を伝えたからだ。
「マイロード! ヒカル様が!」
ロゼが悲鳴を上げた。
ヒカルは、ヴァズロックの腕の中で、ぐったりとしていた。




