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18.荒魂(アラミタマ)

「何故我らが戦わねばならぬ? 教えて欲しい……のだ」

 もともと青白い顔をさらに青い色を増したヴァズロックが、カグツチを震えながら見上げる。左手の指が大地に食い込み、右手が左胸を押さえていた。


 カグツチは、ヴァズロックを見下した目で見る。

「他愛ない。教えて欲しければ、力ずくでねじ伏せるべきだった」


「それを早く言うのだ!」

 むくりと立ち上がるヴァズロック。むろん、左胸は穴どころか焦げ跡一つ無い。


 カグツチの顔が、驚きから表情のない能面へ、そして爆笑。

「面白い! 面白いぞヴァズロック!」

 カグツチの白いスーツ。そこかしこから、赤い火がチロリチロリと顔を出す。


 ヴァズロックは、面白くない顔をしていたが、右手の指を二本突き立て、ちちちと左右にゆっくり振り、額に指をあててこう言った。

「めんどくさいのだ」

 そして、子供っぽい仕草で肩をすくめる。


 風切り音を立て、ロゼがヴァズロックの正面で立ち上がった。

「私がお相手いたします」

「お前のあいてはオレだ!」

 同じく風切り音を立て、ロゼの正面にイノさんが出現した。笑いながら。回転しながら。


「所長から、関西弁止めろと許可が出た。関西弁という能力規制を取っ払ったオレは強ぇぞ!」

 イノさんの回転後ろ回し蹴りが、ロゼの側頭部に入る。カバーに入れた腕を挟んで。


 蹴られた勢いを利用して自ら縦回転するロゼ。上下逆さまになる直前、足をイノさんの首筋へ叩き込む。カバーに入っていたイノさんの腕を挟んで。

 二つの車輪がごとく、ロゼとイノさんの回転技が応酬されたが、地に膝をつける二人ではなかった。


「まあまあですね」

 笑いもせず、横っ飛びに移動するロゼ。笑いながら追いかけるイノさん。人外のスピードの二人は、ヴァズロックの視界からすぐに消え去った。


 邪魔者は引き受けたという意思表示か、カグツチから体よく逃げたのか……。


 ヴァズロックは、ロゼの性格からいって、まず間違いなく後者であろうと断定しつつ、

二人が消えた辺りで、建物の屋根が吹き飛ぶ光景をやるせない気持ちで見つめていた。


「よそ見をする程、実力差は無いと思うがね」

 神速をもって接近していたカグツチ。文字通り、燃えたぎる右の拳をヴァズロックの横腹にめり込ませていた。


 接点を軸としてくの字に身体を折るヴァズロック――が、霧散した。白い霧が烈風となってカグツチの身体を吹き抜けていく。


「物理攻撃は利かないのだ」

 カグツチの背後、と言うより、カグツチが元いた場所に、風をまとい、立つヴァズロック。なんらダメージを帯びた様子がない。

 高襟の黒マントを胸元で合わせ、挑発的な笑みを神より神々しき美貌に浮かべている。


 ヴァズロックは人差し指で天を指した。

「日はまだ高い。おごり高ぶるのはやめるのだ」

 カグツチは、体中から赤い炎を吹き出させ、両手を伸ばして構えた。

「そう判断するのは早過ぎやしないか?」

 左右に、そして上に炎の渦が伸び、形作っていく。


「荒魂、(アラミタマ)赤化鳳凰!」 

 ヴァズロックは見た。火の鳥が羽ばたくのを。


 ――火の鳥というより朱雀と言った方がふさわしいのだ。


 ヴァズロックはそこに隙を見いだした。

 黒マントを背後に流し、高速で駆けるヴァズロック。恐竜から進化したばかりの鳥は、翼でバランスを取りながら高速で走ったという。

 黒マントを(なび)かせたヴァズロック。まさに羽を展開して走る黒鳥と化し、瞬きする半分の時間で炎の朱雀と化したカグツチの真下に到達した。


「アーク!」

 バズロックが振った腕の軌跡に沿って、炎の弾丸が飛び出し、朱雀の柔らかそうな腹にめり込んだ。火の神に対し、挑発的な炎の攻撃。

 朱雀は右に傾いた。同時に右の翼が羽ばたいて体勢を整え、時間差で左の翼をはためかせる。


「火の(ひのと)!」

 金属的なビブラートを聞かせたカグツチの声。


 カウンターで放つ朱雀の攻撃は、左の翼から飛び出した無数の赤い羽根。危ない空気を感じたヴァズロックは、黒いマントを羽ばたかせ、横に距離を取った。だが、赤羽のシャワーはより広範囲だった。黒い人影をとらえて降りかかる。


 ヴァズロックは、左手でマントを引き寄せた。頭と顔をかばうように。


 羽根が落下した地面は、最初、点で小さな炎が上がった。次いで青白い炎を噴き上げ、玉砂利を敷いた大地に穴を穿つ。

 穴の底にはドロリとした溶岩状の赤黒い液体がわだかまり、亜硫酸ガスの臭いが広がった。


 ヴァズロックの身体にも、炎の羽根が容赦なく襲いかかる。黒いマントのそこかしこから、激しく吹き上がる血のように赤い炎。大地より沸き立つ有毒ガスが一面を覆う。

 カグツチの朱雀による攻撃は、数瞬で終わっていた。


 見たことがない人でも、火口とはこんなものではなかろうかと想像できる無惨な光景。

 一陣の風が吹き、亜硫酸ガスが吹き払われる。跡に立つ、灰色の人影。


 元は黒かったであろう。それが証拠にグレーの鎧を砕いて現れる黒マント姿。それは伏せた形。ヴァズロックは、次に備えようとして、あえぐように体を入れ替え――。


 妙な気配に、青いはずの空を見上げるヴァズロック。朱雀の燃える炎が、糸を引きながら天空に集まり、音を立てて朱色の渦を巻いている。


 もう一つの太陽が出現した。

「火の()!」

 太陽が落下したのだった。

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