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第5話 〈閃光の剣〉フェリナ


 新人さんですか? と訊かれたので、俺は素直に答える。


「え、えっと……そうですね。一週間前から働き始めました」

「なるほど。そうだったんですね」


 フェリナはニコッと笑みを浮かべる。


 俺と一緒にパーティを組んでいた五年前とは異なり、フェリナも大人へと成長していた。フェリナは俺の一つ下の十四歳だった。


 今は十九歳になり、俺の容姿は原型もないほどに変貌してしまったが、フェリナは当時の面影を残していた。あの時は可愛い、という印象の方が強かったが今は美人と形容する方が正しいだろう。


 服装は冒険者用の装備をしていた。上半身は、深い群青色のジャケット型軽装鎧。下半身は脚の動きが制限されないように、太腿と膝を守る防具は流線型に研磨されている。


 そうか。まだフェリナは冒険者を続けていたのか。でも……彼女はもしかして俺を裏切ったのだろうか。そんな思考がどうしても過ってしまう。


「私はフェリナと申します」

「……ハルです」

「ハルさんですか。いいお名前ですね」


 自己紹介をする。俺はもう、過去は切り捨てたんだ。だからここでは、ハルとしてフェリナと接する。


 そして、リセルがこそっと耳打ちをしてくる。


「ハルさん。前言っていた、有名な方ですよ! フェリナさん、王都ではすごい有名な冒険者なんですよ!」

「なるほど」


 そうか。フェリナはちゃんと名声を得ているのか。俺はただ、当時の仲間が元気にしているだけで十分だった。〈勇者ハルト〉は死んだ。だから別に自分の素性を明かすつもりもないし、真実を追いかけるつもりもない。


 俺たちはもう──別々の道を進んでいるんだから。


「これでお会計お願いします」

「はい」


 フェリナがトレーにパンを乗せてやって来る。会計処理をしている最中、なぜか彼女はじっと俺の顔を見つめてくる。


「あの……」

「どうかしましたか?」

「誰かに似ているって、言われたことはありませんか?」

「──いえ。特にありませんね」


 俺は至って普通にその言葉に応じる。今の俺は、当時の面影なんて全くないはずだ。


「そうですか……流石に気のせいですよね」

 

 フェリナはしゅんとした表情をして落ち込んだ様子を見せる。


「フェリナさん。今日もお墓参りですか?」

「はい。先輩はパンが好きでしたから。きっと、ここのお店のパンは気に入っていると思います」


 お墓参り……? え? 俺の墓があるのか? いやでも、五年もあのダンジョンから帰って来ないとなると、流石に死んだと思うか……今こうして俺は生きているのに、自分の墓があるなんて不思議な気分だった。


「では、私はこれで。また来ますね」

「はい。ご来店、ありがとうございましたー!」

「ありがとうございました」


 俺とリセルは二人で深く頭を下げて見送りをする。もしかしたら俺は仲間に裏切られたのかもしれない。そう思っていたが先ほどの様子を見るに、そうじゃないのか? じゃあ、俺はどうして大罪人扱いに……? いや、もう過去は切り捨てたんだ。余計なことは考えないようにしよう。


 俺は〈パン屋のハル〉。それだけで十分だし、これ以上望むものもない。ただ俺は一応気になったので、フィリナのことを尋ねる。


「リセル。その……フェリナさんはよく来るのか?」

「そうですね。月に一度はご来店しますね。昔、大切な仲間を無くしてしまったそうで……そのお供物として、うちのパンを購入してくださるんです」

「……そうか」


 まぁ、月に一度会う程度ならいいだろう。そう思っていたのだが──。




「あ。ハルさん。おはようございます」

「お、おはようございます」


 翌日。なぜか開店とほぼ同時にフェリナはやって来た。え……月に一度程度の頻度じゃなかったのか……?


「リセルに月に一度程度のご来店と聞いていたので、少し驚きました」

「今日は自分用のパンを買いにきました。昨日は先輩のお墓参りだったので。えっと……先輩というのは、私の元パーティメンバーですね」

「な、なるほど」


 そう。フェリナは俺のことを先輩と呼んで慕ってくれていた。今でも忘れないでくれているのは嬉しいが、何だろう。彼女はじっと俺のことを見つめてくる。それの視線は何かを疑っているかのような。


「今日はハルさんのオススメのパンにしようかと思って。お願いできますか?」

「そ、そうですか。では──」


 俺は大将が最近新しく作った、〈竜のしっぽパン〉〈深紅のロゼ・ブレッド〉〈はちみつバターパン〉〈森のきのこパン〉を選択した。大将はレギュラーメニューに加えて、定期的に新しいパンを作っている。今回はそれを選んでみることにした。俺も試食したが、どれもまーじで美味い。


「こちらでいかがでしょうか?」

「はい。では、それでお会計をお願いします」

「分かりました」


 会計をしている最中、フェリナが俺にあることを訊いてくる。


「ハルさんは──もしかして、元々冒険者をしていたのですか?」

「はい。そうですね。少し大きな傷を負って引退しましたが」

「なるほど。でも、どうしてパン屋に?」

「まぁ、興味があったからですかね」

「そうなんですねぇ」


 一見すればただのなんてことはない会話。でも、どうしてだろう。俺は何かを探られているような──そんな気がした。


「では、私はこれで。次は一ヶ月後にまた来ると思います」

「分かりました。またのご来店、お待ちしております」


 俺は丁寧に頭を下げてフェリナの対応を終える。まぁ……別に気のせいだよな。ともかく、今後もフェリナは来店するようなので、そこは色々と考えておかないとな。



 いつものように仕事をしていると、リセルに声をかけられる。その手にはパンの入った紙袋を持っていた。


「ハルさん。これを教会に届けてくれませんか?」

「配達か?」

「はい。少し歩きますが、大丈夫ですか?」

「あぁ。体力には自信があるし、教会程度の距離感なら問題はない」

「ハルさんはやっぱり頼りになりますね! ありがとうございます!」


 パン屋では近隣への配達もしているらしく、俺はリセルにそう頼まれた。今は時間帯的に人もあまり多くないので、ちょうどいい。教会の位置は一応は把握している。


 町の北端、森へと続く古い石畳の小道を進むと、丘の上にひっそりと佇む教会がある。背の高い木々に囲まれ、陽が差す時間は限られている。だが、その静けさがかえって神聖さを引き立てていた。


 ──ローテン小教会。


 建物は白い漆喰と灰色石で造られた質素な造りをしていた。扉を開けると、木製の長椅子が十列、中央に細い通路が伸びており、奥には小さな祭壇がある。


 そこには一人の──女性がいた。淡い金色の髪は肩口で緩やかに波打ち、陽の下では溶けるように淡く光る。瞳も髪と同様に黄金に輝いている。白と黒を基調とした修道服は、裾や袖は少し擦れている。


 微かに面影がある。いや……間違いない。彼女はかつての仲間だった〈聖女エステル〉だ。彼女は俺のことを視認すると、ニコリと微笑んでこう──言ってきた。



「あなたは──神を信じますか?」


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