アジュとウリ
「ねえねえ。ぼくらいつから一緒にいるんだっけ?」
ふと、一羽の鳥が尋ねた。
「ずっと、ずーっと昔からだよ」
もう一羽の鳥が答える。
「じゃあこれからも一緒?」
「ずーと、ずーっと一緒だよ」
「ねえ、ウリ約束だよ――――……」
2羽は翼を繋いだ。離ればなれにならないように、強く強く。
双子の鳥が木に止まり雨宿りをしている。
兄の名はアジュ、弟の名はウリ。2羽の兄弟は生まれてすぐ、親に巣から落とされてしまった。
理由は、2羽の翼が片翼しかないから。そんな彼らを救ったのはツバメのリーナ。
夏の間2羽を大事に大事に育ててくれた。
「いいかい?よくお聞き。私は暖かい場所でしか生きていられないんだよ。だからこれからは2羽助け合って生きていきな。わかったね?」
夏が終わり今は秋。もうすぐ冬になる。ツバメは寒くては生きていけれない。リーナは泣く泣く南を目指して旅にでた。
残された2羽は、リーナの言葉を守って雪の降る日も嵐の日も助け合って生きてきた。
「アジュなんか嫌いだ!」
「意味わかんない! ウリなんかもう知らない」
ある日2羽はけんかをして離れていってしまった。
アジュのなかったはずの翼が半年前からだんだん生えてきて、今では立派な両方の翼が生えそろっている。
それに比べてウリの翼はいつまでたっても片翼のまま。アジュはもう1羽でも飛べる。だけど自分は飛べない。双子なのに……自分だけ……そんな思いが爆発して、アジュにあたってしまった。
離れたはいいが、餌も捕まえられない。飛ぶこともできない。1羽では何も出来ない……
けんかはしたがやっぱりアジュは飛べないウリを心配して餌を落としたフリをして与えていた。
「ばかにしやがって……ぼくだって……ぼくにだって……! 助けたフリをして優越感に浸っていたいだけだろう! この偽善者め!」
アジュの心境を知るわけもなく、ウリは与えられた餌を踏み潰した。そして捕れるわけもない餌を必至に追い掛け回していた。
「……アジュ、ごめんよ。ぼくが悪かったよ」
ある日突然ウリが謝った。申し訳なさそうに頭を下げるウリの頭をやさしく翼でなでた。
「いいさ。それじゃあ、川に水浴びでもしに行こうか」
久しぶりに話した2羽は思う存分水浴びをした。そして気が付くとあたりは暗くなっていた。
「アジュに見せたいものがあるんだ! ついてきて!」
アジュに目隠しをしてを連れ出した。
「まだかい?」
「ついたよ」
そっと目隠しをはずしたアジュは目を見開いた。アジュの立っている場所は崖の上。
「バイバイ」
トン、と背中を押した。
アジュの叫び声とウリの笑い声が谷に木霊する。
これで……これでぼくは……
「アハハハハハハッ!アハハ……ハハ…………ご……めんな……さい…………」
ひとりぼっち…………
自分でやったことなのに、何故だろう涙が止まらないんだ。喪失感だけが胸の中にある。
アジュの巣へ入ると大事に大事に葉で包まれたものがあった。葉には“ウリへ”と木の実の汁で書かれていた。それを開けてみると、木の枝と葉で作られた翼があった。不格好だけどウリにはどんなに綺麗な鳥の翼より輝いて見えた。
「アジュぅ……アジュー……」
返事など返ってくるはずもなくただただ巣の中に泣き声だけが響き渡る。
ウリは翼を付けた。そして大きく天に向かって羽ばたいた。
――――……ウリぼくたちはいつでも一緒だよ。ご飯を食べる時も、寝る時も、死ぬ時も。ずーと、ずーっと
「だってぼくたち双子だもんね……アジュ、すぐに行くからね」
お久しぶりです、本間です。
最後まで『アジュとウリ』を読んで頂いてありがとうございます!
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平成23年7月20日(水)
本間 香