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帝不在の平安後宮〜それでも私が入内する理由〜  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
第2章 後宮入り

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第14話 夢か現か

 ふと、うつらうつらしていた意識が遠のいたのに、眠りが浅かったのか。それとも、人の気配がすぐ近くに感じたからか。

 まだ体が寝ていたい、と主張するかのように怠かったけれど、私は瞼を開けた。


 ほんのりとだが、いつもより明るく感じる。寝る時はもっと暗くしているはずなのに、どうして? と視線だけを動かすと、有り得ない人物がそこにいた。


「こ、惟久、様?」


 どうしてここに……私は入内したはず。そうか、これは夢なんだわ。ちょっと体が怠いから、気弱になって。その心細さから、惟久様が夢の中まで……嬉しいような、情けないような。


「起こしてしまったようだね」

「いけませんでしたか?」

「そんなことはないさ。こうして会話できたことでさえ、嬉しいと思っているのだから」

「まぁ、それはこちらの台詞ですわ。いつお会いできるのか分からないのですから」


 幼い頃は夏の一季(いっき)だけ、と限られていたけど、必ず来年も会える、遊べるという確信があった。互いに裳着(もぎ)元服(げんぷく)を済ませると、今度はいつ会えるのか分からなくて不安になったものだ。


「こうして後宮に入ったら、尚更……」

「それで体調が悪くなったのか」

「え?」

「猫を届けに来たら、小侍従が血相を変えて局から出て来たんだよ。呼んでも反応がないってね」


 あぁ。確か小侍従に、早目に就寝するように催促されて、私はその準備を待たず、そのまま脇息に体を預けて寝てしまったのだわ。


「それで私が、千景を運んで寝かせた、というわけさ」

「……夢の中まで惟久様に迷惑をかけるなんて」

「夢? そうか、夢か」

「惟久様?」

「今は夢の中だとしよう。千景は尚侍をどう思った?」


 え? え? どうして尚侍? もしかして、私が尚侍と惟久様の関係を疑ったから? それで惟久様がそのような質問をしたのかしら。


「……惟久様のことが好きなのかなって……思いました」


 夢とはいえ、あまりの恥ずかしさに衾を頭から被せた。


「好き? 尚侍が? それはあり得ない話だよ。私は相談役でしかないし、千景以外の女人は、基本的にどうでもいいと思っているんだからね。その証拠に、猫を貰い受けた時、叱っておいたよ」

「叱る? なぜですか?」

「千景に無礼を働いたそうじゃないか」


 突然惟久様が、聞いたこともないような低い声を出されたものだから、思わず体が跳ねた。


「ごめんよ。千景を怖がらせるつもりはなかったんだ。それよりも、千景がそんな可愛いことを思ってくれていたとはね。嬉しいよ」

「では、本当に違うと?」

「嘘だと思うのなら、明日もまた、尚侍を呼べばいい。少しは違う態度で接してくれるんじゃないかな?」

「……尚侍の恨み言も、理解できるんです。だから、あまりいじめないでくださいませ」


 私は衾から顔を出して、惟久様にお願いした。


 夢なのに、どうして昔の惟久様が出てくるのだろうか。帝はお優しかったけれど、惟久様は時々、こうして意地悪なことを言うのだ。


「幼い頃の惟久様も悪くはないけれど、今のようなかっこいい惟久様が良かった」

「っ! すまない。千景のこととなると、どうやら昔の悪い癖が出てしまうようだ」

「……もしかして、これは……夢じゃない?」


 思考が段々と浮上したお陰か、自分に都合の良い展開というよりも、あまりにも現実に近い内容に疑問を抱いた。

 まだ怠かったが、状況を把握するには起きるしかない。けれど上半身を起こそうとすると、止めに入る惟久様。この行動もまた、夢ではないことを裏づけていた。


「離してください、惟久様。私には確認したいことが……」

「確認なら私がする。千景は動くな」

「っ! では、小侍従を呼んで来てください。惟久様の態度を見る限り、傍にいるのでしょう?」


 今は秋とはいえ、夜は肌寒いはずだ。この局には惟久様以外、人の気配を感じないことから……おそらく外にいるのだろう。

 心配をかけた挙句、小侍従に負担をかけるなんて……主人失格だ。


「分かった。呼んでくるから、大人しくしているんだ。いいね」

「はい」


 後ろにあった几帳の垂れ布を横に押して、惟久様は私の視界から姿を消した。

 惟久様が後宮の、それも私の局にまで現れるなんて……一体、どのような立場なのだろうか。入内した後も会えたことは嬉しかったが、そんな疑問が浮かんだ。


 いや、今まで見ぬ振りをしていただけだ。尚侍との関係も、帝を介してだと思っていたのに、相談役? ますます分からない。


 帝がいようがいまいが、関係なく力を持っている惟久様。あなたは一体、何者なのですか?


 けれどそんなことを今更、聞くことなどできるのだろうか。私は言い知れぬ不安に苛まれながら、静かに待つしかなかった。それも小侍従と共にやって来る惟久様を。

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