『レン』〜お前の居ない4ヶ月〜
レン。ふとした時に君を思い出す。君が脳裏から離れない。
俺、夢で見るんだ。あの日のことを。
たしか成人式の1週間後、お前と大黒PAに行った日の帰り。
お前のセリカ。ZZT231のSS-Ⅱ。中古で70万。
お前、キャンディーブルーにオールペンしてた。
変に白いトライバルまで貼って、スポコンみたいにして。
そういやそうだった。
お前は小6のときからワイスピにハマってて。
んで、モブ車のセリカ見て、目を輝かせてた。
そのまま憧れは変わらず、気付いたらお前は乗ってた。
始めは色褪せた赤だった。
無塗装の白下地のままのウェーバースポーツのエアロ着けてた。
大学でバイト代でオールペンしたとき、深夜1時にLINE送ってきたよな。
「祝☆完成」って。
俺、覚えてるからな。あの、大黒PAの帰りのこと。
お前、急に無表情になって。無感情になった。
まるで意を決したかのように。
で、俺を置いて、かつて無い速度で走っていった。
夜の首都高。夜10:30くらい。
俺は、ただお前のテールライトの赤い閃光を追いかけた。
でも、無理だった。追いつけなかった。
お前はそのまま、都心環状線で、散った。
ICUの中の君に話しかけても、何も返ってこない。
俺、お前のこと、待ってるから。絶対返ってこいよ。
レン。
お前は、まるで2000年代からタイムスリップしたかのようだった。
みんながTwitter見てるのに、お前は未だに2chのなんJだった。
ボカロ聴いてた。お前のYouTubeのリスト、初音ミクしかなかった。
特に、2010年頃の、明るいボカロ曲が大好きだったよな。忘れてない。
お前は、「らき☆すた」が大好きだったよな。
周りが別のアニメ見てるのに、
お前だけは、ずっと「らき☆すた」見てた。
「推しは汚せない」って格好つけて、同人誌を買わなかった、
その謎のプライド。なんなんだよ。
LINEの背景も、相棒セリカに泉こなた合成した、変なのだった。
あ、そういや、お前の車の中、カオスの極みだったな。
defiのメーターが5個も並び、レーダー探知機がざわめく。
そこにETCの読み取り機とカーナビが調和する。
ダッシュボードの右側には、初音ミクとからきすたのフィギュアが並んでた。
ごめん。こなたに付いた、お前の血のシミ、落とせない。
ごめん。初音ミクのフィギュア、割れたフロントウィンドウで傷ついてたから、
勝手に直した。
すり減っては、布で縫い直して、使い古した、中古の青いSPARCO。
シフトノブも、ステアリングも、全部SPARCO。
覚えてる。お前、
「パイオニアのステッカー貼ったから、スピーカー変えないと」
とか言って、オートバックスで爆買いしてたなぁ。
もし、ロールケージと緑のTAKATAの4点が届くのが、2日早けりゃ。
俺、お前の家に行ったとき、不在票入ってた。
お前と成人式で再開したとき、
「あと1週間もすれば、安全になる」って言ってたのに。
なんで待てなかったんだよ。
「レン、キモオタ、馬鹿野郎。」
もう絶対既読の付かないLINEに、そう打って、送って、
送信取消をした。
レン。お前と出会ったのは小3のとき。
たしか、3-2組、俺の斜め右後ろ。
絵がちょっと上手い。車に詳しい。
いや、車が大好き。
自由帳は、妙にハイクオリティな車の絵で埋まってた。
お前は俺に車の話をしてきた。
その勇気は認める。
だって、周りがみんな「ポケモン」とか「DS」とか「ムシキング」だったのに、
まだ車に興味なかった俺に。
中学生にもなると、気づけば俺もレン並みに車が好きだった。
チューニングパーツの会社名は、連立方程式より先に覚えてた。
登下校は、全部車の話。
卒業する頃には、LINEが出ててさ、速攻交換したよな。
俺、覚えてる。お前のLINEの背景、”あの時は”、80スープラだった。
高校はバラバラだったけど、LINEのやり取りは欠かせなかった。
俺、覚えてる。お前のLINEの背景、”その時は”、らき☆すたのこなただった。
俺、LINEの会話でなんとなく察してた。お前、苛められてただろ。
予備校の帰り、制服を着たお前、路地裏で女子に殴られてた。
そのせいだろ、急にボカロ聴き始めたり、らき☆すたを見だしたの。
でも、お前、俺の前では、
「憎めないキモいヲタク」キャラ、演じてたんだろ。
久しぶりに会った、成人式。
俺もお前も別々の大学。
駐車場でお互いの車を見せ合ったこと。
色褪せた赤に無塗装のエアロだったお前のセリカが
見違えるほど変わってた。
キャンディーブルーのボディ。
ダッシュボードの泉こなた。
ざ、チューニングカーって感じ。
開いた口が塞がらなかった。
お前は、俺に大量のアドバイスをくれた。
改造するべき所、オススメのエアロ。いろいろと。
でも、お前のセリカには追いつけないよ。
今でも後悔してる。あの日、
「一緒に大黒PA行かね?」
って誘われたの、断れなかったこと。
四ヶ月前、ICUに居たはずのお前は、腕ギプスで帰ってきた。
もう全損のセリカ。
修理できたのは、お前だけだったな。




