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ダブルワールド  作者: 従量電灯A
第一章 エース編
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第五話 JackとQueen

クイーンと名乗るその少女は、ゴシックロリータの格好をしていた。手には日傘をもっている。背は女の子らしく低め、年齢はジャックと同じくらいかな。


まつげと髪や肌は雪のように白く、黒いゴシック服と対比になっている。何も喋らなければ、高貴なる家の令嬢だと言われても騙されるだろう。


「アルファ様、ご機嫌麗しゅうございますわ!」


クイーンは、轢かれたカエルのように下敷きになっている俺の上で、貴族流の礼をした。


「それで、新入りの方はどちらにいらっしゃいますの?」


「ああ。今、踏んでるよ」


アルファは、これがいつものことだと言わんばかりの口調で話す。ジャックがやれやれ、といった感じのジト目でクイーンを見ている。


「え?…あ!?あ、あ、あらまぁこれは私ったらアルファ様のご客人になんてことを、大変失礼いたしましたわ」


地面と一体化しかけていた俺の存在に気づいたクイーンは、ふわっとその体をどけた。


「いえ、全然大丈夫ですよ。軽かったですし」


怒りのラインを通り越して虚無になった俺は、仏のような笑みを浮かべ、ホコリを払った。いや、ホコリを失ったと言うべきか。


クイーンは俺の方を向き、スカートの裾を摘みながら、うやうやしく膝をかがめた。


「初めまして、私の名前はクイーンですわ。お名前を教えていただけますか?」


「あ、ああ、俺の名前はエースです。よろしく」


俺は、この世界にしては珍しくまともな挨拶ができたことに驚いた。


ごほん。

すこし様子を見ていたアルファは、仕切り直すように咳払いをした。


「さて、これからジャックとクイーンは、エース君を含めた三人でスリーマンセルを組んでもらう」


「スリーマンセルというのはつまり?」


「ああ、クイーン。君とジャック、エースを含めた三人組のチームを作るってことだ。新入りは、まだこの世界のことをわかっていない。だから、君たちが引っ張って欲しいのだ」


アルファは命令口調で二人に言う。

それから、俺の方を向いてアイコンタクトをとってきた。


(この2人が素晴らしい教官?ろくにリーダー経験とか、教えるつもりとかなさそうだが…)



アルファは、俺に対して意味深な視線を送っている。


そうか。なるほど、話が読めてきたぞ。


この二人の仲裁役になれってことか。実力は申し分ないが、二人ともチームを組めなさそうだしな。


そして、同時に俺が彼らから、この世界のルールを教えてもらう。一石二鳥だ。


これも、俺のパーフェクトコ(タバコ)ミュニケーションを鑑みてのことだろう。


(よし、彼女の期待に添えるよう頑張ろう)


そんな俺をよそに、ジャックは腕を組みながら不機嫌そうにしている。


「僕は嫌だ。こんな雑魚そうな奴となんて。それに、頭のおかしいクイーンとは組めない」


雑魚そうなやつ…はっきり言うね。

けど確かに、俺はお前が投げてた大男を投げれる自信がない。


「失礼ですわね!誰の頭がおかしいですって!」


ジャックの発言に、クイーンが噛みつく。


「お前に決まってるだろ。年中ずっと同じ服着やがって。屋内でも日傘してんの意味不明だしな」


うーむ。これは擁護できないパンチが入った。

アルファがほろ苦い顔をしてジャックを見ている。


「なッ!?なんですって〜〜〜ッ!?」


「まあまあ二人とも、喧嘩はそこまでにしましょうよ」


俺がいがみあう二人の仲裁に入るために、なんの気なくジャックの肩をポン、と触ったとき、それは起こった。


ジャックが、一瞬動きを止めたかと思うと、こめかみに血管を浮かせ始めた。バリバリと、黒い雷鳴のようなものが走る。

俺の額からゆっくり血の気が引いていく。まずい。

ジャックは俺の腕をガシッと掴んだ。


「お前。気安く触れるなよ。殺すぞ」


凄まじい怒気がジャックから放たれる。ぎゅうと握りしめられた俺の手は、青くなりながらピクピク痙攣していく。


ジャックの腕は、俺と比べて同じか少し細いくらいで、そこまで太いわけじゃない。だが。


(ぐあああああっっ!!!なんだこの力…!?)


巨大なペンチに挟まれているかのような怪力が、俺の腕にのしかかる。

泣きそうになりながら悶絶していると、アルファが止めに入った。


「そこまでだジャック!私の命令を無視するのか!」


ジャックは俺の手をパッと離し、面白くなさそうにふてくされた。アルファでも、御しきれてないらしい。


「すまない、エース。この子達は特殊な力を持っているからか、血気盛んでね」


倒れた俺に、アルファが手を差し伸べてくれた。


「す…少し驚きましたが、問題ありませんよ」


おい、血気盛んとかいうレベルじゃねーぞ。

たぶん、さっき腕を掴まれた瞬間、折れてた。


ガーネットの「骨を繋げておいた」という声が聞こえてきたからな。こんなことまでしてくれるのか、赤血の盟主は。今度出てきたら褒めてやらないとな。



(しかし…どうしたらいいこれは)


プライドが高く、協調性のないジャック。

落ち着きがなくて、こだわりの強いクイーン。


才能があるゆえに大人でも手を焼く二人だ。

この子たちをどうやってまとめればいい。



(流れに身を任せるしかないか)


今はひとまず、関係が壊れないように努めよう。


ーーー


食堂で昼食を終えた後、俺はアルファと二人で、海が見える展望台に来た。風が心地いい。今は秋なのでちょうどいい日差しだ。


アルファは、柵に腕を乗せている。


そうして、しばらくの間たそがれていた彼女だったが、やがて決心がついたように、一言こぼした。


「あの子たちは、孤児でね」


俺がふかしていると、彼女が口に咥えたタバコを出してきたので、火をつけてやった。


「ジャックは戦災孤児、クイーンは怪異の呪いによって没落した名家の子供だ。故に、親がいない」


アルファは遠くを見つめている。

親がいない、か。

親に恵まれた俺にはわからないことだ。


「私はあの子たちの親になってやりたかった。しかし、私では力不足だった。情けないことだ。私は、自分の周りにいる人間を幸せにしてやれない」


何か慰めを言おうと思ったが、軽い言葉では、彼女の気持ちを逆撫でするだけだろう。


「エース。ジャックやクイーンの衝動を抑えられるのは、寛大な心のある君が適任だとおもっている」


アルファは、俺の方に向き直った。


「これは初任務であり、私からの頼みだ。あの子たちの面倒を見てやってはくれないだろうか」


ここ数日で随分と信用するな。それは素直に嬉しい。

しかしこれは打算もあってのことなのだろう。


もし俺が暴走したとしても、実力のある二人なら時間稼ぎ、あるいは拘束ができる。


監視目的としても、アルファ不在の最小人数で行えるのは大きい。最初、ダークに引き継ぎしようとしてたのはそういう意図だろう。


同時に俺の人間性と有用性を見極められる。仮に俺が仲良くなるのに失敗しようが、それを気に病むような二人ではない。


フン、いいぜ。ちょうど、この組織での発言力が欲しいと思っていたところだ。


私兵団の精鋭たちですら宥められない暴れ馬2人を抑えたとなれば、俺を見る目も変わるはずだ。


それに俺にはガーネットがいる。ジャックに腕を何回ポキられようが、痛みに耐えれば問題ない。


「委細承知しました。俺に任せてください」


俺は真剣な眼差しでアルファの目を見つめた。


「ありがとう」



アルファの瞳は、透き通るような切ない紫だった。

冗長なため一部割愛しました。2025/09/30

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