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第一章第1話 二振りの剣が拒んだ理由

はじめまして。拙い文ですがどうかよろしくお願いします。

その日、勇者の里は静まり返っていた。


 年に一度の儀式――《聖剣の選定》。


 勇者の血を引く者だけが、聖剣に触れることを許される日だ。


 だが。


「……なんで俺が、ここにいるんだよ」


 思わず漏れた独り言は、誰にも拾われなかった。


 周囲に並ぶのは、名家の子息たち。

 幼い頃から剣術と魔法を叩き込まれ、“勇者になるために生まれてきた”連中だ。


 それに比べて俺は――


「場違いにも程があるだろ……」


 レイン。

 それが俺の名前だ。


 親の顔は知らない。

 物心ついたときには、すでにこの里にいた。


 拾われ子。


 それが、俺の立場だ。


「次、レイン」


「……はい」


 呼ばれて、前に出る。


 ざわ、と空気が揺れた。


「なんであいつが?」

「血筋も分からないのに……」

「里長の気まぐれだろ」


 聞こえてる。


 全部、聞こえてる。


 でも、もう慣れた。


 俺は祭壇の前に立った。


 そこには一本の剣が刺さっている。


 白銀の刃。

 静かに輝くその姿は、ただの武器とは思えなかった。


 ――聖剣。


「触れなさい」


 里長の低い声。


 逃げ場はない。


「……分かりました」


 ゆっくりと、手を伸ばす。


 本当は、何も起きないはずだった。


 そうなれば、「やっぱりな」で終わる。

 それでよかった。


 ――そのはずだったのに。


 指先が剣に触れた瞬間。


 ドクン、と心臓が跳ねた。


「っ……!?」


 視界が、白く弾ける。


 次の瞬間――


 “知らない光景”が流れ込んできた。


 燃え盛る城。


 黒い空。


 地を埋め尽くす魔物の群れ。


 そして、その中心に立つ――


 “誰か”。


 圧倒的な存在。


 恐怖すら感じさせない、絶対の支配者。


 その背中を見て、俺は――


「……父、上……?」


 呟いていた。


「レイン!?」


 誰かの声が遠くで響く。


 だが、意識は戻らない。


 さらに、別の光景が重なる。


 今度は、真逆だ。


 光に包まれた戦場。


 人々の歓声。


 掲げられる剣。


 “勇者”。


 そう呼ばれる存在。


 だが、その視線の先には――


 さっきの“黒い背中”。


 ――斬るべき敵として。


「なんだよ……これ……」


 頭が割れそうに痛い。


 二つの記憶が、ぶつかり合う。


 相容れないはずのものが、俺の中で混ざり合っていく。


 そして。


 最後に、はっきりと見えた。


【血統解析】

【勇者因子:適合率 62%】

【魔王因子:適合率 68%】


「……は?」


 思わず、声が漏れた。


 なんだ、これ。


 誰にも見えないはずの文字が、空中に浮かんでいる。


「レイン、手を離せ!」


 里長の叫び。


 気づけば、俺の体は震えていた。


 聖剣が――


 拒絶している。


 いや、違う。


「……半分だけ、応えてる……?」


 光はある。


 だが、不完全だ。


 まるで迷っているみたいに、揺れている。


「そんなはずは……」


 里長の顔が、初めて歪んだ。


 周囲もざわめき始める。


「どういうことだ……?」

「選ばれてるのか……?」

「いや、でも……」


 そのときだった。


 ――ズキン。


 再び、激痛。


「ぐっ……!」


 膝が崩れる。


 視界の奥で、“何か”が動いた。


 まるで鍵が外れるように。


【魔王因子:制限解除】

【覚醒率:3% → 7%】


「……やめろ……」


 嫌な予感しかしない。


 なのに、止まらない。


 胸の奥から、何かが溢れてくる。


 熱い。


 禍々しい。


 それでいて、どこか懐かしい力。


 その瞬間――


 聖剣の光が、完全に乱れた。


「離せッ!!」


 里長が叫ぶ。


 だが、遅い。


 ――バチンッ!!


 激しい音と共に、俺の手が弾かれた。


「……っ!」


 後ろに吹き飛び、地面に叩きつけられる。


 しばらく、何も聞こえなかった。


 やがて。


「……失格、だ」


 誰かが呟いた。


「やはりな」

「最初から分かっていたことだ」


 冷たい声が、降ってくる。


 でも、そんなことはどうでもよかった。


 俺の頭の中には、さっきの“文字”が焼き付いている。


 魔王因子。


 覚醒。


 そして――


 “父上”。


「……ふざけんなよ」


 思わず、笑いがこぼれた。


 無能?

 失格?


 違うだろ。


「俺は……勇者じゃない」


 むしろ、その逆だ。


「――魔王の血を引いてる」


 誰にも聞こえない声で、呟く。


 そのとき。


 聖剣が、かすかに震えた気がした。


 まるで、理解できないものを見るように。


 あるいは――


 “本来あり得ない存在”を、警戒するように。


 ◆


 同時刻。


 遥か北方、魔王城。


「この子が、“次代の王”ですか」


 黒衣の男が、静かに言った。


 その視線の先には、一人の少女。


 年の頃は、レインと同じくらい。


 だが、その瞳には一切の迷いがなかった。


「触れてみなさい」


 玉座に座る存在――現魔王が告げる。


 少女は頷き、前に進む。


 祭壇に刺さっているのは、黒い剣。


 禍々しい気配を放つそれは――


 魔剣。


 人間であれば、触れた瞬間に命を奪われる。


 だが。


 少女は、ためらわずに握った。


 ――瞬間。


 ドクン、と脈動。


 黒い光が、爆発するように広がる。


「……ほう」


 魔王が、わずかに笑った。


 魔剣は拒絶しない。


 むしろ。


 歓喜していた。


【血統解析】

【勇者因子:適合率 71%】

【魔王因子:適合率 12%】


 少女の脳裏に、光景が流れ込む。


 人々を守る剣。


 祈り。


 希望。


 そして――


 “魔王を討つ”使命。


「……くだらない」


 少女は、吐き捨てた。


「弱者が、勝手に押し付けた正義など」


 その言葉に、誰も口を挟まない。


 魔剣が、さらに強く輝く。


 まるで、その思想に同調するかのように。


「私は、王になる」


 静かに、宣言する。


「この世界を、力で支配する王に」


 その瞳に宿るのは、揺るがぬ意志。


 ――だが。


 その奥底で。


 ほんのわずかに、何かが引っかかった。


 見たことのないはずの景色。


 暖かな光。


 誰かの背中。


「……誰?」


 無意識に漏れた言葉。


 その正体を、彼女はまだ知らない。


 ◆


 同じ空の下。互いの正体を知らぬまま、やがて二人は戦場で出会う。


聖剣を振るう“魔王の息子”と、魔剣を操る“勇者の娘”。


 交わるはずのない二人の運命が――


 静かに、動き出していた。

第1話を読んでいただき、ありがとうございました。

次話からはもう一人の主人公にもフォーカスを当てて行きます。

できるだけ早く投稿予定ですので、引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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