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17.迦具土神(かぐつち)

 漆黒のメイド服に映える、鮮やかな金髪も豊かなロゼ。そして、高襟マントにすっぽりと包まれ、斜に構える麗黒の美男子、ロード・ヴァズロック。


 人外の主従がくぐろうとしている門は、日室神社の道向かいに建つ、巨大な新興宗教施設の入り口だった。

 一度に三十人が横並びにくぐれる幅を誇る巨門。白い砂利がずっと続いていく終わりに建つ、白亜の巨大で微妙なデザインの神式拝殿。広大な施設である。


 ロゼが一歩踏み出し、前衛の位置に付いた。


 時刻は午後二時を少し回った頃。

 普段なら、この時刻でも人の出入りで賑やかな門前。今日に限って人っ子一人いない。


 ――言い直そう。人間は一人もいない。


 神速を誇るロゼの射程。その僅かに向こう側。

 赤い炎が音を立て現れ、そして消えた。

 少し焦げを残す炎の跡には、白いスーツに白いソフト帽。右目に黒いアイパッチ。


 ――我が輩を待っていたのはこの男か。


 初対面である。ならば名乗らねばなるまい。

「我が名はロード・ヴァズロック。我を崇めよ。そして敬え!」


 ヴァズロックは黒マントを波打たせ、挑発的に差し出した指二本をゆっくりと振る。

 ヴァズロックは自負する。このポーズ、我ながらやたらかっこいい。その為、必ず相手からやっかみを受けるのだ。


「敬われるのは神のみ! 俺は穂村興信所所長、穂村畝傍。またの名を――」

 帽子の鍔を指でなぞる。


「荒き神、火のカグツチ! 俺は強いぞ!」


 ――アマノカグツチ。イザナミとイザナギの間に生まれた神。アマテラスやツクヨミの兄。そして――。


 生まれ落ちる事により、母イザナミをその炎で焼き殺し、そのため、父イザナギの手で八つ裂きにされた哀れな赤子。


 ヴァズロックが、刹那の時間に、己の記憶層から汲み上げる事のできた僅かな事象。そしてそれはヴァズロックが持つ、カグツチへの感情。


「我が輩の知っているカグツチは、生まれてすぐに死んだのだ」


「神産みとは、神の御魂だけを生むこと。神の本体は、カタチの無い御魂だ。御魂が死ぬことはない。肉体は仮初めに過ぎぬ。お前のいう死とは肉体の死。やがて、人の子袋を介して、人の肉体を持って生まれいずる。転生……と言った方がしっくり来るかな?」


 うんうんと頷いて聞いていたヴァズロック。カグツチの言葉が終わるのを待って口を開いた。


「日はまだ高いのだ。情熱的なお誘いは日が暮れてからと相場が決まっているのだ」

 話が繋がっていない。


 ヴァズロックは、そんな事に興味はないようだ。もしくは、そんなことは知っていた。の、どちらでもとれる顔をしている。


 カグツチはあきらめ顔で、息を一つ吸い込んだ。


「お前は紛らわしい男だ。だが、俺はお前を知っている。その上で、呼び出し時間を設定させてもらった。俺が生まれ持つ滅びの力をその体で知るがいい」

 帽子の鍔を指で持ち上げるカグツチ。左目が、殺気に満ちた光を湛えている。


「我らが戦わねばならぬ理由がないのだ。我が輩が、何か貴公の機嫌を損ねる事をしでかしたかな?」

「目覚めという言葉を知っているか? バンパイアとは神に刃向かう者――」


 穂村ことカグツチは、アイパッチに指をかけた。

「心当たりがないとは言わせぬ。貴様さえ日本に来なければ、安穏と時が過ぎたはず!」


 アイパッチの下で閉じられていた右目。ゆっくりと開いた瞼の下から覗くのは、オレンジ色に光る光彩。


「私は守りたいだけだ。それが叶わぬ以上、燃やし尽くすしかない。私と共に滅びよ」

 ソフト帽を投げ捨てるカグツチ。


「何を『守る』のだ? 『破壊』の間違いではないのか?」

 自嘲気味にニヤつき、一気に表情を引き締めるカグツチ。

「やかましい!」


 いきなりだった。


 カグツチの右目から、一条の白光がほとばしり、ヴァズロックの左胸と繋がった。

 驚きの表情を顔に浮かべるヴァズロック。

 ヴァズロックの背から伸びた熱エネルギーは、巨大な門柱に音もなく穴を穿ち、宙へと消えていった。


 ざっくりと音を立て、両の膝を玉砂利に埋めるヴァズロック。両手がぶらりと垂れている。問答無用の先制攻撃。カグツチ自慢の長距離砲。


「不意打ち、という由緒正しい戦術をご存じかね?」

 白い歯を見せ、ニヤリと笑うカグツチであった。

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