表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝不在の平安後宮〜それでも私が入内する理由〜  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
第1章 一夜の代償

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/31

第3話 美しくて厳しい尼僧

 我が左大臣家の屋敷は広く、それに似合った財力と権力を有していた。それは前々帝(さきのさきのみかど)が、妹であるお祖母様を嫁がせても大丈夫だと思わせるほどである。


 しかしお祖母様は現在、この屋敷に住んでいるわけではない。お祖父様が亡くなられた後、しばらくしてから落飾し、今は宝泉寺(ほうせんじ)に身を寄せていた。


 そのため私は芹を伴い、宝泉寺へと向かうことになったわけだが、ここで問題が発生してしまう。牛車(ぎっしゃ)である。

 徒歩で行ける距離ならば問題はなかった。芹の他に、数名の護衛を付ければ問題はない。けれど都から少し離れた宝泉寺に向かうには、どうしても牛車が必要だった。


 お陰でこっそり抜け出す予定が大所帯になってしまい、結果、お父様やお母様の耳に入ってしまった、というわけである。けれど今はそんなことに構っている暇はなかった。

 私は惟久様との情事を隠すため、「お祖母様に呼ばれたので」という免罪符を使い、堂々と屋敷を後にしたのだ。


 その途端、心地よい風が吹き抜けていく。夏が終わりを告げたかのように、最近はこのような風が御簾をよく揺らしていた。牛車が走り出すと、それをより実感する。


 けれど一番は宝泉寺に着いてからだろうか。まだ青々としているが、たくさんの紅葉たちが、まるで私たちを出迎えてくれたかのように、大きく揺れていたからだ。


 実際に出迎えてくれたのは、お祖母様と共に落飾した元女房の小式部尼(こしきぶに)である。私たちが来るのを宝泉寺の門の前で待っていてくれていたお陰で、少しばかり周りを見る余裕ができたのだ。

 この温かい出迎えがなければ、緊張で景色など眺めてなどいられなかったことだろう。少しでもお祖母様の心境が垣間見えるかいないかで、私の心境もまた大きく変わっていたからだ。


「今年もきっと綺麗に色づきましょう。その時にまた、いらしてください。千景様と毎年、紅葉を見られることを、大宮様はたいそう楽しみにされていますから」


 庭先に向かって柔らかく微笑む小式部尼を見る限り、どうやら悪い話ではないように思えた。


「私もここ、宝泉寺の紅葉をお祖母様と見られたら、どんなに嬉しいことでしょうか」

「まぁ、まるで無理かもしれない、といった口振りね」

「お、お祖母様っ!」


 自分の局で待っていられなかったのか、尼僧姿のお祖母様が顔を出した。お年を召されても、元来の美しさが損なわれていないそのお姿に、思わず頭を垂れたくなった。勿論それだけではなく、威厳も兼ね備えている。


 私の憧れでもあるが、今日は遊びに来たのではない。気を引き締めなくては……やられてしまうことだろう。そう思っただけで、背筋が伸びたような気がした。


「ふふふっ、驚かせてしまったようね。けれど、千景がどのような立場になったとしても、祖母を訪ねてはいけない、ということはないのよ」

「……そうでしょうか」

「えぇ。罪人にならない限りは、ね」


 お祖母様の言葉に一瞬、胸に突き刺さるほどの衝撃を受けた。けれどここに来た目的を思い出し、私は意を決して尋ねた。


「お祖母様……それが私を呼び出した理由ですか?」


 昨夜のことについて話がしたい、と文に書いてあったのだから、間違ってはいないだろう。とりあえず、誰に聞いたのか、なぜ知っているのか。知った上でどうしたいのか、など聞きたいことは山ほどあった。


 けれどお祖母様は袖で口元を隠し、微笑むだけで、ほしい答えは得られなかった。代わりに別の答えを示してくれたのは、小式部尼である。


「千景様。ここは人の目が少ないとはいえ、そのようなお話は不用心過ぎませんか?」

「あっ……申し訳ありません。私が軽率でした」

「お気をつけなさい。あなたはいずれ入内して、女御になるのだから」

「えっ、でもそれは……」


 白紙になるのでは? と言いかけた瞬間、ハッとなった。また同じ過ちを犯すところだったと。


「まったく、あなたって子は。素直なのはいいことだけど、これでは先が思いやられるわね。さぁ、話は中に入ってからにしましょう」

「はい……」


 返す言葉も見当たらず、私は局へ入っていくお祖母様の後についていった。お祖母様が褒めてくださった、「素直」な態度と心で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ