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恋じゃないふりをして  作者: 春野ひなた


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14/27

14話 2人の共通点

「ねえ、どこで勉強するつもり?」


学校を出て帰り道を歩き続ける隼人に、ひよりは問いかけた。

 繋いだままの手がじんわりと熱を持っている。


「俺んち」

「えっ!?」

「家政婦さんもそろそろ帰る頃だから、誰もいないはず」

「ま、待ってよ。何で急に隼人の家?! しかも、誰もいないって……。ていうか、家政婦さんって言った?!」

「落ち着けよ。質問が多すぎる」

「だって……」

 

隼人はははっと笑うと、歩く速度を緩めた。


「部室はテスト期間中は使えないし、図書館やカフェだと周りの目が気になって集中できないし。俺、目立つから」

「自慢?」

「事実だって。ついたぞ」

「……これ、家?」


想像以上の豪邸を前に、ひよりは呆然と立ちすくんだ。


 うちの敷地が3つぐらい収まりそう。

 門だけでも相当高級な感じがする。

 隼人、本当に御曹司なんだ……。


 おそるそおそる隼人の後について玄関に入ると、ひよりの部屋と同じ広さのエントランスに目を丸くした。

 廊下の置物や絵画に触れないよう注意しながら、緊張の面持ちで進んでいく。


「入って」

 

隼人の部屋に通される。

 

「お邪魔、します」


部屋の中はいたってシンプルで、すっきりと整頓されている。

 机の上には参考書とノート。棚には英語や経営学の本。

 写真立ても、趣味らしい小物も見当たらない。

 学校ではあんなに目立つのに、隼人の部屋は驚くほど静かだった。

 隼人は2人分の鞄をラグの上に置き、ローテーブルに教科書やノートを広げた。


「座れよ。続きやるぞ」

「あ、うん」


隼人の向かいに座ったひよりは、鞄から問題集やペンケースを取り出しながらふと疑問を口にした。


「参考書とか勉強の本ばっかり。漫画とか読まないの?」

「俺、電子派」

「紙で読むのもいいのに」

「……捨てられるから」

「え? 捨てられるって?」


ひよりは耳を疑い、聞き返す。


「うちの親、いかれてるんだ。ゲームも漫画も禁止。勉強だけやれって」

「うわっ、何それ。しんどっ」

「だろ。でも、小学生の時、親に隠れて小遣いで漫画買ってたんだよ。それがバレてさ、めちゃくちゃ叱られて、全部捨てられた」

「……ひどいね」


隼人はテーブルの上で拳を握りしめる。

 

「俺のこと、会社の駒としか思ってない。鵜野森グループの跡取りになれ、それしか言わないし。俺が何を好きで、どんな人生送りたいかなんてどうでもいいんだよ」


語尾が震える。怒りなのか、寂しさなのか。翳った隼人の顔が痛々しく見えた。

 

「……隼人こそ、1人で抱えてるじゃん」

「は? 何が?」

「苦しいんじゃないの? 寂しいんじゃないの? ずっと1人で我慢してきたんでしょ」


隼人は息を呑み、瞳を潤ませるひよりを見つめる。


「隼人の気持ち、分かるよ。私も同じだから。親が見てるのはあかりだけ。あかりは甘え上手で、欲しいものは何でも買ってもらえる。我儘を言っても許される。でも私は、姉だから甘えるのも我儘も許されなかった。双子なのに、変でしょ」


ひよりは震える唇を噛み締める。

 口に出すと鬱憤を晴らしているみたいで情けなくなる。


「親の方が我儘で自己中だよな。自分たちの価値観押し付けて、おまえはこういうやつだってレッテル貼って、型の中に押し込める。そんなの誰も望んでねえよ」


隼人は深く息を吐き出して、ベッドにもたれかかった。


「本当、それ。私たち、案外似てるとこあったんだね」


ひよりが自嘲気味に笑う。

 ずっと誰にも言えなかった気持ちを、隼人が代弁してくれたからか、少しだけすっきりした。


「まあな」

「ねえ、隼人は将来の夢あるの?」


隼人の視線が、机の引き出しに向く。


「起業したいんだ。いつかは鵜野森に負けない大企業を創りたい」

「そんな壮大な夢、持ってるんだ。凄いね」

「凄くねえよ。まだ夢だから。絶対実現させたい」

「でも、ご両親は後を継いでほしいんでしょ。兄弟はいないの?」

「一人っ子だよ。俺、高校卒業したら留学して、アメリカの大学で経営を勉強したいんだ。それを親父に話したら、大反対」

「何で? 勉強のために留学するんでしょ?」

「海外に行ったら何するか分からないから、親の目の届く範囲にいろだって。しかも、高校卒業したら婚約して、大学出たらすぐ結婚。それが正しいって思いこんでやがる。ふざけやがって」

 

毒づく隼人は拳を強く握りしめた

 

「隼人……。私は、隼人の夢応援するよ。隼人なら、叶えられる気がする」


ひよりの真剣な瞳に、隼人の胸がじんと温かくなる。


「ありがとな。ひよりは夢ないの?」

「私は、まだないかな。好きなことをどう仕事にしたらいいか分からないんだよね」

「民俗学の研究者とか?」

「研究者にまでなれるかな」

「やる気次第だな」

「私はもう少し考えるよ」

「まだ高1なんだから、ゆっくり考えればいいんじゃない? それよりも、今は目の前のテスト勉強しないとだろ」

「あ、そうだった」


ひよりは数問しか進んでいない問題集に目を落とすが、答えではなく溜息しか出ない。


 さっき教えてもらったのに、また分かんない……。

 このままじゃ、赤点がリアルに……。


「赤点回避できたら、ご褒美やるよ」

「ご褒美って?」

「こういうとこ、好きだろ」


隼人がスマホの画面を見せた。 

 相模原市に新規開園する予定のテーマパークのサイトだ。

 ひよりは画面を食い入るように見て、目を輝かせた。


「ここ、行きたいって思ってた! 江戸から昭和初期までの日本をテーマにしてるんでしょ。当時の街並みが再現されてたり、妖怪とか、動物神とかも取り扱ってて、最高だよね!」

「あははっ。絶対そういう反応すると思った。うちの系列の新事業で、モニターとして俺もプレオープンに招待されててさ。ひよりも連れてってやるよ」

「凄い! 鵜野森グループの御曹司、最高!」

 

ひよりはハイテンションで拍手を送った。

 

「赤点回避できたら、だからな。できなかったら、誰か他のやつ誘うかな」

「誰かって、誰よ」

「ひよりの妹とか?」

「な、何であかり!? それはおかしいでしょ!」

「冗談だって。少しは焦った?」

「……別に。隼人が誰と行こうが、私に口出す権利ないから。でも、ここは絶対行きたい!」

「じゃあ、勉強頑張ろうな」

「……うん、がんばる」


急にしゅんと肩を落とすひよりを見ておかしそうに笑いながら、隼人はノートにシャーペンを走らせた。


 それからテストまでの1週間。

 放課後は隼人に数学を教えてもらい、家でも必死に問題集と格闘した。

 その結果——。


「見て、赤点回避!」


ひよりは部室で隼人に結果を見せた。


「よかったな。……平均よりは低いけど」

「いいの! 目標よりは上だから」

「期末の時も家庭教師やるか。次は平均点取れたらご褒美な」

「もう期末の話? しかも平均点でご褒美って。今回のを超えるご褒美なんてないでしょ」

「そんなに楽しみなんだ」

「もちろん! しかもプレオープンで人はほとんどいないとか最高でしょ!」


無邪気に喜ぶひよりが子どもみたいで、隼人は声に出して笑った。


「あっははは。はしゃぎすぎ。子どもか」

「そんなに笑わなくてもいいじゃん。それより、いつ行くの?」

「明後日の日曜」

「明後日! 楽しみだなあ」

「この前俺が選んだ服、着て来いよ」

「あっ……うん」


 そういえばまだ着てなかった。

 なんだか着るのがもったいなくてまだタグも切ってなかった……。

 

「デートだってこと忘れるなよ」

「デート!? 私のご褒美なんでしょ?」

「それ兼、本物に見せるための練習デートってことで」

「なんか嵌められた気分……」


隼人はニセ王子の顔でニヤリと笑って見せた。

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