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第18話 白夜の果てに


白夜千剣アルリア──発動アクティベート


 俺の背後に白と黒の剣が顕現する。俺は右手に黒剣を握り、それを上段に構える。


「固有魔法……か? ククク。いいね。想像以上に面白くなってきたな」


 だらりと腕の力を抜いてゼファは姿勢を低くし、その漆黒の双剣を構える。


 特異魔道具アーティファクトということは、その魔道具には特別な魔法式が刻まれている。そして、俺はその魔法式を知らない上に対人戦は五年ぶり。


 確かに〈アビスサンクタム〉ではSランク以上の魔物と死闘を繰り広げていたが、やはり魔物と人間では戦闘方法が異なる。ブランクはあるが──まずは相手の魔法式を理解しなければならない。


「さぁ、その魔法がハッタリじゃないことを見せてみろよ!!」


 ゼファは身体強化をして俺に迫ってくる。流石に速いな……おそらく、纏っている漆黒の魔力のおかげだろうが。まず、あの双翼蝕剣イクリプスは使用者の身体能力を向上させることは分かった。


 俺は迫るゼファの動きを目で追い、双剣での連続攻撃を受け流していく。やはり──双翼蝕剣イクリプスによる身体能力の向上は尋常ではないな。今の俺は、防戦一方になっていく。


「ははは! 守ってばかりか!? おい……!!」


 ゼファは自分が押している事を理解して、さらに加速していく。そして、ゼファの漆黒の刃が俺の頬に掠った。


 鮮血。頬から血液が舞うと同時に、あろうことかその血液は双翼蝕剣イクリプスに吸収されていった。なるほどな。真の能力は──そこにあるのか。


「クク……ははは! 俺様の双翼蝕剣イクリプスに敵う奴なんていないんだよおおおおおおおおおお!!」


 俺を追い詰めているゼファが、次に狙うのは脚だった。脚を斬って動けないようにして、なぶり殺しにするつもりなんだろうが──そんな姑息な手は読めている。


 俺は半身だけズラしてその攻撃を躱して、上段から黒剣を振り下ろすが──ゼファはそれに反応していたが。


「ガハッ……!!」


 だが、俺はそれすらも読んでいる。ガラ空きになったゼファの横腹に蹴りを叩き込み、後方へと弾き飛ばしていく。


 ただ相手も受身を取っていて、ダメージはそれほど大きくはない。


「テメェ……」


 ゼファも一連の戦闘で、俺が敢えて防御に回っていたことを理解したようで、先ほどよりも余裕は無さそうだった。



 互いにまだ──真価は発揮していない。



「ゼファ。お前は強いよ。でも、強いのはお前自身ではない。その特異魔道具アーティファクトありきの強さだ。五年前から変わらないな、お前は」

「ふざけたことをほざいてんじゃねぇ! いいだろう。俺様に本気を出させたことを、後悔させてやる!」


 瞬間。先ほどまで溢れ出していた漆黒の魔力が緋色に染まっていく。いいだろう。ならば、俺も同様に能力を解放しようか。



黒剣アテル白剣アルバ──解放リリース



 右手には黒剣アテルを。左手には白剣アルバを。両手に黒白の剣を握り、俺はゼファと相対する。


 刹那。先ほどの倍以上の速さでゼファが肉薄してくるが、俺はその攻撃を白剣アルバで受ける。


「ははは! 俺の攻撃を受けたな! 双翼蝕剣イクリプスはその対象の物質を吸収して還元する。お前の魔法は──俺が喰らう!! 受けた時点で、お前の負けだ!!」


 勝利を確信しているようだが──俺は白剣アルバの魔法式を走らせる。



「第一基点:構造解析。第二基点:魔法式認識。第三基点:干渉領域同調──位相中和」



 白剣アルバがまるで月光を帯びるように発光していき、俺は双翼蝕剣イクリプスの魔法式を完全に中和。その場にはパッと白い粒子が舞い上がる。


「──は?」


 呆然としているゼファだが、俺はさらに追加で魔法式を走らせる。



「第一基点:構造切断。第二基点:干渉侵食。第三基点:崩壊誘導──位相衝突」



 黒剣アテルがまるで夜を纏うような暗い影をまとい、俺はゼファ本人ではなく双翼蝕剣イクリプスを対象にして黒剣アテルを振り下ろした。


「ぐっ! ぐうううっ……!!!」


 ゼファは俺の攻撃を受け止めたが、あまりの重さに再び弾き飛ばされていく。だが、今の一連の流れで既に勝敗はついた。


 ここからゼファが、俺に勝つことは万が一にもあり得ない。


「身体強化が、弱まっていく……だと?」

「理解したようだな」


 呆然としているゼファに向かって俺は黒剣アテル白剣アルバを握りながら、歩み進めていく。


白剣アルバは解析と中和。お前の特異魔道具アーティファクトの魔法式を完全に無効化した。黒剣アテルは侵食と崩壊。お前の頼りにしている双翼蝕剣それは緩やかに崩壊していくだけだ」

「ばっ……馬鹿な……!! そんな魔法は聞いたことがない! デタラメ過ぎる……! いや待て。この魔力兆候に……〈五年前から変わらない〉……? お前まさか、あの《《ハルト》》なのか!!?」

「あぁ。地獄の底から戻ってきたのさ」

「く、クソがああああああ! お前がいなくなって俺様の時代がやってきたのに、クソおおおおおおおおおお!」


 ゼファはそれでも双翼蝕剣イクリプスに頼るしかないが、そこから先の戦闘はもはや蹂躙だった。


 徐々に弱まっていくゼファを俺の確実に追い詰めていく。そして、ついに彼はドサッと尻餅をついた。俺はその喉元に黒剣アテルを突きつける。


「決着だ」

「クク……あぁ! 分かったよ! お前の方が強いのは認めてやる! だがな……何も勝負はこれだけで決まるもんじゃないだろッ!!」


 ゼファは最後の力を振り絞って魔力を放出。彼が向かった先は俺ではなく、リセルだった。彼女を敢えて放置していたのは保険だったんだろう。下衆の考えることなど、手に取るように分かるさ。



「──あぁ。分かっているさ。追い詰めた先に、お前が取る行動なんて」


 俺は背後に浮遊して控えていた黒剣アテルをゼファへと射出。彼の手足を縫い止めるように、躊躇なく黒剣アテルを貫通させた。


「グアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 あまりの痛みに絶叫し、鮮血が舞う。その凶刃はリセルに届くことはなかった。


 ゼファはその場に倒れ込み、血溜まりがじわじわと広がっていく。俺はもはや死に体となった彼の元へと、近寄っていく。


 何も感じない。何の感情も湧いてこない。〈アビスサンクタム〉で魔物を屠り続けたのと同じように、ただ冷徹に障害を処理するだけだ。


「く、クソ!! はぁ……はぁ……はぁ……うっ!」


 俺がトドメを刺そうとすると、ゼファは急に苦しそうに胸を押さえた。同時に双翼蝕剣イクリプスから真っ赤な魔力が溢れ出していき、それはゼファに纏うのではなく──まるで双翼蝕剣イクリプスがゼファのことを捕食しているかのようだった。


「ぐ、グアアアアアアアアアアアアア!! な、なんだコレは……!! い、嫌だ……! こんなところで死にたくない! 死にたくない! ハルト──助けてくれ!」


 すがるような瞳で手を伸ばしてくるゼファだが、俺はその手を無慈悲に黒剣アテルで切断した。


「ゼファ。さらばだ──」

「う、うわあああアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 それがゼファの最期の言葉になった。


 俺はゼファを吸収した双翼蝕剣イクリプスを、即座に黒剣アテルで斬り裂いた。すると黒剣アテルの崩壊因子が流れ込んでいき、完全に崩壊。その場にはまるで雪のようにパラパラと漆黒の粒子が舞うのみ。


「……終わったか」


 白夜千剣アルリアを解除。俺はリセルの元へと向かう。


「リセル。大丈夫か?」

「は、はい……」


 俺の手を取ってリセルは立ち上がる。この状況を理解していないようで、彼女は放心している様子だった。


「あ、あの人は……?」

「──殺したよ」

「そう……そうですか」


 そうだ。俺は明確な殺意をもって、ゼファを殺した。最後は自滅するような形になったが、俺がトドメを刺した。完全に殺人鬼に堕ちていたあいつを、生かしておくわけにはいかなかった。


 そのことに後悔はない。ないが……俺はもう、リセルと一緒にいることはできないだろう。


 ここまでの力を見せてしまった。目の前で人を殺してしまった。そして──何よりも俺は〈元冒険者のハル〉と偽って、パン屋で働いていたから。


「ハルさん……その。あなたは一体……」

「リセル。帰ろう。そこで話をするよ。俺のことを、ちゃんと話すよ──」





 俺とリセルは店に戻ってきた。帰り道で会話は一切なかった。ただリセルの小さな手を握って一緒に歩みを進めるだけだった。


 そして店の扉を開けると、大将が慌てた様子で声をかけてくる。


「リセル……! 無事だったのか!」

「うん……! お父さん!」


 二人はぎゅっと抱きしめ合う。助けることができた良かった。二人の様子を見て、俺はそう思うが……改めて、リセルと大将に話をすることにした。


「リセル。大将。二人にお話があります」


 俺たちはリビングへと移動する。いつもは談笑をしながら食事をしている空間だが、今は静寂に満たされていた。緊張感が漂う。二人も俺が何か大切なことを言うつもりだと分かっているようだった。


「ハル。話とはなんだ?」

「まず、そうですね。今まで申し訳ありませんでした」


 俺は深く、テーブルに頭をつける勢いで頭を下げた。誠心誠意、謝罪の意を示す。


「何のことだ?」

「俺は〈元冒険者のハル〉と偽って、ここに就職しました。俺は、二人のことを騙していたんです」


 大将は眉間に皺を寄せ、リセルは「え……?」と声を漏らす。


 もう覚悟はできていた。そして、俺はついに──自分の素性を明かすことにした。




「俺の本当の名前は──《《ハルト》》。〈勇者ハルト〉。それが、俺の本当の姿です」


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