26.前衛(かべ)
「仕方ない」
どこからともなく千枚通しを取り出す女。
一挙動で自らの巨乳を刺した。
破裂音。
風船で底上げしていた胸は、ペタンコになった。
「あ! 貴様はイノサーン! 我が輩を騙そうとしてもそうはいかないのだ!」
ヴァズロックは黒マントを胸元に引き寄せ、今更ながら格好をつけた。
「イノさんに騙された! バブルがはじけ飛んだ! 青少年の夢と希望という意味の!」
膝をつき、親の敵のようにして大地を拳でたたきつけるヒカル。
「テメェら! オレという存在をどの基準で判断してたんだ?」
怒髪天を突くイノさん。肩口から青いチャイナドレスを一息にむしり取る。
中につけていた服は動きやすい物。CWXの五分丈スパッツとTシャツという出で立ち。
座ってハイヒールを脱いで、スニーカーを出して履き替えて、よっこらせと立ち上がった。
「し、しまった! 絶好の攻撃チャンスを見逃してしまったのだ!」
その頃になって、やっとヴァズロックが我に返った。
「ふん! カグツチを痛めつけてくれた礼をしていたってーのに! 気づかないとは、礼儀知らずにも程があるぜ! アメノカカセヲっ、出ろ!」
銀の棒ピアスを引き抜いて一振り。
空気を割り、周囲一面に振動を振りまいて、棒ピアスは巨大な矛に変化した。
――どうみてもランスなのだ。
ランスといえば騎士が使う突撃に特化した武器。発展した地方を考えてみても、ヴァズロックには馴染み深い武器である。
「こいつはカカセヲ。単体で神と呼ばれた矛」
軽々しく右手一本で振り回すと、砂塵が巻き起こった。
一睨みくれてから、ヴァズロックに向け、ビタリと止め、砂塵を切り裂いた。
「空は太陽だけのものではない。我は天に輝く一つ星。孤高の悪神、天津甕星!」
砂塵が一気に拡散した。
「フフフ、長いからミカボシで良いよ」
ミカボシは、左手で、おいでおいでをした。
「安っぽい挑発なのだ。ミカボシ、貴様、カウンターウエイトという言葉を知っておるか?」
バズロックは慎重に歩を進める。
「なんだそりゃ?」
「知らないのならかまわぬ。忘れてほしいのだ」
左の構えから右の構えと移行しながら、目の端でロゼを見ていた。なぜ前衛に出ない?
ロゼは、動けなかった。
「……是非もない」
ヒカルが見ているからだ。
ロゼの前に影ができた。
ヒカルが、ロゼの前に立っていた。ロゼを庇うように。ぶるぶると震えながら。
――男の子である!
「なになになに? イノさんってアマツ組の幹部? 抗争の原因はあの不良小切手?」
ちゃっかりと安全な距離を取っているホノカ。第三者的立ち位置を確保している。
「小切手はきっかけだ! 大将のタマ取ろうとして、黒コウモリ野郎が目障りだから、先ずそいつをシメておこうとして、返り討ちにあって、カタキ取ろうとして、今ここに立っているんだよぉ!」
律儀に答えているミカボシ。やや文法に難あり。
「立派に手段が目的にすり替わっているのだ。その方の目的は、アマテラス抹殺のお手伝いであろう? 早く目を覚ますのだ!」
ヴァズロックの移動が止まった。ロゼの前で震えているヒカルの前に出る位置で。
斜に構えたヴァズロクは、ロゼを見ていない。視界の片隅に、ギリギリ入っているだけ。
「日室神社襲撃役はタケミナカタ! オレはおまえらをブチのめす担当。 受けてみろ! ストリートでならしたこのオレの実践的な突きっ!」
ミカボシは、カタパルト射出もかくや、というダッシュを見せた!




