表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝不在の平安後宮〜それでも私が入内する理由〜  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/43

第39話 時の流れ

 そんな惟久様との辛い別れをしてから十年後。

 鈴子は私と帝の愛情をたっぷり受けて育ったからか、罪の子であることを感じさせないほど、天真爛漫な姫宮へと成長していた。勿論、陰ながら惟久様が守っていた、というのもある。


 時折、私や承香殿女御のように、我が儘に育つのでは? という懸念もあったが、そこは帝の性格を引き継いでいたらしい。本当の父親でなくても、帝と鈴子は血が繋がっているからだ。


 けれど優しいだけでは、帝のように傷つきやすくなってしまう。鈴子もまた、心を痛めてしまうのではないか、と危惧をしたが、それは余計なお世話だったようだ。


 なにせ鈴子は、帝唯一の御子。そして惟久様の性格も引き継いでいるのか、悪知恵が働くのだ。


「お母様〜。今度はいつ、常盤院に帰るの?」


 鈴子が私に向かって駆け寄り、そのまま抱きついてきた。もうすぐ裳着を迎える年齢であるため、思わず後ろに倒れそうになった。


「鈴子。十歳になったのだから、もう少し静かにできないの?」

「ごめんなさい。でも気になって仕方がなかったんだもん。ねぇ、いつ帰るの〜?」

「この間、宿下がりしたばかりなのよ? しばらく空けないとお許しいただけないわ」

「許し……どなたの許可が必要なの?」


 可愛らしく首を傾げる。そうやって、周りにお強請りをして、情報を集めているのに、こればかりは知らないようだった。


「帝よ」

「なぁんだ。お父様なら平気だよ。鈴子のお願いなら、ほとんど叶えてくれるもの」

「……だからといって、なんでもかんでもお願いしてはダメよ」

「無理なお願いはしないけど、常盤院に行くくらいなら、大丈夫でしょう?」


 まぁ、物を強請るわけでも、誰かの物を奪うわけでもない。宿下がりの他にも、方違えや行幸などで、帝も都を空けることが多い。十年前の失踪とは違い、お供を連れているため、長く不在でも、それほど大きな騒ぎにはならなかった。


 特に行幸は、鈴子の健康成就を祈願するため、様々な寺社に行かれていたのだ。だから宿下がりくらいで目くじらを立てるとは思えない。むしろ鈴子のご機嫌取りで許可を出す可能性の方が高かった。


 いくら可愛いからといっても、お土産に数珠を渡しても、鈴子にとっては猫に小判。そっぽを向かれてしまうことくらい、分かって欲しかったわ。


 逆にどうしてそこまで常盤院に行きたいのか、が気になった。


「理由を教えてくれたら、私からも帝に進言してあげるわ」

「本当!?」


 すぐに嬉しそうな明るい表情と声を出す鈴子。あまりにも可愛くて、頭を撫でると、今度は困惑した表情へと変わっていった。


「急にどうしたの?」

「……理由、言わないと、ダメ?」

「きっと帝も気になると思うの。その時、答えられるのなら、いいけど?」

「お父様に言ったら、多分……ううん、絶対に反対されるから言えない」

「私には?」


 鈴子は私の顔を見て、即答した。


「うまくお父様に言ってくれるのなら、話す」

「ふふふっ。相変わらず、ずる賢いのね、鈴子は」

「お母様に似たんです! そうやって、鈴子から色々と聞き出そうとするんだもん」

「鈴子の情報収集が凄いからよ。少し分けてもらいたくて」


 惟久様に似ている部分を見つけると、嬉しくなって、つい構ってしまうのだ。鈴子にとっては、あまり知られたくない秘密のようだけど。


「ちょっとだけだよ。実は常盤院にいる猫ちゃんに、子どもが生まれるの」

「まぁ! 知らなかったわ」


 すると、鈴子は得意げになって続きを話し始めた。


「当然だよ。これは私と雅継(まさつぐ)様で見つけたものなんだから」

「雅継って、お兄様のところの嫡男、よね。てっきり姫たちと遊んでいるのかと思っていたわ」

「……最初はそうだったんだけど、雅継様って弟みたいで可愛いんだ」


 確かにお兄様のところの姫たちは、鈴子よりも年上だ。だからこそ、鈴子を預けても大丈夫だと思っていたのに、まさかの伏兵に驚きを隠せなかった。


「もしかして、鈴子は雅継のことが好きなの?」

「分からない。でも、一緒にいると楽しいよ。同じ猫好きだからか、私が好きそうな子を用意してくれるって言ってくれたの」


 実は先月、鈴子が可愛がっていた三毛猫が亡くなったのだ。私が入内した折に、弘徽殿にやってきた猫だったから、すでに老猫になっていた。

 けれど鈴子にとっては、共に育った姉妹のような関係だったため、同じように猫がいる常盤院へ連れて行ったのだ。少しでも気分転換になれば、と。


「良かったわね。もしかして、それが生まれてくる子猫、とは言わないわよね?」

「まさかっ! 子猫のお世話はしたことがないし、私も常盤院にずっといられるわけじゃないから。母猫と離れ離れにしたくはないわ」


 さきほどからずっと私に抱きついている理由が、そこで分かった。子猫を引き取りたいけど、母猫と引き離したくない。子猫の寂しさを自分と重ねてしまったらしい。


「だから気が気ではないのね」

「はい。だけど、雅継様と一緒に見ていられるのなら、いいなぁって気持ちもあります」

「……そう」


 きっと、本当のことを話しても、帝は許してくださるだろう。もしかしたら、鈴子にとって初恋になるかもしれないからだ。


 私達も宝泉寺の境内で、共に遊んだ仲。惟久様なら、鈴子と雅継が一緒に母猫を見ている姿に、懐かしさを感じたことだろう。


 さて、どうしたものかしら。鈴子の伊勢行きは、十年前から決められていること。もしも二人が心を通わせているのなら、叶えてあげたい。


 でも、私と惟久様の結婚に反対だったお父様の姿が脳裏を過る。いとこ同士の結婚は、家を繫栄させることができないから、と。


 そうなると、やはり鈴子は斎宮に選ばれて、伊勢に行くしかないのだろうか。折角、生まれたばかりの初恋の芽を、摘むしか道はないのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【コミカライズ作品】


ヒロインの弟に迫られています
ヒロインの弟に迫られています~モブでいたいので、溺愛は遠慮します!~
漫画:水月ミキネ先生
原作:有木珠乃
コミックシーモア様にて先行配信中
よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ