表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝不在の平安後宮〜それでも私が入内する理由〜  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
第3章 宿下がり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

第21話 帰って来て早々

 私はお祖母様の指示で無事、常盤院に帰れたものの、後宮……いや内裏は大変だったという。


 そもそも帝が不在という事実は、後宮だけでなく、内裏でも一部の者しか知られていない。けれどここ最近、姿を見せぬ帝を不審に思う者もいたはずだ。


 そんな折に、生母である皇太后が、承香殿女御の父である右大臣を呼び出した、という事態。承香殿女御があのような娘なのだから、右大臣は血相を変えたに違いない。


 しかもその呼び出しを伝えたのが皇太后の弟である左大臣……つまりお父様なのだ。真実味がさらに増したところ、御前に着くや否や、共に来ていたはずのお父様の姿はなし。

 右大臣が青ざめて注意力が散漫している隙に、お父様は清涼殿から出て、牛車を弘徽殿まで誘導したわけである。けれど右大臣はそんなことなど知らず、皇太后にお目見えすることとなる。そこの席には、前々帝の妹であるお祖母様が同席していたのだから、さらに驚いたのではないだろうか。


 降嫁してから、お祖母様がそのような席に居合わせることは、前帝の時代でさえ、一度きりだったというのだから。私を後宮から連れ出すための目くらまし、とはいえ、右大臣には悪いことをしたような気がした。

 ()()()()承香殿女御が、お祖母様のいる時に、私に喧嘩を仕掛けてきたのが悪いのだけど……今は無事に常盤院に帰れたことが嬉しくて、重なり合った偶然の出来事を、不思議だと感じる余裕が生まれなかった。


「千景様。すぐにお休みになられますか?」


 弘徽殿から一緒に戻って来た小侍従……いや、今は常盤院にいるため、名も戻した芹が声をかけてきた。常盤院には家政を任されている家司(けいし)がいるため、芹もここではただの女房。他の女房の動きなど気にせず、久しぶりにゆっくり休めるはずだ。


 入内してから体調が悪い私の代わりに、承香殿女御が疑うほど、後宮内で色々と情報を集めていた芹。今の私がその情報を聞いても、上手く活用できないことを分かっているのだろう。私も話題にできるほどの元気もないため、聞くに聞けなかったが。


 今はそれよりも、後宮内での芹の働きを労いたい。私も疲れてしまった、という気持ちもあったため、すぐに支度をするように、と頼んだ。



 ***



 けれどいざ、体を横にしたものの、瞼が下がらない。思った以上に疲れていなかった、ということなのだろうか。体の怠さは変わらないというのに。


 不思議に思っていると、その原因とでもいうように、足音が聞こえてきた。私がすでに就寝していることは、芹を通じて、この邸にいる者たちは知っているはずだ。それなのにも拘わらず、私の局に近づいた、ということは、何か緊急事態が起こったのだろうか。


 あんな形で帰って来てしまったから……。


 すると足音が、突然、聞こえなくなった。それが意味することは、つまり……。


「千景様。お休みのところ申し訳ないのですが、よろしいでしょうか」

「えぇ、大丈夫よ。少し寝付けなかったから。それで、どうかしたの?」

「実は、その……」


 妻戸越しに、芹の戸惑いが伝わってくる。私は起き上がり、芹の元へ行こうとした瞬間、妻戸の方が先に開いてしまった。


「えっ、どうしてあなたが……ここに?」

「帝のおなりにございます」

「みか、ど?」


 思わず目の前にいる人物の足元で、頭を垂れている芹に視線が移動する。


 だって誰がどう見ても、ここにいるのは帝じゃない。いつもよりも上品な直衣(のうし)で、色合いも菖蒲色と華やかさが目立つ。けれどいつもの彼は、このような直衣ではない。紺や深緑色といった、落ち着いた色で私の前に現れるのだ。


「どう、されたのですか?」

「千景を驚かせようと思ってね」

「十分、驚きました。いえ、そういう意味で聞いたのではありません」


 けれど私の問いには答えず、妻戸をそっと閉め、外気が私の体に当たらないようにしてくれた。

 今は秋から冬へと移ろうとしている最中。昼間はまだ暖かさが残っているが、夜は肌寒い風が、時折、強く吹くのだ。


「分かっているよ。でもその説明をする前に、ここはまだ外に近いから、奥に行こう。千景に何かあったら大変だからね」


 相変わらず私を気遣ってくれる。私だって、その言葉に従いたい。今、お腹にいるのは、この方との子どもなのだから。


「惟久様……どうして、帝だなんて偽って、ここに来たんですか?」


 だからこそ、その真意を聞くまでは、受け入れることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ